52*冒険者ギルドでサービス残業
朝の宣言通り、帰りに冒険者ギルドに顔を出した。
丁度イレーネさんの客が途切れたところだったので、早速話し掛けた。
「本当に来たのね、偉い偉い」
何故か頭を撫でられた。
「それでカノンに頼みたい仕事が色々あるんだけどね……」
勢いよく立ち上がり、求人票を持ってこようとするイレーネさんを止めた。
「違う違う。私が仕事を依頼したいの」
「え? どういうこと?」
「先週から市場で屋台出してるんだけど、最近お客さんが多くなって一人じゃ忙しくて、売り子の求人を出したいんだけど」
「はいーーー? 商人になるって冗談じゃなかったの?」
「そうだよ。ほら商人ギルドのバッジ」
襟元を見せびらかす。
「本当だ。それよりでっかい魔法ギルドのバッジの方が目立ってるんだけど。上級バッジって大きすぎない? こう見ると、冒険者のバッジ貧相すぎるわね」
「めっちゃ邪魔だよ。でも付けないと捕まるらしいから仕方なくつけてる」
「冒険者バッジももっと大きくするべきか」
「やめてよ。んで話戻るけど、売り子ってすぐに見付かるかな? 商品説明とかは私がするから、基本はお金の受け渡しをお願いしたいんだけど。あと、私が休憩のときの店番」
「計算が出来る人って云うのはあんまりいないのよ。何時から何時まで?」
「商品は全部500とか1,000デナリとかだし、そんなに大量に買う人はいないから、難しい計算までは要らない。時間は10~16時。日曜休み。あと1ヶ月半の期間限定」
イレーネさんは仕事モードにスイッチして、求人票を書き出した。
「取り扱い商品は? 量は多いの? 金額は解りやすく表示されてる?」
「ヘアアクセサリー商品。うーん、見て貰った方が早そうだけど、端っこに出してもいい?」
「空いてるから別にいいけど」
ターフテントは邪魔なので、グループ化を解いてワゴンのみをスペースに出した。
「おおっ! 何これ可愛いじゃない。オシャレだと思ったら、こんなに沢山持ってたのね。これ何?」
聞かれるままに一点ずつ商品の説明をしていると、職員さんや近くにいた冒険者まで寄って来て、遠巻きに見てる。
「これめっちゃくちゃ欲しいんだけど。売って!」
「いいけど、先に求人票書いてよ。金額はこうやって大きく書いてあるし、大体のお客さんは1、2個しか買わないから計算は難しくないと思う。売上は紙に数量を書いて、お金はここに入れる。そんなに難しくないよね?」
「どっちにしようかな? カノン、どっち似合うと思う?」
「仕事してよ」
ダメだ、イレーネさんの目は商品に釘付けだ。
他の職員や女性冒険者たちも遂に傍までやってきて、直接商品を手に取りだした。
「もしかして市場の青いテントのお店? 見てみたかったけど、凄く並んでたから見れなかったの。ここで買えるなんてラッキー」
商品に興味ないだろう男性冒険者も、後ろから覗き込んでいる。
「なーに何? アクセサリー?」
まずい、収拾つかなくなってきた。
「求人出すためにどんな店かを見せただけなの。ここで販売したら、ギルド長に怒られると思う」
イレーネさんは鏡を見ながら、どれが似合うかを吟味中で、私の声は聞こえていないらしい。
横にいた職員さんが、「私聞いてくるねー!」と元気に飛んでいった。
そして1分もしないうちに、ギルド長同伴で帰って来た。
「オッケーだって!」
魔熊好きのギルド長も興味深げに商品を覗き込む。
「妻の誕生日がもうすぐで、何がいいか考えてたんですよね。何もあげないと怒るので」
「それいい! 奥さん絶対喜びますよー。これなんていいんじゃないですか?」
「うーん、ちょっと地味じゃないでしょうか。妻は赤が好きなのですがありますか?」
そのまま成り行きで、出張店舗オープンとなり、2時間解放して貰えなかった。何故こうなった。
イレーネさんは金欠だったのに物欲に負け、5,000デナリもお買い上げ。明日から節約するそうだ。
ギルド長は奥さんの誕生日プレゼントに、手鏡やヘアクリップなど1万デナリも購入して頂いた。
おまけにイレーネさんにはべっこう飴をあげたが、ギルド長には熊のマスコットを渡してみた。
以前に私が可愛いと思って置いた動物のマスコットだが、この国では熊被害が多いことから熊を可愛いと思えないらしく、悲鳴を上げてまで嫌われた物だ。
魔熊好き(食べる方)のギルド長ならどういう反応を示すかと思って渡してみたら、じっと熊の顔を見詰めて「これは良い物を頂きました。机に飾らせて頂きます」と言って去って行った。
どういう感情なのかは結局解らなかった。クマ好きってことでいいのかなぁ。
他の職員さんや冒険者にも沢山ご購入頂いて嬉しいが、2時間の延長はとても疲れた。
やっとイレーネさんの元に戻ると、本人は仕事を片付けて帰り支度をしているので、必死に止めた。
「あなたのせいで私が大変な目にあったんでしょうが。求人票早く作ってよ」
「そういう話もあったっけ」
「それがここに来た理由だよ!」
「いいじゃない、いっぱい売れたんだから」
「時間外労働です。疲れてるんだから早くして」
「はいはい解りましたよ。時給は? 相場だと時給600デナリ位かな」
「じゃあ700デナリで。あとランチは別に支給する。空いている時間に後ろの方で食べて貰う」
「あら太っ腹じゃない」
「長期じゃなく期間限定だと人が来ないかもしれないと思って、条件上げてみた」
「そうねー、確かにそれはある。でも短期を希望する人もいるから、何とも言えないな。時間が昼間だけなので、奥さんとかにいいかもね」
「お客さんが殆ど女性なので、女性の方が合ってると思う」
「解った。じゃあこんな感じでどう?」
作った求人票を見せて貰う。バイトの求人なので簡単なものだ。一通り読んで頷く。
「ギルド長の承認が貰えたら掲示するから。ギルド長まだいるし、カノンのだから今日中に貰えると思う。応募者が出たら、条件に合っているかギルドでチェックして、OKだったらカノンに連絡する。毎日市場から帰るときにギルドに顔出して貰える?」
電話で連絡貰えないのが面倒だが、仕方がない。冒険者ギルドは近いから良かった。
すぐにいい人が見付かると良いのだけど。
16時過ぎに来たのに、終わったのは19時だった。
今日もしんどいんですが。




