64*BBQコンロ盗難事件
昨夜は『宝石商になるのもいいな』とニヤニヤ考えていたが、それって貴族と関わるってことじゃない。
無いな無い。
私に上手く応対できると思えないから、根こそぎ取られて亡き者にされるのがオチだ。
だけど以前に立てた目標では、この国に日本の農産物を広めるってことだったから、領主と関わるのは絶対なんだよね。
町の外に農家は沢山いるが、領主から農地を借りて、領主が指定する農作物を育てているだけだ。
領主の許可を取らずして、勝手に畑作ったり、新しい野菜育てたりは出来ない。せいぜい自分たちが食べる家庭菜園ぐらいだよね。
そして領主は貴族だ。関わらないと云う選択肢は無い訳だ。あー、めんどい。
今のところ一番権力者に近そうなのは、元貴族の商業ギルド長ボーナさんか。旦那さんはレインディナの大手商家らしい。
可愛がって貰えてるし、壊血病のビタミンCの件で貢献できるかもしれない。
エルゼダンテの森以外は、この辺りは農業が盛んなので農産物を広めるには都合が良い。
ま、はじまりの町だし、いきなり定住するのはあまりに早いので、旅をしつつ考えよう。
一周回ってから戻って来てもいいんだし。
帰還魔法が使えるようになれば楽なんだけどね。
バイト3日目のジェマは、もう私の代わりに店やってくれてもいいんじゃないかと思うほどの働きっぷりだった。どんどん私のすることが無くなって来ている。
お客さんが少ないときはジェマに任せて、後ろで追加商品の仕分けや売上の計算を行っていた。
従業員がいるって、こんなに楽なんだ!
今日はヒス婆も変な商人たちも来ずに、平和な一日だった。
売上は程々だったが十分である。
毎週土曜に給与を支払う契約なので、帰りに冒険者ギルドに寄る。
今週は3日分だけだが、ジェマに初給与を支払った。
ついでに、明日の休日分も含め5食分相当のごはんを渡す。まだ断ろうとするが、いい加減餌付けされるのにも慣れて欲しいね。
「じゃあ、来週も宜しくねー」
と、ジェマと別れて、帰路につく。
私の愛しの廃倉庫に着いたが、何やら様子がおかしい。
偽装用に建てたテントが倒れていた。ナイフで切り裂かれている。あんなに建てるの苦労したのに。
中にあった偽装用の私物も踏み潰されて汚れていたり、無くなっているものもあったり。
小屋と庭は保護膜がかかっているので気付かれていないと思うが、周囲は足跡で荒れていた。靴跡を見るに複数いそうだ。
倉庫の入口の壁には蹴り飛ばしたような跡が残っている。倉庫自体は元々あちこち穴の空いている廃屋なので倉庫の管理人も気にしないだろうが。犯行の跡をカメラで撮っておく。
そして、入口とテント内にセットした防犯カメラをチェックして、犯人の映像を確認する。
犯人は5人いた。
一人は入口に残って周囲を窺っている。残りの4人の男たちがテントに向かい、テントを開けようとするが開け方が解らないらしく時間が掛かっている。
そのうち仲間内で揉め始め、苛々した男がナイフで入口を切り裂いた。勿体ないなぁ、ファスナーの開け方解らなかったか。ま、再生したら元に戻ると思うけど。
テントの中にある物をぶちまけて何かを探しているみたいだ。いくつか取っていったが大した物は見付からなかったのだろう。当たり散らしている男がいる。
どうも知った顔は見当たらないが、よく見えないのが多いので、BOXに入れてユイに確認して貰う。
小屋の方はいつもと変わらないようだ。映像を見ると何度も小屋にぶつかっているのに、気付くどころかすぐに別の方向へ歩き出していた。これが保護膜の効果なのかと、目で見て実感出来た。
今日の牧場アイスクリームを食べていると、早速ユイから報告が返って来た。
今日の牧場は、ミルクの味が少し淡白だ。アイスクリームなのにシャリ感が強い、もう少しミルクこってりの方が好きだなぁ。
あ、ユイの報告だっけ。
はっきり言って、盗られた物はどうでもいいんだけどね。こんな誰でも入れる廃倉庫だから、いつかは被害に遭うだろうことは予想してたし。
ムカつくのは、あんなに建てるのを苦労したテントを破られたことだけだ。引っ捕まえて来て、建て直させようか。
送られてきた写真は真正面からの顔で、どうやって撮ったのやら。
10~20代な感じかな。やっぱり5人とも記憶が無いが、名探偵ユイは既に犯人の名前や住所などを把握済だった。多分第7の運営情報だろうが、恐るべしだな。
犯行時の写真、テントが倒れている写真などもプリントアウトして貰った。
まだ夕方なので、ちょっくら行ってきますか。
北口の警備兵の建物が近いので、お邪魔する。
「こんにちはー」
丁度暇だったようで、入ったすぐのところで警備兵たちが3人お茶の最中だった。私が顔を出したので慌てて立ち上がる。
「どうした?」
「盗難に遭ってしまって、見て貰えます?」
儚げな様子で訴えかける。
自称儚げなので、相手には伝わっていない可能性が高い。
BOXから大きなBBQコンロを出して外に置いた。
「これと同じものを盗まれてしまいました。これが今朝の状態です。ここにありますよね?」
今朝の写真に写るBBQコンロを指差す。
3人共頷く。
「その後、犯人グループがやってきて」
犯行中の写真を出す。BBQコンロが持ち去られたその瞬間の写真も。
「そしてこうなりました」
見るも無残な潰れたテントと、無くなったBBQコンロ。
「これが犯人5名の顔です」
5名の顔が横に並ぶ。
「ああっ、あいつらじゃん」
「ご存知ですか?」
「ネヴィオたちだ。いっつもロクでもないことばっかりやってるコソ泥だよ。しかし、ピーノもかよ、あいつには真っ当に育ってほしかったのに」
資料に依ると、ピーノはネヴィオの弟だそうだ。兄に言われて入り口を見張らされたようだ。
「ピーノは見張りみたいです。テントの周りにはいません」
「でも加担したのは確かだ。しかし、この絵は一体何なんだ?」
「魔道具です」
カメラと、襟のバッジを掲げる。こういうときはバカでかいバッジが役に立つ。
警備兵たちは魔道具の仕組みが理解出来なくても、上級魔法使いのバッジは納得したらしい。
「鍵の無い倉庫で盗まれたんですが、そこを私が契約している以上、この証拠があれば窃盗の罪に問えますよね?」
3人で顔を見合わせる。
「そうだな。これだけあればな。じゃあこれは預かってもいいか?」
「はいどうぞ。あと盗まれた物ですが、裏に魔法陣が仕込んでありまして、今どこにあるか場所が解ります。地図はありますか? えーと、ここです、丁度移動してます!」
「おお! すぐに行こう!」
1人は留守番で残り、私と2人が飛び出した。
私はナビゲーターの役割だ。タブレットを見ながら、方向を指示する。
車やバイクを運転しながら地図は見れないけど、走りながらなら私にも出来る。
「もう少しです。次の角を右に曲がったあたりにいます」
ついでにユイも衛星カメラから追跡中である。
『2人いるよー。片方はさっき言ってた弟。兄貴は家に戻ってる』
重いものは若い奴に持たせているようだ。
「相手は武器を持っているかもしれない。危ないから君はここにいなさい」
「はい」
大丈夫だけどね。強靭な転生体だし。
警備兵たちの方が心配なので、保護膜で囲ってあげた。
2人が角を曲がり、「それを置いて止まれ!」と声がする。
直後に殴り合いのような音がする。
マズイ、反撃にあった?
慌てて追い掛けると、警備兵が2人の犯人たちを組み敷いたところだった。
無事そうで良かった。
BBQコンロも元気そうで良かった。
犯人たちが顔を上げる。まだ10代半ばに見える。
こっちを見ているが、私のことも知らないようだ。単純に通りすがりの窃盗だったのだろうか。
2人は後ろ手に縛られた。
「残りの3人はここから近い家にいるようです」
「しかしこの2人をここに置いておく訳にもいかないしな。それもあるし」
それとは、BBQコンロのことだ。無駄に大きい。
「アイテムバッグに入れちゃっていいですか?」
「ああ、助かる。でも後で一度事務所で出してくれないか。報告で使うんだ。終わったらちゃんと返すから」
「はい、解りました。この二人も私が見ておきますよ」
土魔法で四角い箱を作って、二人を入れる。入口を塞いだ。
目の前で起きた早業に、警備兵二人ともポカンとしている。
もう一度開けて、捕まえた二人がいるのを見せて安心させてあげた。
ちょっと歪んでいるけど、四角い箱までは作れるんだよ。ゴーレムは全然無理だが。
「空気穴が付いているので大丈夫ですよ」
キャスター付きの台車に載せてコロコロ引っ張る。
「あっちです」
家までまた誘導する。
「そこの角の家ですね。3人共いるようです」
「お嬢ちゃんは危ないから!」
「はい、ここにいます」
でも2人対3人なので大丈夫かなと心配していたが、さすが警備兵。
あっと云う間に2人を倒してしまった。
残る一人は体が大きくて強そうだ。多分あれがリーダー格のネヴィオと云う男だろう。
今倒した2人が邪魔になると困るので、風魔法で持ち上げてこっちに引き寄せた。土魔法でさっきの箱をもう一つ作り、2人を入れておく。後でもう一人入れるのでちょっと大きめだ。
ネヴィオは大きな剣を振り回していて、警備兵も近寄れないようだ。確かにあれは困る。
剣も風魔法でこちらに引き寄せた。
剣を持っていた筈の手を見て呆然としているところを、警備兵たちがタックルして床に倒した。
2人がかりで暴れるネヴィオを押さえつける。
しかし敵もかなり力があるらしく、下で暴れて縛ることが出来ない。頭と足を土魔法の柵で押さえて、縛りやすくしてあげる。
「大丈夫ですかー?」
「ああ……ありがとう……」
縛り終えたようで2人が離れたので、柵を外し、ネヴィオも風魔法で引き寄せさっきの箱に入れる。
入口を固定して空気穴を開けた。
「お疲れ様でしたー。帰りましょうか」
コロコロと2つの箱を引っ張って歩こうとするが、5人もいるとさすがに女子には重かったので、警備兵さんたちに任せた。
道が平坦ならまだいいんだけどね。石畳のところは引っ掛かりやすいので、風魔法でアシストする。
「なあ、俺たち必要だったか?」「俺も今それ言おうとしてた」
強い警備兵さんたちがいて良かったよ。
北口の警備兵事務所に帰った。
回収したBBQコンロは報告に必要らしいので、一旦渡す。
牢の準備が出来たので、箱から一人ずつ出して渡してあげた。
「ネヴィオは他にも事件起こしていて探しているところだった。懸賞金が貰える筈だ。10日位かかる筈だから、町にいてくれ。倉庫に連絡すればいいのか?」
「昼間は日曜以外は市場で屋台出してます。あと毎朝冒険者ギルドに顔出しているので、言付頼んで頂ければこちらから伺います」
「おお、解った。じゃあ、また連絡する」
すっかり日が暮れてしまったが、2時間以内の逮捕劇で終わって良かった。
警備兵たちに保護膜を掛けたままだったことを思い出して解除する。
誰かが触ろうとしてもポヨンポヨンと弾き続けるところだった。
明日は梶山船長のスパルタ授業なので、魔法の勉強は程々にして早く寝た。
いつも魔力を全放出してから寝るので、気絶するように寝てしまう。
寝つきが良くて大変宜しい。




