68*窃盗犯の懸賞金
屋台営業を終えて、冒険者ギルドに帰って来た。
ジェマが着替えに向かうと、私だけイレーネさんに捕まった。
「先週の土曜の件で、ギルド長が話したいことあるらしいから後で寄ってね」
土曜の件? 何かあったっけ? ヒス婆の話かな。
ジェマとさよならしてから、イレーネさんとギルド長室に向かう。イレーネさんもジェマには満面の笑みだ。
「ヒス婆の件かな?」
「ヒス婆って誰よ」
「何だか商店のヒステリー婆」
「ああ……ギルド長、カノンを連れてきました」
今日はイレーネさんにぶん投げられることなく、自分の足で歩かせてくれた。
多分この人だったら、魔熊にも勝てると思う。散々私のことをヤバい奴と言うけど、イレーネさんの方が絶対強いに違いない。
「ああ、カノンさん、こんにちは。先週の件なんだが」
「はい」
目の前に50万デナリを置かれる。
「冒険者ギルドでかけていたネヴィオの懸賞金です。それと他の2人も20万ずつ」
40万デナリを足されて、90万デナリになった。
「え? 懸賞金?」
「先週の土曜に君が捕まえた窃盗団だ。手配中だったから懸賞金が出ました」
「ああ! その話でしたか。10日位かかるって聞いてたんですけど」
「今回の窃盗に関する取り調べはもう少しかかると思いますが、それとは関係なく捕まえただけの懸賞金です」
まさか魔熊と同じ価値の男だとは思わなかった。高いのか低いのか解らないけど。
「でも捕まえてくれたのは警備兵の皆さんなんですけどね。私はいそうな場所に案内しただけで」
「そうですか? 捕まえて牢に入れるのもカノンさんが一人でやったって話でしたけど」
「えーと、私に譲ってくれたんですね、きっと」
「自分たちはいる必要も無かったって言ってましたけど」
「まさかそんなことある訳ないじゃないですか。私みたいなひ弱な女が5人も相手に出来ませんよ」
重かったから引っ張るの無理だった。もっとしっかりした台車が良かったね。
「そういうことにしておきましょう。残りの2人は手配犯じゃなかったので懸賞金なしです。良ければ、領収書にサインしてください」
素直に指示された場所にサインした。
盗賊団捕まえて90万デナリ貰いました。これも異世界モノあるあるだね。
「それで手配犯じゃなかった一人が、私の探してた男でね」
「え?」
「ピーノと云って、リーダーのネヴィオの弟だ」
「ああ、入口見張ってた人です」
「そいつがブルーノ商店に勤めていた男なんですよ」
ブルーノ商店ってどこだっけ?
「ジェマ君が勤めていた商店の名前です」
「ああ! ヒス婆の店だ!」
ジェマに鞭打ちしやがったヒス婆だ。
うちの屋台からも万引きしようとしたクセに、逆恨みしてきやがった。
そこに勤めている少年から話を聞こうとギルド長が探していたが、それが窃盗団の下っ端だったってことか。
少年も被害者だと思ってたけど、悪者だったってことなのかな。
「取り調べでみんなすぐに自供したらしいです。カノンさんのテントを襲ったのは、そのヒス婆の指示でした。金目の物を持っているから奪って来いと言われたそうです。ネヴィオはブルーノ商店の用心棒みたいなことをやっていて、今回の様なことを何度も繰り返していたそうです。今、裏を取っているところなので、はっきりすればヒス婆も捕まえます。そして弟のピーノは、やはりヒス婆に折檻されてました。背中に鞭の痕が残っていました。ヒス婆と兄貴のネヴィオに言われて、仕方なく犯行に加わったそうです。可哀想でも加担したのは事実なので、刑は免れないでしょう。今回だけであれば減刑の可能性もありますが、兄貴と引き離す必要がありますね」
「そうかーヒス婆だったのか、BBQコンロ盗んだの。どっかの国の商人だと思ってた。万引き指摘された程度の恨みで、舎弟に襲わせるってどういうことよ。万引きで捕まえなかっただけ感謝してよ」
「BBQコンロって何ですか? 警備兵も首を捻ってましたが」
「あれ? BBQしませんか? 大勢で外で肉焼くときに使うコンロですけど」
ギルド長がイレーネさんと目を合わせて、二人で首を捻る。
警備兵に預けてあるBBQコンロと同じものを出して見せた。
「これです。8人位で肉焼けますね。結構高いんですよ、これ」
「カノンさんは、倉庫で肉焼いているんですか? まさか魔熊を焼いてるんじゃないですよね。そのときは私も呼んでください!」
圧が強い、圧が強い、魔熊になるとこの人圧が強い。
「焼いてないです。魔熊焼いてないです。野菜焼いている隣でスープ作ったりとか一気に出来るので便利なんです。普通の一人分の自炊です!」
使ってないけど。自炊しているフリのコンロだったので。
「本当に魔熊焼いてないんですか? 誰か別な人たちと魔熊焼いてパーティしてるんじゃないですか?」
お前は愛の重い彼女かよ!
「焼いてません。魔熊は焼いても美味しくないとギルド長に伺いました」
「そうでした。魔熊は煮込みが一番でした」
ああ、やっと正気を取り戻してくれた。
「でももし魔熊パーティするときは私にも声を掛けてください」
また愛の重い彼女に戻ってしまった。
それには答えず、横にいるイレーネさんの顔を見る。
ため息をつきながら、無言のまま大きく首を振られた。
そっとBBQコンロをBOXへ仕舞う。
しばし沈黙が続き、やっとギルド長も戻って来た。
「何の話でしたかね」
「ヒス婆の指示だったって話でしたね。ヒス婆が捕まるんならそれでいいです。ジェマは恨んでいるかもしれないけど、あの子に仕返しとか出来るとは思えないし、ジェマの前に現れなければいいです。ただ、もし刑期を終えてこの町に帰って来るようなことがあった場合、ヒス婆からジェマを守ってあげて貰えませんか」
「これからの調べに依るけど、間違いなく奴隷堕ちでしょうね。町に戻って来ることはないでしょう」
奴隷かぁ。
ジェマにしたこと考えるとヒス婆には地獄に堕ちて欲しいけど、奴隷って単語が聞き慣れない分キツイね。
この国は奴隷制度が廃止されているので、いるのはこういった犯罪奴隷のみだ。
でも周辺国はまだ奴隷制度があるし、どこかの国を経由してローマ帝国で隠れて奴隷を使っている例も未だ多いらしい。
「カノンさんはこの町を出るつもりなのかな?」
「はい、レインディナに行かないといけないので、もう少ししたら」
「そうか、ジェマ君も寂しがるだろう。私がこの町にいる間は、目を光らせておきますよ」
そしてギルド長は視線を落とし、何か気付いたように顔を上げた。
「カノンさんがいなくなったら、魔熊の納品はどうなるんですか!」
イレーネさんがやって来て、「構わなくていいから」と小声で話し、そのまま私の腕を掴んで部屋を出て行った。
「待ってください!」
ギルド長の声が聞こえてくるが、そのまま二人で逃げ出した。
「前から思ってたけど何なの? 魔熊の呪いでもかけられてるの?」
「知らないわよ!」




