69*村5
日曜はボートの日だが、運転技術も向上してきていると梶山船長からお褒めの言葉を頂き、半日お休みを貰った。
やったー!
今日は海岸にも車で来た。
先日のドライブで慣れたのか、車の運転にも恐れが少なくなったような気がする。
バイクの方が小回りが利くのだが、車の方が便利なこともあった。
こないだの雨もそうだが、一番大きいのはヘルメットを被らなくてもいいことと、スカートでも運転できることだ。
勿論タイトのロングスカートなんて履かない。ゆったりAラインのスカートだ。
そして今日の午後の使い方だが、先日村で頼まれた他の村への行商である。
冒険者ギルドのイレーネさんと、商業ギルドのボーナさんに世間話でその話をしたら、追加でお仕事を依頼されてしまった。
どちらもおつかいクエストだ。
この前の村の先に、道沿いに4つの村があるらしい。5つの村の名前を尋ねても、殆どの人が覚えておらず、アリッチェから1つ目、2つ目、…で呼ぶ商人が多いらしいので、私も村1、村2、村3,村4、村5にする。
先日行ったのは村1だ。
月に一度乗合馬車が走っているらしい。アリッチェから村5まで馬車だと丸2日はかかり、途中の村で泊まる。帰りも同じ感じなので、行って帰って来るには5日もかかるそうだ。
他の移動手段としては、アリッチェに農作物を売りに行く馬車に乗せて貰ったり、行商に行く商人の馬車に乗せて貰う。
異世界あるあるの馬車でお尻が痛いを経験してみたいが、サスペンションの作り方なんて私には解らないので無理だ。井戸のガチャポンプも作れないので無理だ。
BOXの中には実物もあるだろうし、仕組みもネット検索できるので、異世界アニメの主人公たちより環境はいい筈だが、私にやる気が無いので無理。
質問されても答えられないからね。
馬車は諦めて、今日は船で海からぐるりと回って一番遠い村5を攻めることにした。
ボートに乗ったまま南に進み、村5に近い海岸を目指す。
前に近くまで行った筈なので、そこからそんなに時間はかからないだろう。人目に付かない海岸があればいいのだけれど。
エルゼダンテの森の海岸線をぐるっと回って、半島の先に辿り着く。
上からユイが、村5に近いボートが止められそうな入り江を見付けてくれたので、誘導の通りに進んで着岸した。
土魔法で桟橋を出して飛び乗り、ボートはBOXに入れる。この動作ももうお手の物である。
索敵を行うが、人も魔獣もおらず大丈夫。
平らなところに小屋を出し、保護膜を張る。
ボートのときはいつもジャージなので、着替えないとならない。ついでにランチ休憩だ。
まったり海を眺めてランチを食べてから車に乗り換え、本日の目的地の村5に向かう。
半日で村4つ回れたらいいんだけど、それは無理だろうな。
せめて2つは回りたい。
そろそろ村5に辿り着くとユイに言われ、車を収納して歩く。
村1に比べると村を囲む柵が高く、防御力が高いようだ。
海が近いので私みたいに海から侵入する輩がいるのと、エルゼダンテの森が近いためだろう。
魔獣に襲われる村とはここのことかもしれない。
しっかり武装した門番に、冒険者ギルドと商業ギルドから村長への届け物があると告げ、バッジとギルド証を見せる。
いきなり商人を名乗るより、ギルドのおつかいの方が警戒されないだろう。
十分ほどそこに待たされてぼーっとしていたが、知らない人が珍しいのか村の子供たちが寄って来て盛んに話し掛けられた。
アクセントが可笑しいと笑われる。
この一ヶ月で私のローマ語は完璧になったかと思っていたのに、全然だったか。
子供は素直で客観的な意見が聞けて助かる。こっちは真剣に、どの辺りのアクセントが違うのか教えて欲しいと聞くのだが、その質問のアクセントも可笑しいらしくまた笑われた。
戻って来た門番は、邪魔だと子供を追い払うが、村長宅に移動する私たちの後ろを10人以上の子供たちがついてきた。
さすがに村長宅には入って来なかったが、ドアの隙間や窓の隙間から子供たちが覗いており、時折キャーキャー声がする。
村長に挨拶して、冒険者ギルドと商業ギルドから預かったものを渡した。受領書にサインをして貰って、代わりに商業ギルドへの荷物も預かる。
「それとこれが……アリッチェの傍の村の村長からのお手紙です」
さすがに村1とは言えなかった。
「先日お伺いしたときに、商人なら物を売って欲しいと言われて、色々販売しました。無理に買って頂く必要は無いですよ」
「農具や鍋もあるのか。物は外に置いてあるのか?」
「アイテムバッグの中に色々入ってます」
「そうか。買うか解らないが、隣の建物に広い部屋があるからそっちで見せてくれるか?」
前回と似たような商品を色々並べる。
この村には漁師も多いらしいが、海で使う道具なんて農具以上に私には解らないよ。
バケツはプラスチックだからやめといた方がいいね。アルミバケツならいいかな。
釣り竿は情報過多な気がするから止めておこう。
網はアリかな。網やロープなど、天然素材っぽく見えるものを選択する。
食料も長持ちするものを中心に、前回と同じくトマトも宣伝しておく。
商品を並べていると、子供たちが並べるのを手伝ってくれたが、折角並べた物を別な場所に置く子供も出て来て、並べてるのかぐちゃぐちゃにしてるのか解らなくなってきた。
委員長タイプの女の子と、ガキ大将タイプの男の子が、それで口喧嘩を始める。
他の子供たちも加わり、女対男に分かれて争い始めた。こら、商品を投げるな。
そのうちお母さんたちが介入してきて、子供たちに雷を落とし、私に「ごめんねー」と謝る。
村1と比べると元気な子供が多いな。森から魔獣が来て、村が潰されかけた暗い村かと思ったら、想像とは大分違った。
お母さんに怒られて、ガキ大将タイプの男の子が嫌々ながらも、委員長タイプの女の子に謝っていた。
何だフラグか? 絶対この二人、将来付き合うんじゃないの?
フラグの瞬間に立ち会っちゃったんじゃないの?
なんてことは私にはどうでも良いので、お母さんたちが集まったから、トマトの実演販売を始める。
2回目だから前回より上手に出来たと思うよ。トマトの種もサービスでお渡しする。
ボーナさんのところにもトマトの種を持って行った方がいいな。
村が知っているのに、アリッチェが誰も知らないのは問題になりそうだ。ボーナさんなら上手く広めてくれるかもしれないし、今度根回ししておこう。
村長5が、村長1の手紙に加筆した手紙を渡してくれた。
「隣の村長は頑固爺だから、うるさいこと言ってきたら、無視して次の村に行けよ」
引き留める村民や子供たちを、今日中に村4に行きたいからと引き剥がし、お暇した。




