72*新作の準備
屋台を出して一ヶ月、客の数も減って来た。
流行に敏感な人たちは一通り購入したのだろう。それは商売の上では困ったことなのだろうが、元取れればいいやのスタンスなので、客来なくて楽でいいやと思ってしまう。
最初からリピーターを狙った商品ではないのだ。人口1万人の町で、逆にここまで売れたのがびっくりだった。
でもジェマはそれが悔しいらしい。最初の頃より明らかに客が減ったので、何が悪いのか、自分のせいではないのか、新しい商品を出した方が良いのでは、と提案してきた。
客少なくなって楽できてキャッホーと言っている私と比べると、商売人の鑑である。
悲しそうなジェマを見てると、何とかしてあげたくなるな。
「必要な物は一通り購入したからもう来ないんだよ。うちのは贅沢品だからね。お金持ち以外はいくつも買おうとは思わない。だからお客さんが減って当然なんだよ」
「そうかもしれないです。自分がお客さんだったら欲しくても、お金が無くて買えないです。そんな高いものを頂いてしまってすみません」
「そこは全然気にすることじゃないから」
商人が客少なくてもいいんだよは通用しないと思うので、仕方ないけど商品を増やすか。
全然客が来なくなったら、それはそれで暇でならないだろうしね。
「じゃあ新しい商品を増やそうか。一緒に何がいいか考えてくれる? 小さくて軽いファッション系の商品で、何か無いかな」
ジェマの顔が輝いたが、すぐに難しい顔になり考え込んでいる。
オシャレと縁遠い暮らしをしてきた12歳には難しい課題だったな。
悩んでいるジェマを眺めていたが、そんなジェマでも最初からアクセサリーを付けていることに気が付いた。
この町の人はみんなピアスをしているのだ。
おじいちゃんでも小さい子でも、殆どの人がピアスをしている。
ジェマのは引っかけるタイプのピアスで、金色の小さい物だ。金なのかメッキなのかは解らない。
「ピアス何個持ってるの?」
ジェマは耳に手をやりながら、
「3個です。最初に貰ったのと、お母さんの形見と、10歳のときに貰ったもの。お父さんの形見は壊れちゃったので使えないんです」
あー、また泣かせることを聞いてしまった。
泣くのはジェマではない、私だ。
ジェマの中では折り合いがついているようで、お父さんの話も淡々と話す。お母さんのことは小さい頃すぎて、殆ど覚えていないらしい。
自分が泣かないように、隣の食器屋のクラリッサさんへ声を掛ける。
クラリッサさんも丁度暇そうだった。
「クラリッサさん、クラリッサさん」
「うん、どうしたの?」
「町の人ってみんなピアスしてますけど、何か意味あるんですか?」
「単なるお守りよ。小さい頃に親からお守りを貰って、後は成人とか結婚とか節目節目にお守りを貰うことが多いわね」
「自分でピアス買ったりはしないんですか?」
「貴族ならいっぱい持ってるだろうけど、高くて買えないわよ」
「安くて可愛かったら買う?」
「安いなら欲しいわね。私は7個持ってるけど、古いのは錆びてるし、重いのと大きい物が多くて、髪に絡まるし邪魔なのよ。安くて可愛くて軽いなら欲しいわ。買える値段ならね」
「それは本物の金?」
「金メッキに決まってるでしょう」
「でも金のメッキなら高いよね」
「高いわよ。息子のも10万デナリしたわよ」
「へー、金メッキで10万ってことは金の量多いのかな。結構するね」
「そうよ。専門店行かないと手に入らないから大変なのよ」
「お守りのピアスのルールはあるの? 金じゃないとダメとか、宝石ついてちゃダメとか、形とか」
クラリッサさんは首を捻って、私の耳を指差した。
「特に何も無いと思うけど。店にある10種類位から選ぶだけだったわ。そんな可愛いピアスなんて売ってなかったわ。カノンちゃんの国も、ご両親からのお守りなの?」
自分でどんなピアスしているか記憶が無かったので、鏡を見る。小さなシルバーの花の形で真ん中にアクアマリンの宝石が付いている、キャッチ付きのスタッドピアスだ。
「いいえ、貰い物だけど親からじゃないです。地元では、お守りと云う認識は無くて、好きなデザインを自分で買って付けますね」
「私もそんなのが欲しいわ。可愛いのに小さくて邪魔にならなそうだし。それいくら位するのかしら」
「うーん、シルバーなので、1万もしないと思います」
「安いわね。真ん中の宝石でしょう?」
「小さいし高い石じゃないので」
「町のピアス屋さんにもそんなの置いて欲しいわよ」
ジェマも横から、「可愛いです」と言う。
「じゃあ、新商品はピアスかな?」
「本当? 楽しみにしてるわね」
「楽しみです!」
うちの職人チームの腕の見せ所だね。値付けはボーナさんにまた相談だ。
戻ってからユイにその話を相談したら、職人チームがとんでもない量を開発しているらしい。
「BOXにあるパワーストーンが全て精製され尽くす勢いよ」
「え? 村に行く前だったからまだ半月位だよね」
「だって15日×100倍速だよ?」
そっか、1,500日なら4年か。職人チーム何人か知らないけど10人なら40年相当。パワーストーン無くなるね。
私の分少し残しておいてと言ってあったので、キレイな板ガラス状態に精製した物を宝石別に残してくれているそうだ。そこまでされてあるのであれば、職人チームに作って貰った方がいい気がするな。
「おかげで魔素が結構溜まって嬉しいんだけどね」
地球のパワーストーンにも若干魔素が含まれていることが解ったのだ。分解すると、魔素と不純物とキレイな宝石に分かれる。
第7でも解るメジャーな宝石は、金具に金銀プラチナを使った高級ジュエリーに加工。
それ以外の地球でメジャーな宝石は、地球用の高級ジュエリーに加工。
残った宝石は、安価な金属の金具で平民用のアクセサリーに加工。マイナーな宝石でもキレイな物は非常に多い。
元々北海道にあったジュエリーも、質の悪いものは分解して、作り直しているそうだ。
「高温高圧処理で色を鮮やかにするのは一般的な工程で、偽造じゃないんだってさ。鑑定士も見ただけでは全然解らないらしい。だから専用の機材を見付けて来て、宝石のグレードを上げてるよ。みんな宝石のスペシャリストになってる」
「えー楽しそう。私もそっちに行きたい」
「断言するけど、カノンはすぐ飽きる」
「うーん、まあ、それについては否定できない」
それに不器用だと仲間に入れてくれない気がする。
「宝石は置いといて、今回の平民向けプチプラのピアスだけど、こっちも別な職人さんたちが先んじて準備を進めてます」
「何と! 仕事の依頼もしていないのに、自ら仕事を始めたと? どんな出来る部下だよ。前世で欲しかったよ」
「本当だねー。前世で手作りアクセとか作って販売していた魂さんたちで、アクセサリーパーツが山のようにあるから喜んで沢山作ってる」
「そうだ、手芸店とか多いからパーツ沢山ありそう」
「元々北海道に沢山あったプチプラアクセサリーも、可愛いのは残してあるよ。大量にあるからね。偽パールは取り外して、別な石やガラスに変えているから安心していいよ」
「ありがとう。偽パール使ったアクセも可愛いの多いけど、偽物扱う商人だと思われたら困るからね」
「ヘアアクセも偽パール排除しておいた。本物の淡水パールもかなり安いのが多いから、偽物使う必要ないもんね」
プチプラのピアスを見せて貰って、100個ほど選別した。
小さなスタッドピアスを中心に、金色や銀色だけの物、極小の宝石がついている物、揺れるタイプなど。
金具にはアレルギー加工が全て施されているらしく、芸が細かい。第7の金属アレルギー人口どの位か解らないけど、痒くなる人がいると可哀想だからね
私としては、500~1,000デナリの予定だが、ボーナさんが何と言うか。
明日相談してみようっと。




