75*魔法の絨毯
さて今日から新商品のピアスが追加だ。
色々選択肢があった方が良いと思い100個並べたが、客が目移りして決められないようだ。
価格帯ごとに15種類ずつ、45個に減らしたら、少しずつ売れ始めた。
ジェマにも高い方の揺れるタイプを装着して貰ったので、「それいいわね」と客も引き寄せられていく。同じ物は無いが、色違いの宝石はあるので、挙って購入してくれた。
逆に私は、シンプルな金色の小さい物だ。「軽いし邪魔にならないですよ」と言うと、働くお母さんたちが1,000デナリ位ならと買ってくれた。
私のイヤーカフを見て欲しいと言う人もいるが、これは運営との通信用だから売れません。
初日からこの売れ行きなら、明日からまた客が増えるかもしれない。
私はもっとゆっくりしたいが、ジェマがやる気なので任せよう。
倉庫に帰ると、入口にメモが貼ってあった。
警備兵事務所からの呼び出しだ。先日の件だとは思うけど、何かあったかな。
冒険者ギルドから懸賞金を貰ったので解決した気でいたが、あれは飽く迄別の事件の手配犯を捕まえたことに依る懸賞金だ。まだ先日の窃盗事件が解決した訳では無かった。黒幕だったヒス婆がその後どうなったかも聞いていない。
「こんにちはー」
事務所に顔を覗かせる。先日見た顔の人がいた。
「あのーメモが貼ってあったので来ました。倉庫侵入BBQコンロ窃盗事件の件です」
「本当にあそこに住んでたのか」
住んでましたよ悪いか。
でもこの人がそう思っているのはテントの方で、実際に住んでいるのは住み心地の良い小屋である。見えないんだから仕方ない。
でも見えたとしても、外見は山小屋だから同じ反応かもしれないけど。
「じゃあ、まず借りていたこれ返しておくな」
「BBQコンロです」
「BBQコンロか」
ちょっと発音が違ったけど許してあげよう。帰って来たBBQコンロをBOXに仕舞う。
「処遇が決定したので、説明するぞ」
捕まった5人は我先にとばかり積極的に自供したらしい。
事の発端は、ブルーノ商店のおかみさん(ヒス婆。本名を聞いたけど覚えていない)が、市場での私の態度に腹を立てた。してもいない万引きを咎めて恥をかかせて、その後通りかかったときに石をぶつけられたそうだ。
「はぁあ?」
「本人の発言だ。こっちも信じちゃいないが、これに関して争う気なら訴えてもいいぞ。ただこの後の話を聞いたら、訴える必要も無いと思うだろうが」
とりあえず話の続きを聞くことにした。
怒ったヒス婆は、用心棒のネヴィオに私を痛めつけて来いと話す。金になりそうな物をいっぱい持っているから、それも全部奪って来いと。
ネヴィオは弟のピーノと他の3人の舎弟を連れて、私が住んでいる倉庫に出掛けた。テント内を物色したが、大した金になりそうなものが無い。BBQコンロと僅かな物を盗んだ。
私がいつまでも戻ってこないので、夜にもう一度来ようと一旦引き上げた。
そして家で寝てたら、警備兵たちがやって来た。
石の箱に入れられて、警備兵事務所までドナドナされた。
「私を襲おうとしてたの? 危なかったー」
「絶対無理だったと思うけどね」
「どうして?」
「いや、何でもない」
既に別の強盗致傷事件で手配されていたネヴィオと他2人は、他にも余罪が数件があり、斬首刑が決定した。
残る2人はヒス婆とネヴィオに折檻され強要されたことが確認出来たので、社会奉仕1年とし国の施設に送られることとなった。
ヒス婆は容疑を否認していたが、ネヴィオに会わせると二人で大喧嘩を始めて、結果色々な犯罪が明るみになった。ヒス婆も斬首刑が決定した。
ヒス婆の夫は行商で留守が多く、全く何も知らなかったらしい。犯罪に加担していないため無罪になったが、店の物はヒス婆による盗品だったり恐喝で手に入れた物だったので、商店は潰れ莫大な借金を背負う羽目になったそうだ。
夫には同情はするけど、そんな妻にした責任もあるかもしれない。
しかし、本当に斬首刑なんだ、怖いな第7。
悪いことする気はないけど、冤罪だって有り得るじゃない。
貴族に逆らったらそれだけで斬首刑とか、本当にありそうだよね、ガクブル。
そのためにはやっぱり魔法を鍛えなければ。すぐに逃げられるように。
「書類の内容に目を通して、間違いないようだったらここにサインして」
「ひえー」
「どうした?」
「何だか私が人を殺すような気がしてサインするのが怖くて」
「いや、それだけ悪いことした奴らだからな。今回の窃盗罪だけだったら斬首刑にはなってないから安心しろ、嬢ちゃんが殺す訳じゃないから。それに捕まえてくれて良かったよ。こいつら野放しにしてたら、もっと酷い目に合う人たちが増えたからな。捕まえてくれてありがとうな」
「いえ、捕まえたのは警備兵の皆さんです」
「嬢ちゃん一人で十分だったと思うぞ」
そんな心外な。
「しかしこの魔道具の絵すごいな。これのおかげで書類が早く出来て助かったわ。うちにも欲しいなー」
写真を見ながら警備兵が言う。魔道具と云うことにしてある。魔道具ライトで100万デナリもするらしいので、魔道具カメラなんてあったら大金だろう。
「じゃあ嬢ちゃん気にすんなよ。危ないからもっとちゃんとした所に住んで欲しいんだが、嬢ちゃんだったら道端でも平気か」
最後まで失礼なことを言うな。
うら若き乙女だぞと、ぷんすかしながら倉庫に戻った。
「お帰りー、とりあえず解決したようで良かったね。ジェマも安心だね」
ドアを閉めるなりユイが話し掛けて来た。
「狙われること無くなって良かったよ」
「まだ拘留中みたいだけど、処刑されたら教える?」
「いや、いいです。勘弁してください」
考えるだけで、ひーっとなる。
まあ、運営のユイにとっちゃ死なんて、輪廻転生の流れに過ぎないんだろう。
今回あの人たちは評価がかなり悪かっただろうから、来世は虫だろうな。
「落ち込んでいるカノンに朗報です」
「朗報?」
「ふっふっふー、帰還魔法が解読できました!」
一瞬何のことか解らなかった。
「まーじーでー?」
「まーじーでー! あれだけカノンが欲しがっていた帰還魔法だよ。と云っても解読できただけだから、覚えられるかはカノン次第だけどね」
「頑張るーゴーレムはもういいから帰還魔法頑張るー」
「いや、ゴーレム魔法もロマンだよ。男子の憧れだよ」
「女子だからいい」
「この間の魔法ギルドの魔法陣がキーだった」
「やっぱり!」
「あれを解読すると、転移先なんかの記述がされていた。そしてアイテムバッグの裏地にも同じような魔法陣があることが解って、魔力を流すと浮き出てくる。倉庫からバッグに転送する、バッグから倉庫に転送する、の2種類の帰還魔法陣が書かれていた」
「ほーお」
「そこでそれを応用して、魔法の絨毯を作成しました! BOXの中をご覧ください」
言われた通り見ると、魔法の絨毯(自宅1)と魔法の絨毯(自宅2)と小屋2が入っていた。
「自宅1絨毯をその辺に敷いて」
「あーはい」
円形の魔法陣が書かれている絨毯だ。いかにもな感じ。
そうだよ、異世界あるあるならこういうので転生してくるべきだったんだよ。いきなり魂入れられて気づいたらベッドに寝てたもんな。
「そして外に小屋2を出して、中に自宅2の絨毯を敷いて」
外に出て、空いているスペースに小屋2を出した。いつも暮らしている小屋と違って、本当に小屋だった。
「犬小屋?」
「ちゃんと立てるから犬小屋よりずっと大きいじゃん。テストだからいいの。自宅2の絨毯を敷いて」
仰せの通りに自宅2の絨毯を敷く。自宅1がグレーで、自宅2がベージュだった。
まあ、魔法ギルドみたいにギラギラしてると目が痛いから、地味な配色でよしとする。
「自宅1に戻って」
言われるままに戻って来た。
「魔法陣に乗って、魔力を少しずつ流します。流れた量で少しずつ色が変わっていきます」
「少しずつね。ああ、足の下が見えない。あっ、色が変わって来たよ」
「そう、その調子。で、全部の線の色が変わったら、帰還と唱える」
「ここが家なんだけど、隣に行くとき帰還でいいのね」
「転送中に体バラバラになったりしないよね」
「大丈夫大丈夫。魔力まだ?」
「喋ってたから消えた。もう一回やってる。なんか凄く遅いんだけど、もうちょっと魔力流してもいいのかな?」
「少しずつって書いてある」
「そっかー、あ、また逆流してる。ちょっと多めに流してみる」
その後30分頑張ったが、ある一定の箇所に来ると逆流してしまう。集中していなからダメなのかもしれない。
ユイとの会話を切って、今度は自宅2の絨毯から試した。
集中して少しずつ魔力を流す。失敗。
魔力量を多くしてみる。失敗。
もっと魔力量を多くしてみる。失敗。
一気に魔力を入れてみた。ボッ、絨毯がいきなり燃えてしまった。
「ギャーーーー」
慌てて水魔法で消火したが、絨毯の魔法陣はもうダメになっていた。失敗。
「ユイ、ごめんー。自宅2が火事になった。ボヤだったから犬小屋は無事だった」
「は? 何でそんなことになるんだ」
「わかんないー。また絨毯作れる?」
「コピーしておいたから作れるけど、材料代は払ってね」
「勿論です。日本円でお願いします」
「じゃあ分析部と甲田さんに連絡しておくから。今日はもう寝なさい」
「はい、そうします」
項垂れて小屋に戻った。
魔熊を屠る以外に、魔法の才能あまり無いかもしれない。




