32*モテ期は一瞬だけだった
8人待ちかー、結構並びそうだな。
男性ばかりなので、その中にいるのが違和感がある。
これって絡まれるケースかなー。無いといいなー。
「ここ来るのは初めて?」
前の男性が振り返って言った。
さっきのイレーネさんとの会話を聞いたのだろう。登録したての冒険者だと気づいたに違いない。
でも絡んできた訳ではなく笑顔だ。『嬢ちゃんは家に帰ってママのおっぱいでも飲んでな』とか言われなくて良かった。
「そうなんです。いい町ですね」
「そうだろー、ご飯も美味しいしいい所だよ。女の子のハンターって珍しいね」
「まだハンターするかどうかは決めかねているんですが、魔法使いなんです」
「あ、やっぱり? そんな感じした」
その前にいた男性も振り返って言う。
結構二人とも若いな。10代後半~20すぎかな。ハンターは体力仕事だろうから若い人が多いようだ。
「ソロ? 仲間はいないの?」
「はい、今は一人です」
「魔法使いで一人は危ないじゃん、前衛いらない? 今度一緒に行かない?」
「こら、お前、何誘ってるんだよ。こいつはダメだよ、危ないから」
「そんなことねーって」
「俺」「オレ」
気付いたら、他の子たちも話に参加していた。
やばい、私モテてる? こんなこと無かったから、どう返していいか解らないわ。
モテイベント到来と思ったが、イタリア男子は誘うのがマナーらしいしな。本気にしちゃいかん。
「あれ、みんなソロなんですか?」
「いや、うち3人」「うち5人」「4人。魔法使い募集中」「今ソロ。じゃ、俺だな」「お前彼女いるだろ」
「どの辺で活動してるんですか?」
仲間を作ろうとは思っていないが情報収集は必要だ。
「北門から出て、西に行ったところの草原が捕まえやすいよ。歩くと片道1時間位。明日行く?」
「あーそっちにも魔獣いるんですね」
「どこで魔獣狩ってきたの?」
「南に行ったエルゼダンテの森ってところです」
言った瞬間、みんなの表情が急に固まった。向こうにいる窓口のおじさんまでが、ばっと顔を上げてこっちを凝視した。
え、遠いから?
確かに歩きじゃ森の入り口まででも一日かかるもんね。バイクだったから半日で来たけど。
「……へー、あー南門から行くともう一つ森あるよね。……あっちなんじゃ?」
「あー、あるある、アールレイの森、あっちも魔獣出るらしい。そうだよ多分」
男子たちはみんなで頷いた。
「そうなんだ。結構危険なんですね、この辺」
「そうだよ、一人は危ないよ」「誘おうとしてるんじゃねーよ」
「そうだ、受付のアイテムバッグ買おうか悩んでるんですが、どの位入ります?」
「え? バッグ持ってないの?」
「持ってるんですけど、私のあんまり入らないので、ここのはどうなのかなーと思って」
大噓付きだ。北海道位余裕で入る。
「めちゃ沢山入るよ。今日も50匹位入ってる」
おおー50匹か。じゃ、沢山出しても怪しまれないな。小さいって言っちゃったから、40匹位にしようかな。
色々と聞いていたら、3番目まで来ていた。後ろにも5人以上並んでいる。
「あ、先いいよ。俺の量多いから時間かかる」
「あーでも私も40匹位いると思うんですけど」
「いいよいいよ、レディファースト」
二人の男子が先を譲ってくれる。これで断るのも申し訳ないか。
「ありがとうございます」
「今度一緒に狩りに行こーね」「町案内してあげるよ」
好意は嬉しいけど、元32歳のお姉さんとしては、ちょっと若すぎてノリが無理。
とりあえず笑って誤魔化す。
窓口のおじさんにバッジを見せて名前を告げる。
「初めてか。ここに全部出してくれるか?」
「えーと40匹位いると思うんですが」
様子見で小さいの30匹、大きいの10匹にしよう。
魔鼠15、魔リス8、魔兎7、魔猿1,魔狼5、魔鹿1、魔山羊1,魔熊1
あれ、1匹足りなかった。魔熊もう1匹追加する。
「もう置けないから!」
下を見ながらBOXから取り出していたので、前を見てなかった。
買取所がいっぱいになっていて、おじさんが魔獣の下で潰れていた。
最後に出した魔熊がカウンターから滑り落ちて、こっち側に落ちた。
「あ」
男子たちがうわーっと逃げていく。
あ、私のモテ期が……。
「何ですか?! どうしました?」
男子たちの悲鳴を聞いて、先程の受付のイレーネさんが走って来た。
落ちている魔熊と、カウンター前に突っ立っている私を交互に見る。
やばい、見付かった。
とりあえず魔熊に潰されていたおじさんを救出すべく、魔熊をBOXに戻す。
こっちに落ちている魔熊も回収した。
「魔山羊も避けた方がいいですかー? 大丈夫ですかー?」
「……ああ、大丈夫だけど、今日の解体は無理だからな。あと、買い取り額もすぐには出ないから、待っててもらっていいか?」
「はい、後で大丈夫です。商業ギルドに行ってくるので、夕方にまた来ますね」
買取のおじちゃんに頭を下げて立ち去ろうとしたら、目の前を阻まれた。
がしっと両肩を掴まれる。
「お嬢さんちょっと来てもらいましょうか」
イレーネさん、どこにそんな力がっ。イレーネさんに引きずられて、受付の裏に連行されていく。
さっきまで私をちやほやしてくれた男子たちが、隅の方で固まって震えている。
完全にモテ期は過ぎ去ったな。




