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アイテムBOXに北海道丸ごと入っているので、異世界でも食べるものには困りません  作者: 柚木 冬


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77*エンジーナに連れていって

 今日は朝からジェマの様子がおかしい。


 仕事はきちんとしているのだが、私と目が合うと目を逸らす。


 何かしたか? 嫌われたか? と動揺していたら、急にニコッと微笑まれたりする。

 嫌われたわけではないのか?

 うーん、思い当たることは特にない。


 最近、ジェマに屋台の表の仕事を任せきりで、裏の用心棒ポジションをしていた位か。

 あの笑みは『お前、もっと働けよ』と云う意味なのかもしれない。


 慌てて商品の補充をする私であった。



 帰り道にようやく理由が解った。

「あの、聞きました。ブルーノ商店のおかみさんの件」


「ああそうか、イレーネさんに聞いた?」


 そういえば昨日冒険者ギルドで着替えの後、イレーネさんとジェマが話していたから、私は先に帰ってきたんだった。

 頭の中帰還魔法ばっかりだったからね。


「あの男にもよく殴られてたので、捕まって良かったです」

「はあ?! あいつもジェマに酷いことしてたの?」


 ぶん殴ってやれば良かった。手が滑ったフリをして、風魔法で壁に叩きつけておけば良かった。


「もう大丈夫です。カノンさんが捕まえてくれたから。もうこの町にはおかみさんもあの男も帰って来ないって聞きました。ありがとうございました」


 これから斬首刑になるまでは聞いてないようだ。イレーネさんありがとう。子供には刺激強いもんね。私にもぼかしておいて欲しかったよ。


「いいの? ジェマが殴ってやりたかったら、どこにいるか探して連れていってあげるよ」

「いいです。二度と会いたくないです」


「そうだね、それでいいと思う。忘れろって言っても無理だろうけど、これから沢山の思い出が色々重なっていったら、思い出すことも少なくなってくるから。これからはきっと良いことがあるよ」


「もういいことありました。雇って貰えて、美味しいもの沢山貰って、服まで貰って。あの人たち捕まえてくれて」


「ジェマには悪いけど、たまたまだったのよ。うちに入った窃盗犯捕まえたらあの男で、指示したのがヒス婆だったってだけ。二人で罪の擦り付け合いを始めて、色々明るみになったらしい。だから、たまたまだから、ありがとう言って貰う資格はないよ」


「何言ってるんですか。カノンさんが傷も治してくれたんですよ。本当に命の恩人です」


「ひゃー命の恩人は本当に勘弁してー。ジェマがいい子だったから治したんだよ、たまたま治癒魔法使えたからね。みんなジェマのこと大好きなんだよ。イレーネさんもギルド長も隣の店のクラリッサさんも向かいの店のおばちゃんたちも。常連のドンナさんたちも。みんなジェマのこと大切に思ってるからね」


「そうでしょうか。でもイレーネさんには色々気にして貰ってます。この仕事も求人票貼る前に直接持って来てくれたんですよ」


 そうだったのか。求人票貼ったって言ってたよね? まあ、いいんだけど。働き者の売り子に出会えたし。


「うーん、短期の仕事でごめんね。もっと雇ってあげられたら良かったんだけど」


「来月からどこに行くんですか?」

「まずウベールに行って、それからレインディナだね。遠いよー」


「あの……」

 言いかけてジェマが下を向いて黙ってしまった。歩みも止まる。


「うん? どうした?」

 ジェマが動かない。


「どうしたの? 言いたいことあったら言っていいよ」


「私を……私をエンジーナに連れていってくれませんか?!」


 意を決したように顔を上げて叫ぶ。

 通りかかった人たちも、ちらりとジェマを見て行った。


「何でもします! 炊事も洗濯も掃除も。カノンさんに比べたら全然大したことは出来ないですが、何でも頑張ります。馬車代とか宿代とかは、持っている分は払いますが、足りない分は後から働いて必ず返します。何年もかかっちゃうかも知れないけど、宜しくお願いします!」


 ジェマは今にも泣きそうな顔で私を見ている。言葉には必死さが伝わってきた。


「あー、とりあえず道端じゃ何だから、ギルドに行こうか」

「はい」


 冒険者ギルドはすぐそこだった。カウンターの脇を通って、いつも着替えている女子更衣室に向かった。


 顔を真っ赤にしているジェマを、遠くでイレーネさんが心配そうな顔をしているのが見えた。


 とりあえず椅子に座らせて、ティッシュとりんごジュースを渡す。

 鼻をかみながら、ジェマが話す。いつもティッシュの品質の良さに恐れ多いと言うジェマだが、今日は気にしている余裕も無いようだ。



「お父さんの妹がエンジーナにいるんです。お父さんが死んだことずっと知らせてなくて。昔アリッチェに住んでいて、子供の頃よく遊んで貰いました、優しいおばさんです」


「そうなんだ、親戚がいるんならここより安心だよね」


「お父さんのこと知らせたいのと、おばさんに渡してくれって頼まれた物があって。もう二年もたつのに、全然エンジーナ行きのお金が溜まらなくって。近くだったら荷馬車に乗せてあげるって人もいたけど、遠いから無理だって言われて。カノンさんにお願いすることじゃないんですけど」

 話しながら泣き続けている。


「エンジーナってどこにあるの?」

 近くだったら連れていってあげたいけど、遠いのは色々問題あるよなー。


 タブレットで地図を調べたら、レインディナに行く道の海岸沿いにある町だった。

 方角は確かに一緒だが、ここからレインディナまでの距離の2/3あたりにある。レインディナまで1,000kmあるんじゃなかったっけ? そうするとここから700km近くあるってこと?


「おー、遠いねー。馬車だと10日位かかるかな?」

「もっともっとかかるそうです」


 地球と違って平坦な道じゃないだろうし、船の方が速いかもしれないな。

 車やボートにジェマを乗せる訳にはいかないが、一緒に馬車や徒歩で行くのは絶対に無理(私が)。


 馬車代を出して一人でジェマを送るのは不安だなぁ。冒険者ギルドで安心出来る人をジェマの護衛につけようかな。


 BOXに人間も入るんだったよね。入れられた人間は一瞬としか感じないらしいから、ジェマにBOXに入って貰って、私だけ車かボートでエンジーナに行って、着いたらBOXから出て来て貰うのは?


 非常に怪しまれるだろうけど、魔法だよって誤魔化せないかな。


「うーん、連れていってあげたいんだけど、まずウベールに行こうと思ってるんだ。多分一ヶ月位滞在すると思う。そしてその後もあちこち立ち寄ると思うから、エンジーナに着くのはいつになるか解らないよ。半年後や一年後かもしれない」


「それでもいいです」


「早く行きたいんでしょう?」


「おばさんに渡すのは、お父さんのお父さんの形見なんです。会ったことないけど、私のおじいちゃんの。早く渡さないとならない物じゃないから、一年かかっても大丈夫です。だって私一人だったら、何十年かかっても行けないかもしれない」

 また鼻をグスンと啜るジェマ。


「渡すだけならギルドに依頼する手もあるよ」

「知らない人は不安です!」

 そうだよね。形見だと値打ち物かもしれないし。


「それにやっぱりおばさんにも会いたいし。カノンさんに無理なお願いしてるの解ってます。ダメだったら断ってください。でももし……もし良かったら、何でもお手伝いするので連れて行ってください!」


 はあ、困った。


「うん、ジェマの気持ちと事情はよく解った。でもまだ返事は出来ない。色々調べなきゃならないこと沢山あるから。その上で断ることになるかもしれないけど、そのときはごめんね。考えてみるから」


「……解りました。よろしくお願いします」

 絞り出すようなジェマの声。


 困ったなー。


 ジェマの頭をポンポン叩いて、服を着替えさせる。



 多分昨日この件も聞いてたんだろう。

 イレーネさんが帰り際も心配そうな顔で見ていたが、今のところ何も伝えられることは無い。


 まだ鼻をグズっているジェマの手を引いて、ギルドを出る。


 いつもの様に日曜分も追加した食料を渡して、今日はそのままジェマを返した。


 物語がようやく動き始めるようです。


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