76*足の裏から魔力を出せって?
火が点いたのは、魔力過多に依るものだったらしい。
魔力がある個所で溜まり過ぎたため起きた事象で、魔法陣の構文に余計な記述があったそうだ。
なんだ、私のせいじゃなかったんじゃん、プンプン。
それを取り除いた魔法陣にまた魔力を流すも、それでも最後まで流れていかない。
魔法の師匠甲田さんに依ると、どうも私の魔力が一定量で流れていないそうだ。
今まで瞬時に魔力を発射することを重視してきたせいで、『ゆっくり持続して長く』が不得手になっているようだ。
確かに、魔熊を一撃で仕留めることを最優先に考えていたからな。
そういう意味で考えると、浄化魔法や治癒魔法を広範囲に大きな効果で広げてしまったのも、瞬時に魔力を発射していたからだろう。
物凄い魔力量で一気に発射すれば、そりゃ曲がった腰も治るよね。
と云うことで、初心にかえる意味でも一定量で細く長く魔力を出す練習を始める。
ちょっとでも揺らぎがあると、甲田さんからチェックが入る。
言葉遣いは丁寧だが、梶山船長並みにスパルタだ。
1分間継続すると云うミッションを達成出来なかったので、明日に続く。
帰還魔法の習得への道は長いぜ。
新商品のピアスが売れているようで、ジェマがバタバタしているのに、私は後ろで魔力の放出を続けていた。
だってジェマに「休んででください」って言われたし。さすがに人だかりが出来たときにはヘルプしたよ。
後ろで何か企んでそうなどっかの商人集団にも、細く長くまとわりつく熱波をお見舞いしておいた。
これいいな。火弾とか撃ったら攻撃魔法でしょっぴかれる恐れがあるけど、さほど熱くない熱波なら「なんか暑いですね」で誤魔化せる。
対人魔法を磨きたいので、そこに居続けて貰えないかな。
でも残念ながら早々に立ち去ってしまったので、練習ならず。
次の商人集団を待とう。
残念ながらその後は良い練習相手が出なかったが、昨日よりは細く長くが進歩したような気がする。
帰って甲田さんに練習の成果を見せたら、「まあまあですね」と無表情で言われた。
確認のため、新しい絨毯の自宅2を外の犬小屋に、自宅1を小屋の室内に置いて、魔法陣の上に乗って魔力をゆっくり流していく。
しかし最後まで到達する前に、やっぱり魔力が途切れてしまった。
「やっぱり持続力が足りないのかな。1分以上出来ないとダメですよね」
「うーん、こっちで魔力量を見ている限りは、必要量は超えていると思うのですが」
「どうしてでしょう」
「魔法陣をじっくり見たいので、もう一度流してみてください」
「はい、やってみます」
この流れを5回繰り返して、甲田さんがやっと原因に気付いたようだ。
「解りました。放出した魔力が魔法陣だけに流れず、空中に霧散しています」
「何で? もったいない!」
「カノンさんの魔力が全身から放出されているためです。足元から放出するようにしてください」
エ? ナンデスッテ?
今までの魔力は、主に手の指からビュンッと出していた。保護膜や索敵は全身からボワッと出していた。
足の裏に魔力溜めて出したことなんて無いよ。足の裏から何か出そうと思ったこともないよ。そもそも足の裏の需要あるの?
あ、飛行魔法? 昔のアニメで足の裏から出して飛んでいるロボットがいたね。
あれは魔力じゃないだろうけど、ジェットエンジン的な?
「もしかして飛行魔法は足の裏から魔力を放出するんですか?」
「飛行魔法? 知りませんが」
「箒ですか?」
「そんな魔道具も知らないです」
飛行魔法も魔道具も無いのか、ロマンが無いぞ。
でも高所恐怖症だから、あっても使えないと思うけど。
足の裏から魔力……キックとかで使うかな?
足の裏に集中した記憶なんて、前世に於いても無かったと思うなぁ。小指ぶつけたとき位だ。
「これじゃダメですか?」
しゃがんで絨毯に手をついた。その状態で掌から魔力を細く長く流していく。
さっきよりかなり早いスピードで魔法陣の色が変わっていく。
空中に霧散せずに、掌から魔力が流れているようだ。
ただ絨毯の上で座って手をついているので、自分の体で魔法陣が見えん。最後まで行ったのかどうか、イチイチ体をずらさないと見えない。
何とか最後まで魔力が届いたようだ。えーと、なんか言うんだっけ?
そうだ。
「帰還!」
ふわっと体が浮いたと思った次の瞬間、小屋の外にいた。
犬小屋の自宅2の絨毯の上に座っていた。
「おーーー、やったーーー! 出来ましたよー」
タブレットを小屋の中に置いてきてしまったので、甲田さんには見えていないだろう。
だからもう一度やってみよう。
自宅2の絨毯に手を着いて魔力を流す。そして「帰還!」
小屋の中に戻って来た。
「うっわー、すごーい! 見ました? 見ました? 帰還魔法出来ましたよ!」
「うん、消えたね」
めちゃくちゃハイテンションな私に対し、とてもローテンションな甲田さん。
嬉しいのでしばらくキャーキャーとひとしきり騒いでから、やっと落ち着いた。
多分絨毯を作る過程で何度もテストしただろうから、甲田さんにとっては見慣れた光景だったんだろうな。
でもこっちは何度やっても出来なかったから、めっちゃくちゃ嬉しいんだもん。
体もバラバラになっていないっぽい。
「これでどこへも行けますね」
「帰って来るだけですよ。両方に魔法陣無いとダメだし」
「そうですね。3か所に魔法陣があると移動できるんですか?」
「今の仕組みだと1対1しか移動できないから、自宅にA行きとB行きの魔法陣を2つ置くなら出来る。AとBにも2つずつ置かないとね」
「場所取りますね。将来的には10か所位行き来したかったんですけど」
「それはちょっと欲張りです。家じゅう魔法陣だらけになりますね」
「帰還魔法陣と、転移先/転移元の位置設定の魔法陣を2つ作るのは? プログラムのサブルーチンみたいなやつ。帰還魔法陣は書くこと多いから大きい絨毯で、位置魔法陣は小さい絨毯を沢山、私が『レインディナ 帰還』と唱えると、レインディナと云う名前のサブルーチン位置魔法陣を呼びに行って、帰還魔法陣に代入するみたいなの」
「ほう。ちょっと出来るかどうか解りませんが、そういう魔法陣見たことありますね」
「おお! でも絨毯ちょっと小さくなるだけで、家じゅう魔法陣だらけになるのは変わらないんですけどね」
「もし出来たら魔法陣も省力化できそうです。ちょっとお時間ください。検討するので」
「宜しくお願いします! あと足じゃなくて手から魔力流す魔法陣があると、大変嬉しいです」
「はは、それはまだ出来るか解りません。カノンさんは引き続き、細く長くの練習と、2つの魔法陣での帰還魔法を繰り返し練習してください。今日は上手くいきましたが、魔力を流しすぎるとまた燃えたりするかもしれませんので、魔法陣の耐久試験も兼ねてます。何度飛べるかとか、作動までの時間確認とか、色々な方法で試してみてください。データは取らなくて大丈夫です。こちらで後で録画を確認しますから。庭の方も定点カメラがあるので、タブレットが無くても大丈夫です」
甲田さんは早口で話して、さっと消えた。早く色々実験してみたいに違いない。
こっちもすることは多そうだ。
実際のところ、今はまだ拠点がここしか無いので、帰還魔法使えないのと同じだしね。
でも次の町ウベールで帰還魔法が使える目途が立ったので、また来る可能性を考えて拠点をアリッチェに置いておいた方がいいかも。
この廃倉庫は3ヶ月間しか借りていないし、これだけボロボロだと些か不用心すぎる。
小さな空き家を借りて、保護膜でセキュリティかけておけば十分なのだが、その家で数日過ごさなければならなくなったとき、トイレとかお風呂とか電化製品とか地球レベルの物が無いと私が困る。
この小屋と同じ様な家をもう一つ欲しいなぁ。
そして土地だけ借りて小屋を置き、周りにアイボリーの外壁を建てればいいんじゃないかな。
この町は近くの山で採れるアイボリーの岩で出来ていて、四角い家が多い。土魔法で家を造るのは無理だけど、真四角の外壁だけなら私にも作れる。
よしっ、いいかもしれない。
この倉庫を借りたとき、管理室のおじさんが、いっそ更地にして欲しいみたいなことを言っていた。
その言葉が本当なら、ここに建ててもいいかも。まずは相談に行ってみよう。
普段は住まないんだから、ジェマに住んで貰うのはどうだろうか。すきま風ピューピューの、隣に怖いおじさんがいる家より余程いいだろう。
それで管理人として掃除して貰うことで給与を払うのは? 浄化魔法付与してあるから掃除も不要なんだけどさ。
あーダメかー、地球レベルの家を知られる訳にはいかないか。
ジェマなら言わないと思うけど、誰か家に来たらすぐバレるしなー。うーん、上手くいかない。
私が地球レベルの家に拘り過ぎるから?
だって、風呂なし、ボットントイレ(スライム付き)、水は井戸まで汲みに行く、台所炊事は薪、ベッドは藁、窓はガラスがなく木のみ、だよ。
どう考えても現代人には無理じゃない?
まーまずは帰還魔法の練習が先だね。今考えて仕方ない。
甲田さんがデータ取りたがっていたので、頑張ろう。




