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アイテムBOXに北海道丸ごと入っているので、異世界でも食べるものには困りません  作者: 柚木 冬


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73*ボーナさんの疑いの目

 市場に向かう前に、ジェマを連れて商業ギルドに顔を出す。

 ギルド長のボーナさんに直接声を掛ける強者はいないので、意外とギルド長は捕まえやすい。


「ボーナさーん」

 ちょっと奥に座っていたボーナさんに声を掛ける。


「カノンちゃんおはよう。売り子の子ね。前に見たけど、話してなかったから、はじめまして」

「よろしくお願いします! ジェマです!」

 ジェマは固まりながらも頑張って挨拶出来た。えらいえらい可愛い。


「よろしくねー。何か困ったことがあったら、気軽に声を掛けてね」

「ありがとうございます!!!」

 テンパっているジェマも可愛い。



「それでビタミンCの納品?」

「それもあるんですけど、別に相談したいこともあって、夕方16時すぎって空いてますか?」

「相談? 時間は大丈夫だけど、カノンちゃんの相談は怖いわね」

「いやいや、ボーナさんの方が怖いですよ」


「あなた言うようになったわね。昔はこんな子じゃなかったのに」

 まだ出会ってから1か月ちょっとですけど。



「新商品を出そうと思って、その値段の相談です」

「まあ、それは楽しみ! でもとんでもない物な気がするんだけど」

「それは無いので大丈夫です。じゃあ、屋台オープンの時間なので、夕方にまた来ます」


「はーい、ジェマちゃんさようならー」

「さようなら!!!」

 テンパっているジェマ、やっぱり可愛い。



「新商品って昨日話していたピアスですか?」

 私の後ろを早足でついてきながら、ジェマが聞く。

「そうだよ。私が値付けすると、この町の相場と合わないらしいから、ギルド長に相談してるの」


「え? ギルド長?」

「ん、さっきのボーナさん」

「ギルド長だったんですか?! 私すごく失礼な態度を取ってしまった気がします」

「えー全然大丈夫だったよー。それにギルド長って、冒険者ギルドの魔熊ギルド長と同じだよ」

「マルチェロさんです。魔熊さんじゃないです」

「そんな名前だっけ? 全く記憶に無い」

 魔法ギルド長の名前は何だっけ? そっちも記憶にないなー。でも呼ぶこと無いからいいや。



「マルチェロさんも、たまに会うと声掛けてくれるんですけど、なかなか上手くお話できなくて。はいといいえで終わっちゃうんです」

「イレーネさんとは話せるんでしょう? それなら大丈夫だよ。クマさんは放っておいても」

「だからクマさんじゃないです! マルチェロさんです」

「熊ギルド長の方がしっくりくるんだけど」


 そこで丁度うちの場所に着いたので、バッグから屋台を取り出す。

「じゃあ、準備始めようか」

「はい!」



 朝から待っている客も殆ど減り、午前中はまばらな客、昼は市場自体客が増えるので忙しいが、13時半を過ぎると落ち着いた。

 誰もいないときに、ジェマとまったりランチを取る。時々隣のクラリッサさんも一緒だ。

 お菓子を出したときは、向かいの店のおばちゃんたちも寄って来て賑やかになる。


 この位の優雅な屋台ライフがいいのに、ジェマや、本当に新商品を出そうと云うのかい。

 しかし先輩たるもの、商いに燃える少女の夢を奪ってはならない。


 店仕舞いをして「じゃあ私商業ギルドだから」と別れようとしたら、

「行きましょう」

と言われた。ジェマもついて来るようだ。


「別に来てもいいけど、ボーナさんの話意外と長くなると思うよ。疲れるからジェマは帰った方がいいんじゃない?」

「大丈夫です。この後はすること無いのでいつも暇なんです」

「そうお? いいけど」

 前の値付けもボーナさんヒートアップしてたし、大丈夫ならいいけど。



 今日は早速ギルド長室に連れていかれた。また変な物をだして、他の商人に見られないようにとの配慮だろう。


「まず初めに、ビタミンCの納品です。1か月分ずつ入ってます。先日と同じ物です」

「はい、ありがとう。月末に同じ位頼みたいんだけど大丈夫?」

「大丈夫だと思います。準備しておきますね。それと、先日の村まわりの書類です。商業ギルド宛に預かって来たものがこれです。ご確認お願いします」

 ボーナさんは書類に目を通して内容を確認する。

「ありがとう、大丈夫ね。じゃあ、ビタミンCの代金と村の報酬ね。間違いなければここにサインして」


「困っている村とか無かったかしら?」

「あまり商人が来ないらしくて、どの村でも物資不足でした。定期的に行商に来て欲しいとのことでした」

「それをカノンちゃんにお願いすることは出来る?」

「来月の頭には出発しようと思っているの無理です。他に行ってくれる商人はいませんか?」

「そうなの? もっと居てくれていいのよ」

「村長さんたちと同じこと言わないでください」


「月に一度は行商人が回っている筈だけど」

「品が限られているようで、一番喜ばれたのが農具とか鍋でした」

「農具? そんな物を持ってたの?!」


 ヤバ、思い切り失言した。


 最初の頃、漂流して町に辿り着いたから、小さくて軽い物しか持ってません設定で、ヘアアクセにしていたのは何だったんだ。

 容量の大きなバッグを持っているらしいことはバレているけど、漂流娘のバッグに農具が入っているのは怪しすぎる。ビタミンCのサプリを沢山持っている漂流娘も怪しいけど、農具ほどでは無い。


「小さいスコップとかですよー。あんまり持ってなかったので、まだ欲しがっている人が多いと思います」

 鍬とか鎌とか熊手とか村5つで合計100本位売った記憶はあるが、大きいサイズの物ではない。嘘はついてないよ!


 でもボーナさんの眼が鋭すぎて怖い。話が解らず隣に座っているだけのジェマも、ボーナさんから漂う何かにあてられている。

 怖がっていることを見せてはいけない。飽くまでも平静の体を取り、話を続ける。


「あと食料も少し販売したんですけど、この野菜が人気で、どの村でも美味しいと評判でした」

 真っ赤な実をバッグから出す。

「え? 野菜? 美味しいの?」

「切ってみていいですか?」

 実演販売も6度目なので手慣れたものだ。


「トマトって云う野菜で、見た目は毒々しいんですが、爽やかで果物みたいにジューシーです。生でも食べられるし、ソースにするとお勧めなんです。ジェマはサンドイッチとかよく食べてるよね」

「……はい、すごく美味しいんです!」


 ジェマがボーナさんに勧めている間に、パンにトマトソースとチーズを載せて火魔法で炙った物を作る。

 ボーナさんは恐々ながら目を瞑って、生のトマトを口に入れた。


「……あら、美味しい。そうね、果物かもしれない。甘いけど酸味もあって、嫌いじゃないわ」


「良かった。こちらもどうぞ。塗っている赤いのがトマトのソースです。トマトとタマネギをみじん切りにしてガーリックとハーブで煮詰めたものです」


「何これすっごく美味しい! パンにチーズ載せて炙っただけの物ならよく食べるけど、このソースが加わっただけでこんなに美味しくなるの? これがさっきのトマト? すっごく美味しいわよ!」


「美味しいですよね? 私も大好きなんです」


 ジェマもボーナさんも目をキラキラさせている。ジェマの分も作ってあげて渡したら、ボーナさんも物欲しそうな顔をしていたので、もう一つ作ってあげた。


「カノンちゃん、これのお店をしたらいいのに」

「今の屋台で手一杯ですよ。あとこれがタマネギの入っていないトマトだけのソースです」

 トマトケチャップを小さじに出して渡す。ついでにジェマにも渡した。


「甘ーい」

 二人揃って声を上げる。


確かにトマトケチャップは甘い。トマト自体が品種改良でどんどん甘くなっているので、ケチャップも年々甘くなっていっている気がする。

 子供の頃のトマトケチャップはもっと酸っぱかった気がするんだけど。今度ジョージのデータベースで確認してみようか。


「肉料理とかにちょっと付けると美味しいですよ。村1で二週間で食べ切ってしまったからまた欲しいと言われました」

「そうね、私も欲しいわ。中のソースも勿論だけど、その瓶は何?」


 村人たちは「キレイな瓶ね」で誤魔化せたけど、商業ギルド長はやっぱり誤魔化せないな。これでもチューブタイプのケチャップよりは瓶の方がいいと思ったんだけどね。


「すごくキレイなガラス瓶ね。透き通っていて気泡も無い。それに、上のフタは何? 回したら開くの? 物凄い技術じゃない?」


 確かに手作業でこれを作ろうとすると大変だろうな。ガラスに溝をどうやって作ればいいんだ。一度で上手くいくとはとても思えない。私だったら10年位修行が必要だな。


「本当ですよね。職人技凄いですよね」


 多分私はこの先死ぬまで何度もこの言葉を繰り返すに違いない。全てのことは、凄腕職人で乗り切ろう。日本は職人の国だから間違いない。


 ジェマも身を乗り出してケチャップのガラス瓶を覗いている。


「最初は密封されていてとても固いんです。ぐっと力を入れると回ります。一度開けちゃうと、いくら蓋を締めていても空気が入り込むので、なるべく早く使わないと傷みます。なるべく涼しくて暗いところに置いてください」


「あら、貰ってもいいの?」

「どうぞ。ボーナさんに差し上げます。切ったトマトも残りどうぞ。職員の皆さんにでも」

と差し出す。


「ここからが本題なのですが、これがトマトの種です。皆さん気に入ったようなので、村でプレゼントしてきました。この辺の気候はトマトに合うので育てやすいと思います。トマトの育て方を書いたものもお渡ししておきますね。最初の年は失敗するかもしれないので、商業ギルドにもお渡ししておこうと思って」


「なるほど。主食になるわけではないけど、料理が美味しくなるなら、毎日の食事にアクセントが出来ていいわね。この町の新たな名物料理も出来るかもしれない」

「村2の村長の奥さんがトマト料理店作りたいと乗り気でしたよ。野菜不足も解消されますよ。ビタミンCも多く含まれてます。一日一個じゃ足りませんけど」


「そうなの、上手く育つといいわね」

 そう返事してから、ボーナさんが少し黙る。



「カノンちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか」


「カノンちゃんと会って1か月以上たつわよね。岬に漂流してたところを地元の漁師に助けられて、町に来るまでしばらく看病されていたって聞いたけど、このトマトを外国で買ってから今日まで一体何ヶ月経ってるのかしら? こんなに瑞々しい状態で何ヶ月も長持ちする野菜なの?」


 ボーナさんの鋭い視線に射抜かれて私は無表情のまま硬直していたが、隣のジェマの方が余程怯えた顔で動揺しまくっていた。


 いや、ジェマは何も知らない筈だから、ボーナさんの眼光にやられているだけだ。


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