60*帰還魔法の書類
ロビーに戻ると、さっきより肌艶の良くなった先輩たちが待ち構えていた。
あの部屋だけの浄化を意識した筈だったが、やっぱりここまで届いていたか。
私の魔法は効果がありすぎる。
「ねーねーカノンちゃん、アルマの髪のリボンってカノンちゃんのでしょう? 私も欲しいんだけど」
「えーと、私が市場で売っているものですね」
「今持ってないの?」
え? 出張店舗再び?
先輩たちが待ち構えていた理由は、前回の治癒の件じゃなくて屋台の方だったか。
んーでも、冒険者より女性が多いから、いい稼ぎになるかもしれない。
「えーと、ここで商売なんてして大丈夫なんですか?」
「大丈夫でしょ。よく行商人来るわよ」
「すみません。この髪留め欲しい欲しいうるさくて。市場に行ったら大行列で休み時間に買えなかったらしいんです。帰りに寄ったらもう店やってなかったって」
それは悪いことをした。うちの営業時間は短いからなー、私がそんなに働きたくないからだけど。
ジェマが仕事を覚えて軌道に乗ったら、もう少し長くすることも検討しても良いかもしれない。
「ギルド長、お姉さまたちがここで屋台出して欲しいらしいんですけど、いいですか?」
「おっ、屋台って何だ? 美味い物か?」
「ギルド長には全く興味ないものですよー」
「そんなん解らないだろうが。カノン、いいぞ出せ」
全く興味ないだろうな、同意。
端のテーブルを押して避けてスペースを作ると、屋台を出した。
「おおぅ。うん? なんだこれ?」
「髪につけるアクセサリーです」
「うーん、食えないな」
そりゃ食えないよ。ギルド長はやっぱり興味が無かったのか、そのまま部屋を出て行った。
先輩のお姉さまたちと、ギルドにいた魔法使いがわらわらと寄って来た。ずっと待っていたらしい。
後ろの方で隙間から覗こうと頑張っている人たちにチラシを渡した。
「3,000デナリ以上のお買い上げで、甘いべっこう飴をおまけしています」
「甘いの? 食べたい」
「わー、キラキラ。欲しい」
キラキラが見たかったら奥の部屋に行くといいよ。ギラギラだけどね。
その日も結構な売り上げになったが、店じまいまで2時間かかった。
「カノンちょっと待て」
帰ろうとしてたら、ギルド長が顔を出した。
「帰還魔法のことを知りたいって?」
早速アルマさんが話してくれたらしい。
「覚えたいんですが、教えてくれる人や本を知りませんか?」
「さっきの部屋に帰還魔法が組み込まれているらしいんだが、残念ながら今眩しすぎて入ることが出来ん」
わわわ、サングラスしたら入れないかな。
「これに部屋の造りが書いているらしいんだが、昔の文字なんで読める奴がいなくてな」
羊皮紙の束をポンと渡してきた。めっちゃ重い。思わずふらついた。
「借りてもいいですか?」
「大事な物なんだからすぐ返せよ」
「でも読める人いないんでしょう?」
ギルド長は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「それでもこの町の重要な宝なんだよ。失くしたら体で払ってもらうからな」
どういう意味ですか!
私の体に興味があるとでも?
まさか、ギルド長こんな顔のクセしてロリなのか?
いや奴隷ってことか? 第7には奴隷制度があるんだった。そっちの可能性の方が高い、ヤバい。
怯えた顔をして後ずさったら、ギルド長が慌てて声を上げる。
「待て、変な想像をするな! 体で払えなんて常套句だろうが。働いて返せって意味だ。これだから外国人は、ったく。絶対失くすなって言ったんだ。一週間で返せよ」
ギルド長は私の体には興味がないようだ、良かったよ。
「はい、絶対に返します。帰還魔法って使える人いないんですか?」
「いねーなー、聞いたことないな」
「あんなに沢山魔法使いがいるのに?」
「この町の魔法使いなんて今いるの除いたら10人位だ。みんな初級だぞ。お前が一番強い」
「え? 試験のときもっと沢山いましたよね?」
「あれは、この州の魔法使いたちだ。アリッチェの奴もいたけど合格出来なかったな。半年に一度持ち回りで試験会場が変わるから、今回はうちだったんだ。丁度タイミング悪くその日にカノンが来たってことだな」
「魔法使いなんてその辺に沢山いると思ってました」
「ちょっと火や水を出せる奴は結構いるが、魔法使いは少ないぞ。俺もこんなもんだ」
ギルド長が、「火」と言って、松明位の火を出す。まあまあ大きいので、これでも凄い方なんだろう。
しかし火の方向が悪かった。私の目の前に出すな。
「書類が燃えたらどうするんですか。町の宝に火が点くところでしたよ!」
「おお、危ない危ない」
「もう、借りていきますね」
危険なので、アイテムバッグに入れるフリでBOXにすぐ仕舞った。
「おー絶対一週間で返せよ。どうせ読めないと思うぞ」
「解りました。頑張りまーす。さようならー」
頑張るのは私ではなく、運営の分析部だ。
多分BOXに入れた瞬間に、書類がコピーされて分析部がスキップしていることだろう。
さっきの魔法陣も直では見られないが、タブレット越しで写真を撮ってある。頼んだ、運営。
小屋に戻ってからユイに聞くと、やっぱり分析部がスキップしていたそうだ。
「でも文字読めるの?」
「古代ラテン語だって言ってた。時間掛ければ読めるんじゃないかな」
「ほうほう、楽しみだね」
「カノンは帰還魔法で楽したいだけでしょう」
「えーファンタジーと云えば、転移魔法じゃないの。一度行った町に行くには定番でしょ。それが無いなんてあり得ない。夢が広がるねー」
「まあそれは確かに。ゲームやってきた世代としては当たり前だよね」
ユイの世代がよく解らない。話していると同年代の感じはするが、私より早く運営にいるので、年上なことは確か。
今までの話を聞く限り、結構長く運営にいるみたいだが、ゲーム世代とは解せない。
「ユイってゲーム世代なの?」
「言ってなかったっけ、結構私ゲーマーよ。有名どころはやり尽くしていると云っても過言ではない。こないだの休みもイブリアンベネディエイトオンラインで終わった」
「あー、運営でやってるのか」
なんだ、その長い名前のゲームは。最近のゲームは解らん。
「カノンもやりたかったら、タブレットから出来るよ。面白いから一緒にやらない? パーティ組もうか」
「どうせ時間の流れが違うんでしょ? こっちが一歩歩く間に百歩進まれたらパーティ組めないわ」
「そうかー。でもカノンの時間に合わせたら寝てる暇なくなるしなー」
「いいよいいよ、オンライン苦手だし、一人でコツコツするのが好きなの。自分のペースで生きるから」
コツコツゴーレムでも作ってるよ。
「じゃあコツコツゴーレム作り頑張って」
「見透かされた?!」




