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アイテムBOXに北海道丸ごと入っているので、異世界でも食べるものには困りません  作者: 柚木 冬


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58*ジェマの初仕事

 飄々とした感じのギルド長だが、やっぱり侮れない。

 魔熊と闘う歴戦の勇者だったか。


 ちょっと全力疾走してしまったので、後ろでジェマがハアハア言っている。

「ごめんね。ちょっとあの人に捕まると長いから、10時に間に合わなくて走ってきちゃった。追い駆けて来なくて良かった」


「ギルド長でしたよね」

 ジェマははっきり顔を見たようだ。


 夕方にまたギルドに行くので、捕まるかもしれない。うーん、悪いことはしていないけど、何の罪だろう。


 考えても仕方ない。ギルド長に対しては、魔熊を多めに納めれば許してくれそうな気がする。

 イレーネさんには手鏡を渡して買収しようか。


 そういえば今週魔法ギルドに行く予定だったが、あっちも行きたくないなぁ。



「うちの屋台は奥の方なんだ」

 手前側は飲食が多く。10時でも結構賑わっている。ジェマも楽しそうに市場を歩く。


「あそこに列が出来ているでしょう? あそこ」

「え? 屋台開くの待ってるんですか?」


「そうなの。だから人手が足りなくてさ、早く慣れてよろしくね」

「解りました!」

 気合は十分だ。



 人をかき分けて列の前まで進む。

「おはようございまーす。もうすぐオープンなので、少しお待ちください」


 アイテムバッグから屋台を出して設置する。毎度のことだが、一瞬で屋台が出来上がるのを見て、周りから声援が上がる。

 ジェマが初めて見て、物凄くびっくりしていた。


「2番目の方からチラシを見てお待ちください。ジェマ、これを配ってきてくれる? 見終わったら後ろに回してくださいって」

「はい!」

 さっき説明したので、解ってくれたようだ。


 私は屋台の中に入って、最初のお客さんの接客を始めた。

 しばらくはジェマは後ろで待機していたが、お金の受け渡しを率先してやってくれるようになった。


「1,500デナリです。2,000デナリのお預かりで白銅貨5枚のお返しです」

 私がそう言うと、横からジェマが白銅貨5枚をお客さんに返してくれる。

 そのうち私の言葉より早くお釣りを渡してくれるようになったので、計算も問題なさそうだとジェマに任せることにした。


 先日から商品に値札タグが付いて、会計のときに値札タグを回収している。金額の照合がしやすくて売上も集計しやすい。

 ここにICチップも入っているので、持ったまま出ようとすると万引きセンサーが働くようになっている。


 屋台のクセに近代的だ。勿論作ったのは魂さんたちで、値札タグも付けたまま納品してくれる。


「可愛い女の子が入ったのね」

 お客さんがジェマを見て、目を細めて言う。


「一人だとお待たせしてたので、これで少しは早くなると思います」

「子供にああいう髪型をさせても可愛いわね。あれと同じのある?」


「色違いでしたら、ここにあります」

「あら、赤も可愛いわね。娘に買っていこうかしら」

 ジェマのおかげで売れ行きも好調だ。やっぱり女の子の服装をさせて正解だった。


 13時前に客足が落ち着いたので、裏で食べておいでと、サンドイッチと飲み物を渡したら、10分もしないうちに戻って来た。

 目がキラキラしているので、美味しかったようだ。


「もっとゆっくり食べていいのに」

「大丈夫です。あんな柔らかいパン初めて食べました。ありがとうございました」


 ジェマのために出来ることは少ないが、ご飯だけは沢山あるからいっぱい食べさせてあげたい。


 私も交代して、すぐ後ろで昼休憩をとる。

 お客さんと話すのは苦手そうなので、初日から一人にするのは申し訳ない。トイレも速攻で行って帰って来た。



 ジェマのバイト初日は滞りなく終了した。

 初日の割に期待以上の働きをしてくれて、今後楽になりそうな気がする。


 しかしジェマの方は、話好きのおばさんに話し掛けられたときに、しどろもどろになってしまったことを反省しているようだ。


「あんなの気にすることないって、そのうち慣れるから大丈夫」

 ジェマの頭をポンポン叩いて、冒険者ギルドへ向かう。




 ギルドのロビーに入ってから朝のことを思い出したが、周囲の目を気にせずに一直線でイレーネさんの元へ向かった。


「今日のお仕事終わったよ。ジェマは予想以上に働いてくれました。ジェマさえ良ければ明日からも続けて欲しいんだけど、大丈夫?」


「ありがとうございます! 全然働けなかったのにごめんなさい。明日から頑張ります」


 こんなに出来るいい子なのに、今までのことから自分に自信がないらしい。

 こういうときはとりあえず餌付けしかないな。


「お疲れ様―。では契約は継続だね。給料は週払いだから土曜の夜にまた顔出してね」


 イレーネさんに顔を寄せて、小声で話す。

「ジェマの性別変更しないとならないから、毎日朝と夕方に更衣室ちょっと貸してくれないかな」


「あ、なるほどね。じゃあ棚空いてるところ一個使っていいよ。ジェマの服入れておいたら」

「ありがとう。市場で着替えるわけにいかないからさ。毎日勝手に使って大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。ギルド長には後で伝えておくわ」


「誰か私の話をしましたか?」

 うわー!

 常時発動している筈の索敵が効かない。二度も背後を取られた。

 この人が魔熊に食べられかけたなんて絶対嘘だ。きっと、魔熊十頭と一斉に闘ったんじゃないの。


「あ、いえいえ、ちょっとこの子を着替えさせたくて、更衣室を貸してくれないかとお願いしてたんです」

「ギルド長いいですよね?」


 ギルド長が私の隣に目をやる。

「おお、ジェマ君だったか。朝はよく見えなくて気付かなかった。仕事は大丈夫だったかい?」


「はい、美味しいものを沢山頂きました!」

 直立不動で答えるジェマ。

 仕事の感想じゃないよね、それ。美味しかったなら良かったけど。


「ほう、それは良かった。私も美味しい物が食べたいな」

 それって魔熊のことですよね、きっと。


「じゃあ着替えさせてくるので」

 ジェマの背中を押して歩きかけたら、後ろから首根っこを掴まれた。


「終わったらギルド長室へ」

「……あ、はい……」

 逃げられる運命は無かったな、やはり。



 更衣室に入って、ジェマの髪型を元に戻す。

 普段着セットを出して、着替えて貰った。

 仕事着は空いている棚に入れておく。浄化と再生と劣化防止の魔法が漏れなく付与されているので、汚れる心配は無い。


「ここがジェマの棚ね。しばらくは髪をセットするの手伝ってあげるから、毎朝9時にここで待ち合わせしよう」

「はい、解りました」


 大きな袋を出して、普段着セットの残りを仕舞う。そして、今晩と明朝のご飯もバッグに入れた。


「ちょっと重いけど、これ持って帰って。男の子用の普段着が入ってるから。着方は今と大体同じだから解るよね。マントはこっちが厚くてこっちが薄いの。もう少し暖かくなってきたら、薄い方の出番だね」

「こんなに良い服勿体ないです」


「安い服なんだよ。前のはほつれてたから、こっちの方が暖かいと思うよ。どうせ私に着れる大きさじゃないから気にしないで」


「カノンさんのお下がりなんですか。それなら嬉しいです」

 そういう意味では無かったけど、それで受け取ってくれるなら、それでいいや。



「あと、晩ごはんと朝ごはんも入れておくね」

「そんなの貰いすぎです!」

 いやいやと、ジェマが首を振る。


「求人票にご飯付けるって書いてたでしょう?」

「それは昼だけです! 今朝もいっぱい食べましたし、私食べ過ぎです」


「全然食べ過ぎじゃないよ。12歳にしては随分小さいよ。いっぱい食べないと大きくならないんだからね。いっぱい食べれるようになることが、仕事だと思いなさい」


 自分で訳の解らないことを言っているのは承知しているが、私の仕事はジェマを太らせることである。


 ジェマも首を振り続けるが、私には反論が効かないと悟ったようだ。仕方なさそうに頷いた。


「ありがとうございます」

 ありがとうのテンションではないのだが。しばらく攻防戦が続きそうだな。



 たった10歳で一人になって、頼る人もおらず、身を守るために男のフリをして、仕事先では鞭で打たれ虐げられる。


 人生ハードモードだな。


 イレーネさんみたいに気にしてくれる人もいるが、相手に迷惑を掛けると思って甘えられない。


 私が12歳のときなんて、どんな我儘でも言っていいと思ってた。丁度反抗期で、思い通りにならないと八つ当たりしていたのに。

 子供すぎた私と、大人すぎるジェマのギャップに思い知らされる。

 せめてこの子が笑えるようになるといいな。


「じゃあ、ギルド長に呼ばれているから今日はここまでね。一人で帰れる? 不安だったら送っていくよ」

「大丈夫です! いつも一人で来てますから。今日はありがとうございました。明日も宜しくお願いします」

「うん、解った。じゃあ、気を付けてね」


 過保護な私は、そっとジェマに保護膜を掛けた。襲われそうになったら、阻んでくれるだろう。


 何度も頭を下げてジェマが帰って行った。


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