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アイテムBOXに北海道丸ごと入っているので、異世界でも食べるものには困りません  作者: 柚木 冬


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59*ギラギラ魔法陣部屋

 さて私は、呼び出しを食らったので、トボトボとギルド長室を目指す。


 ほんの少しの距離なのに、めちゃくちゃ足が重い。いくつになっても怒られるのは嫌なもんだよ。


 ドアをノックすると返事があったので、

「失礼しまーす」

と、ドアを開ける。


 ギルド長は、書類仕事中だったようで、執務机の前に座っていた。

 その目の前に、先日のクマのマスコットが置いてあるのを見て、思わす吹き出した。


 うわー、怒られに来たのに笑ってしまった。

「すみません。まさかそんなところにクマがいると思わなくって」


「折角良いものを頂いたから、目立つところに置かせて貰いました」

 喜んでたのか、あれ。


 北海道名物のシャケを咥えた木彫りのクマを渡したい衝動にかられるが、今は止めておこう。

 賄賂になるか、火に油を注ぐのかどっちか解らない。


「ジェマ君を雇ってくれてありがとう。ギルドでも気にしていたんですがどうにもならなくて。養子の話もあったんですけど、上手くいかなかったんですよね。今回は条件を良くしてくれたようでありがとうございます。仕事は大丈夫でしょうか」


 あれ、呼ばれたのって、ジェマの件だったのか。


「初日から即戦力になりました。お金の受け渡しを率先して自分からやってくれて、計算も問題ありませんでした。お客さんとの話は上手く出来なくて気にしてましたが、あんなのは慣れですから、すぐに出来ると思いますよ」


「それは良かったです。人と関わるのを怖がるところがあるので、そこが少し治るといいのですが」


 言おうか迷ったが、やはり黙ってはおけない。


「以前商店で働いていたと聞きましたが、その時にミスする度に体罰をくわえられていたようなんです」


「何だって?」

 ギルド長は初耳だったらしい。


「ジェマの背中は傷だらけでした。それで怯えるようになったんでしょう。今日一日も何度も、ごめんなさいを言われました。子供がそんなに気にすることは無いのに」


「ブルーノ商店か。あいつら何てことを。そんなことに気付かなかった自分が情けない。養子の話もブルーノ商店だったんですよ。それは勿論断る筈ですよね。今からでもあいつらに処罰を……でも証拠が……いや、ジェマ君の背中を見れば一目瞭然ですね」


「あ……ごめんなさい、消しちゃいました」

 早まったかもしれない。折角の証拠を消してしまった。


「消した?」

「そのままだとジェマがあまりにも可哀想で、治癒魔法で背中の傷消しちゃいました」


「治癒魔法」


 ん? んんん?

 まさかこの深刻な話が、誘導尋問だった???

 やっべー、思い切り自白しました、私。



「ああ、それは良かった」


 え?


「女の子の体に傷が残ったら一大事ですからね。体の傷だけでも治って良かったです。ありがとうございました」


 あ、良かった。上手く逃げられる???


「ちょっとブルーノ商店を調べてみます」


「おかみさんに叩かれたって言ってました」


「あの人はキツイから。丁度ピーノが今働いているので同じ目に遭っているかもしれない。確認してみます。何か解ったらお知らせします」


 ジェマはもう関わらせたくないが、そんな奴を野放しにする訳にはいかない。ギルド長頑張って。



「ところでボスコが顔の傷を気に入っていたらしく、傷が無くなって落ち込んでいるそうです」


 え? ボスコ?

 イレーネさんが言ってた奴か。やっばー、やっぱりお説教タイムー。


「えーと……ギルド長も傷痕が?」

「季節の変わり目になると傷痕が痛いんですよね。無くなって良かったです」

 おおお、セーフ。


「今朝の納品がされていなかったようですが?」

「ああ、すみません。ジェマとの顔合わせやらで時間が無くなってしまって、明日必ず納品します」

「そうですか。それじゃいつもより魔熊多めでお願いします」

「承知いたしました!」


 しばし沈黙が続く。話は終わったようだ。


「では失礼します。……あ、ボスコさんの傷は、イレーネさんが元に戻してくれるそうなので、大丈夫だと思います」


 とっとと部屋から出て帰って来た。

 後はイレーネさん宜しくお願いします。思いっきりいっちゃって下さい。




 冒険者ギルドが短くて済んだので、もう一件嫌なことを終わらせてしまおうか。

 気乗りしないが、今週行くと約束してしまったので、魔法ギルドへ向かう。


 先日浄化魔法で肌や髪をツヤツヤにして、治癒魔法で体のメンテナンスを行ってしまったおかげで、カノン様と崇められてしまった。もう忘れててくれてないかな。


 そーっとドアを開けて、そーっと移動してアルマさんの元に移動するが、そーっと動いていると思っていたのは私だけだったようだ。


 あっと云う間に、スタッフの女の子たちに囲まれた。

「やっと来たーーー」

「いつまで待たせる気ーーー」


 女の子たちに両腕を押さえられ、ロビーの奥に連行される。


「えー何ですかー? アルマさんに浄化魔法頼まれただけなんですが。アルマさーん!」


「ちょっと先輩たち。カノンさんを拉致しないでください」

 アルマさんが慌てて走って来て、先輩たちから解放してくれた。




「奥に魔法陣の間があるんですけど、相当古いので長年の汚れがひどくて。もしカノンさんの浄化魔法でキレイになるなら、10万デナリ支払うってギルド長が言ってます」


 ほうほう、一度の浄化魔法で10万貰えるなら悪くはないのではないか?

 しかし、相場が解らないけどね、普通はどの位なのだろう。



 それより気になる言葉があった。

「魔法陣の間って何?」


「今じゃ儀式の時にしか使ってないですね。戦時中は帰還魔法で使っていたそうですが」


「帰還魔法! それを知りたかったの。帰還魔法はどうやったら覚えられるの? 誰か教えてくれる人とか本とかある?」


「すみません、ちょっと私には解らないです。ギルド長に聞いておきますね」


 やった、手がかりあるかも。



 着いた場所は、非常に荘厳な扉だった。彫刻が施されている扉で、まさしくイタリアの古い教会の扉と云う感じだ。

 魔法ギルドのロビーはシンプルだったので、こんな所があるなんて思いもしなかった。


 アルマさんが大きな鍵を出して、その扉を重そうに開ける。あんなに彫刻があるんだから重いよね。


「普段開けていないんで、埃ひどいと思います」



 入った感想は、うっわーだった。


 まず目の前に広がったのはステンドグラスの壁面。高い石の柱が天井まで伸びて、大きな石像がいくつも置かれ、その上には天井画が描かれている。そして足元には沢山の色で描かれた模様、これが魔法陣なのだろう。


 第7に地球の宗教はあまり流行らなかったらしいので、イタリアの大聖堂とかを見るのは諦めていたが、宗教があっても無くても芸術を作るのは人間だ。


 ロマネスクなのかゴシックなのかルネサンスなのかバロックなのか私にはさっぱり解らないが、決して日本では見ることの出来なかった景色だ。

 地球と異なる道を歩んできた第7だけど、イタリア人は結局ここに辿り着くんだな。


 他の町を見るのも、非常に楽しみになってきた。


「すっごーい」

 口をポカンと開けて、頭の悪そうな言葉しか出て来ない。


「すごいですよね。ここにこんな部屋があるなんて、歴史の重みを感じますよね。キレイになりそうですか?」


 自分の放つ魔法が、どの位の魔力量でどれだけの範囲に渡るのかを、把握できていない。

 前回の範囲浄化魔法は元気よく唱えて、裏庭とこの建物に行き渡ったよな。


「あれ? 前回ここはキレイにならなかったんだ」

 ロビーまでキレイになった筈なのに。


「あー何だか鍵が閉まっていると結界みたいなので塞がれているそうなんですよ」


 結界! ファンタジー!


 ……ああ、保護膜みたいなものか。急にテンションが落ちた。

 保護膜も超ファンタジーだと思うけど、毎日使い倒してるからね。


「じゃあ、どの位の範囲出来るのか解らないので、確認のために小声で唱えてみますね。……範囲浄化……」

 この部屋の大きさを意識しながら、小さな声で詠唱した。


 その瞬間。

「ま、眩しい!」

 私もアルマさんも、目を押さえて蹲った。


 どこからか強力な光が? と思い、ちょっとずつ目を開けて周囲に慣らしていく。

 でも上を見ると、また目がやられた。


「うわー眩しいー無理ー目が痛いー」


 ステンドグラスはギラギラしてるし、黒い石の彫刻だと思ったのは金だった。

 金メッキかもしれないがギラギラだ。床の魔法陣も、蛍光色みたいな色が使われて眩しくて目がチカチカする。


 半目になったアルマさんが「ギルド長を呼んできます」と目を押さえながら出て行った。



 なんだ、このギラギラな部屋は。

 やっぱり古い歴史のある建造物は、少し暗い方が趣があっていいよ。


 古い建造物を修復したのに、前の方が良かったなんて言われるのは同じ理由だろう。キレイすぎると紛い物みたいな印象を受けてしまうんだよね。


 それは別にして、めっちゃ小声で詠唱したにも関わらず、隅々までギラギラになる私の魔法の威力は考え物だな。

 やっぱり詠唱は声に出しちゃいけないらしい。


 未だ目をシバシバさせて、顔を上げることが出来ないでいると、後ろからバタバタ走って来る音が聞こえた。


「ま、眩しい!」

 ギルド長らしい大きな塊が、足元で蹲っていた。

 やっぱ目を開けられないな。この部屋しばらく封印だな。



 部屋を出たら、三人とも薄目で涙を流していた。


「言っとくけど私のせいじゃないですよ。大昔の人があんなギラギラしたもの作ったのが悪いんですからね」

「ああ、でももうちょっと暗くすることは出来ないか」


「埃を被せろって言うんですか? そんな魔法知りませんよ」

「俺も聞いたことないわ。困ったな。今度お偉いさんたちが来たとき、キレイになったのを見て貰おうとしたんだが、眩しくて見れないわな」

 ワッハッハと、ギルド長が笑う。


「作った当時の状態が見れるなんて、歴史好きには夢のような話じゃないですか」

「目が開けられればな」


「解りました。金が悪いんですよ。金が無ければあんなに眩しくないです。金を剥がしましょう」

「おうっ! 山分けしようか」

「ギルド長もカノンさんも冗談でもやめて下さい!」

 いや、結構本気で言ったが。


 あの部屋全部BOXに入れて、金を分割したら出来ないかな? 出来そうだけど。



 まあどうしようもないので、もう一度しっかり鍵を掛けて、3人とも引き上げた。


 私に非は無いので、約束通り10万デナリ貰えることになった。後はどうにかしてください。


 金を剥がしたくなったときは、ご一報を。


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