45*ボーナさんが来てくれた
昼近くなってお客さんもちらほら増えだした。
可愛いと寄って来るが、買うまでは至らない人が多い。無くて困るものじゃないし、ちょっと高いからね。
商品選定の段階でそこを目指したんだけど、全く売れないのはそれはそれで寂しいな。
一通り商品の説明を私にさせたから、何も買わないと申し訳ないというお客さんに、500デナリのヘアピンが売れた。
ありがとうございます。十分ですよー。ぜひ使ってください。
その後も500デナリがいくつか売れた。やっぱりボーナさんの価格設定が高いんじゃないかな。
私でも購入には至らない気がするなぁ。
15時位にボーナさんが商業ギルドの女の子たち4人を連れて、本当に来てくれた。
「遅くなっちゃったわーごめんなさいね」
「いえ、お仕事中なのに顔出して頂いて、申し訳ないです」
「市場見るのも仕事なのよ」
女の子たちは「可愛いー」とキャッキャッしている。若い子たちのノリだ。
ボーナさんはすっかり私の商品に詳しくなっているので、私の代わりに全部説明してくれた。
「ほら、これ似合うわよ。みんな一個ずつ好きなの買ってあげる」
「本当ですかー? どれでも?」
「一番高い物を選ぼうとするんじゃない。あなたにはこういう色が似合うと思うんだけど」
「あー可愛いー似合う似合うー」
「ギルド長、私これがいいです」
「あ、それすっごく便利よ。いい趣味してる」
「えー鏡ダメですか? さっきの仕事頑張りますからー」
「もう仕方ないわね。いいわよ鏡買ってあげるわよ。でも仕事頑張るのよ。他に鏡欲しい人は?」
全員から手が上がった。
ボーナさん自身も一通り商品を買ってくれて、何と総額22,000デナリになった。
さすがに痛そうな顔をしているが、値段設定をしたのはボーナさん自身なので仕方ない。
私はもうちょっと安くしようって言ったよ。
女の子たちも、追加で自分の財布から2,000デナリ分位ずつ購入してくれた。
「ギルドの男たちには内緒だからね」
「解ってまーす」
ボーナさんは天井を見上げて、上のテントを見る。
「雨が凌げていいわね。同じ物はもう持っていないのかしら?」
「テントですか? これ一つきりなんです」
似たような物なら沢山持っているけど。
「ギルドで出店するときいいなと思ったけど、これなら作れるか。カノンちゃんありがとう、いいアイディアを頂いたわ。ところでこの色はどうやって染めたか知ってる?」
「テントの色ですか?」
「そう、薄い青色、すごくいい色。顔料があるってことよね。この顔料は手に入らない?」
「さあ。テントは貰いものなので、ちょっと解らないです」
そうかー産業革命前の合成顔料なんて無い時代だ。自然素材で爽やかな水色なんて無いのだろう。
平民みんなが着ている暗い青を薄めただけでは、こんな水色なんて作れないもんね。
地球の中世ヨーロッパでは、胡椒と同じ位顔料も貴重だった筈だ。
自身の服装にも更に気を付けるようにしよう。
商品のヘアクリップに派手な色が使われているものもあるが、面積が狭いので貝殻を削って着色したとかで通るだろう。シュシュも地味な色にしておいて良かった。
ボーナさんが商売人の目でずっと上を見続けているので、
「沢山買って頂いたのでどうぞ」
と、べっこう飴を一つずつ渡して気を逸らす。
こっちも突っ込まれそうな物だが、出所を聞かれても最悪自分でも作れるので大丈夫だ。
砂糖さえ手に入れば誰にでも作れる。
この国にも砂糖はあるが、希少で高いので庶民の口にはなかなか入らない。商業ギルドの職員なら手に入るだろうが、そんなに気軽に食べられるものでもないだろう。
みんな甘いと感激してくれた。
「この飴は売ってくれないの?」
ボーナさんの目がキラーンと光る。私は笑って誤魔化した。
「数が少ないですからね。いっぱい買ってくれたので、ほんのおまけですよ」
「そうね、残念だわ。じゃあ長いことありがとう。またギルドにも顔出してね」
商業ギルドの職員たちがたむろしていたので、他のお客さんたちも興味を抱いて見ていたようだ。職員たちが帰るとすぐに寄ってきた。
みんなが大声で話していたので、私の説明もあまり要らなかった。興味津々で色々と買ってくれた。
飴のやり取りも見られていたと思うので、3,000デナリ以上お買い上げ頂いた方に飴のおまけを渡すと、2,000デナリ買ってくれた女性が、自分も欲しいと1,000デナリ分追加購入してくれた。
一人がその場で食べて、「こんな甘いもの初めて食べた」と泣きそうな顔をした。もう一人は持って帰って娘にあげるそうだ。
べっこう飴一つでそんなに喜んでくれるなら、安く売ってあげたいが、ボーナさんのキラーン以上の大変さが待ち受けているだろう。
べっこう飴一つで攫われたり奴隷にされるのは御免だ。
怖いので、北海道チートはまだ発揮しないぞ。
初日はダメかと思ったけれど、商業ギルド効果で沢山売れた。
「ギルド長が来るなんて凄いわね。前から知り合いだったの?」
客が引いたので、隣の食器屋のお姉さんが聞いてきた。
「いいえ、登録に行ったときに初めて会ったので、まだ三度目ですね。他の職員も連れて来てくれたのでびっくりしました」
「私なんて挨拶したの今日が初めてよ」
「最初にギルド行ったときに凄く混んでて、ギルド長だなんて知らなくて声を掛けたんです。受付のお姉さんだと思ってましたよ」
「きゃー恐れ多い。でもそれで逆に気に入られたのかもね。きっと若い女の子だから応援したくなったのよ。元貴族令嬢だからね、そんな気軽に声掛けていい人じゃないのよ」
「ええー貴族なんですか? 私かなり言葉遣いひどかったと思う。大丈夫かな」
うわーやらかした。確かに気品ある佇まい。今でも十分おキレイだけど、若い頃は相当な美女だったろう。
「元貴族ね。商人と結婚したから、今は家を出て平民になってるから」
「そうなんですかー。ご主人も大きな商会の方なんですか?」
「そうみたいよ。レインディナで大きな船持ってるって。もうお子さんは独立したそうで、ギルド長は転勤でこっちに来て、今は離れて暮らしているのよ」
「え? もっとお若いかと思ってました。いや、かなり若く結婚したかもしれないか」
「50は過ぎている筈だけど」
「うっそぉ」
「若いわよね。肌もキレイだもん」
「やっぱりいい化粧品使ってるのかな」
「ギルド長だもん。お金も持ってるわよ」
「いい物も手に入るだろうし」
「そうそう」
やっぱり同じ30代、世間話が盛り上がる。お姉さん、もっと若かったらごめんなさい。外国人の年は解らなくて。
「お茶飲みます?」
「あら、いいわね。ちょっと休憩しましょうか。といっても、うちの店は全然売れてないんだけどね。いっぱいお客さん来て羨ましいわ」
「今日だけですよ。ボーナさんのおかげ。でも鍋とかは壊れないと新しいの買わないですよねー」
「そうなのよ。みんなの家の鍋壊れろーってお祈りしてるんだけど」
「あっははは。そんなお祈り初めて聞きましたー」
「全然壊れてくれないのよ」
「あはは。鍋とかはどこからか仕入れてるんですか? それとも作ってるんですか?」
「うちは小売りだけ。親戚の鍛冶師が作ってるの。食器は年に2、3回来る商人さんがいて、まとめて買ってるのよ。籠はおじいちゃんの手作り」
「おじいちゃん凄い。模様キレイだなって思ってました」
「おじいちゃん喜ぶわ。買ってくれたらもっと喜ぶけど」
丁度店の前に親子連れが来たので、話が中断する。
「いらっしゃいませー。髪につけるアクセサリーですよ」
おじいちゃんには悪いけど、籠は沢山持ってるんだよね、これ以上は要らないな。隣で売ってなければ、うちでも売りたい位だよ。
夕方になって、帰り支度をする屋台も増えてきた。私もそろそろ帰ろうかな。
「お姉さんは何時ごろまでいるんですか?」
「17時に旦那が迎えに来るからそれまでいるよ。荷物持ちね」
「この後って、お客さんの入りはどうですか?」
「もうあんまり来ないよ。特に女の子たちは暗くなる前に家に帰っちゃうから」
「そうですよね。朝もあまりお客さんいなかったし、営業は10~16時位でいいかな。明日はその頃来ます」
立ち上がって、アイテムバッグを開き一瞬で屋台を収納する。
「あーやっぱりいいなー。手ぶらで帰れるなんて」
「はい。ではお先に失礼します」
ニコニコ手を振ってさよならをした。




