118*結局魔獣討伐が一番得意かも
起きると10時だった。本当に疲れていたらしい。
リビングに降りると、ジェマが心配そうな顔をしてきた。
「カノンさん大丈夫ですか? そんなに遅くまで仕事なんて大変ですね」
前世では22時なんて至って普通の時間だった。
22時に終わっても電車乗り継いで帰るので、家に着くと毎日23時半だったな。帰還魔法で移動時間が無いのは本当に良いね。
イベント会社だから土日当たり前だし、終電逃すことも多かった。ただそれが普通だと思っていたので、ブラックだと思ったことは無い。代休も貰えたし。
でも寝ている間に急死したってことは、割とブラックだったのかもしれない。
私が死んだ後で裁判騒ぎになっていなければいいけど。
この国には労働基準法も無いので、あのおっちゃんたちのペースに付き合っていたら、あっという間にブラック突入だろう。また気付かぬうちに死ぬ羽目になる。
私は海の見えるカフェでゆっくり過ごしたいのだ。面倒くさいことはさっさと終わらせて早く逃げよう。
ジェマの見ているアニメをぼーっと眺めながら、朝昼兼のごはんを食べる。
散策中お腹が空いたらおやつでも食べよう。
昨日考えた地味な山ガールコーデを着て鏡を見る。全身黒は地味すぎだな。
髪の毛が薄茶なので、辛うじてハイライトが入っている感じだ。
ブーツやミニスカートを茶系にすると若干見られる様になった。髪も長いと邪魔なので一本に結っておく。
正午待ち合わせだが、先にやりたいことがあったので、11時すぎに小屋を出た。
洞窟前には既に10数人集まっていた。武器を持っているいかつい集団もいるので護衛のハンターだろう。魔法使いっぽい人やギルド職員らしき人もいる。
ギルド長たちはまだ見えない。22時の段階ではしゃいでたし、あのまま飲みに行って二日酔いとかは止めてよ。
アリッチェとウベールは近いが、普段仕事でみんな集まることなんて無いから珍しいのだろうけど、ギルド長が修学旅行気分なのは勘弁して欲しい。
昨日の騒ぎのせいか、私の顔を覚えている職員がいたようだ。
「カノンさんおはようございます」
「おはようございます。冒険者ギルドの方ですか?」
「はい。ギルド長はもう少ししたら来ます」
「あのー……あの後大丈夫でした? あの受付の人」
「ああ、大丈夫ですよ。自業自得なので放っておいていいです。あいつ性格悪いんで気にしなくていいです。それより美男美女でカノンさんの方が余程お似合いですよ。頑張ってください」
職員の男性は、私を励ますように微笑んだ。
「え? あ? は? あんなチャラ男と私をくっつけないで下さい! あり得ません!」
「あ……あれ、そうなんですか。昨日も手を繋いでたしそうなのかと……」
「あいつが勝手に握ってきただけです! 全力で振り解いてるのにしつこくて」
「そうだったんですね。すみません」
「ギルドの人たちにも説明しておいて貰えますか。変な誤解をされると困るので。受付の人に刺されても困るし。私は一切チャラ男とは関係ないし、全くタイプじゃありません。そうみんなに言っておいて下さい」
「はい、勘違いしていて申し訳ありません。ギルドに戻ったら言っておきますね」
「ありがとうございます」
「そうすると、今は彼氏はいないんですか? 魔法ギルド長がダメなら、どういう男が好きですか? 良かったら今度……」
ここにもいたか、イタリア男め。
職員の話は無視して、封鎖した入口に向かう。
「ここ開けちゃいますね」
土魔法で固めたドアを外して中に入る。天井に光魔法を飛ばして、最初の何も無い広間を明るく照らした。
ここで今やろうとしているのはジグソーパズルだ。
大きい遺跡部屋の崩れた壁画の一角をギルド長への説明用にBOXに入れて持ってきたので、それを組み立てたい。
まずは全部出し、壁画を表にして並べる。壁画が描かれている欠片は24個あったので、それ以外は端に避けておく。24個位のパズルなんてすぐに解るだろうと思ったが、元の絵も知らないし、角が無いのでどれが上か下かも解らない。
組み合わせて悩んでいると、さっきの職員も一緒に手伝ってくれた。
それはいいが、要らぬことを色々と話しかけてくるので面倒だ。
君の過去の恋愛話には興味はないので、どうでもいいです。
私たちが洞窟に入っていくのを見ていた別の人たちも、覗き込んで寄って来た。
後ろから顔を覗かせて、それはそっちじゃないかとか、上だ、違うこっちだ、とうるさくなってきた。
こういう作業は私に合わないらしいので、やりたい人に任せることにした。
洞窟を出てうーんと伸びをしながら洞窟内に索敵をかける。広く延ばしていくと、小さな魔獣が数体いた。数体なら問題ないが、どこか隙間から入り込んだのかな。
洞窟の周囲にも索敵を掛けると、遠くの方から勢い良く近づいて来る大型魔獣が見付かった。
「大型魔獣の接近あり。ちょっと行ってきますね」
洞窟内に声を掛けてから、そっちに向けて走る。
「嬢ちゃん、俺も行く!」
後ろからハンターらしき声が聞こえたが、もう少しで接敵しそうなので先に行く。
見えた! 魔猪だ! 水弾!
おっとこの奥にもいる。頭が見えた瞬間に水弾で仕留めた。
後ろから走って来たハンターたちが追い付いて来た。
「どこだ! 何が出た!」
「すみません、終わりました」
仕留めた魔猪と魔山羊をBOXに仕舞う。
人前で仕舞うときのために、ダミーのがま口を腰のベルトに装着してある。これは普通に小物入れでよく使うティッシュとかが入っている。
「魔猪と魔山羊……こんな短時間で。何も音が聞こえなかったぞ」
「あ、危ない、水弾」
ハンターの後ろから襲ってきた魔兎に水弾を放つ。
「魔兎ですね。兎は可愛いのに、どうして魔獣化するとこんなに凶悪な顔なるんでしょうねー」
にこやかに話し掛けているのに、ハンターのいかついお兄さんたちは恐い顔のままだ。
うーん、仲良くなれそうにないな。勝手に仕留めたのが悪かったのだろうか。最近非常識だと言われるので、もう少しコミュ力を高めたいのだが。やっぱ発音かなぁ。
「眉間に一発か、全く傷がない。この毛皮は高く売れるだろうな」
「そうですね。最近はなるべく傷をつけないように心がけています」
「俺は剣だからどうしても傷が大きくなってしまう。魔法は楽でいいな」
「はい。頑張って練習しました。土弾とか撃つと威力が強すぎて、魔兎の頭が吹っ飛んじゃうんですよ。一番損傷が少ないのが水弾だったので、小型や中型は水弾ばっかりですね」
「そうか。魔法が楽な訳ではなく、色々練習した結果なんだな」
おお、コミュ力上がって来た? 初対面の人とも話せてるよ。
「そうなんですよ、ここまで来るのに何百匹倒したことか。……あっ! 1km位行った先に魔獣がいますね」
「……何百匹? ……1km?」
「もうすぐ12時なのでギルド長たち来てるんじゃないでしょうか。先に洞窟入って通路進んで下さいって伝えて貰えますか? 私魔獣見てきます」
「いや、俺たちも行こう」
「いえ大丈夫ですよ。ギルド長たちの護衛で来られたんですよね、そっちの仕事をしないと。洞窟の中にも小型が数匹いたのでよろしくお願いします。私は向こうの魔獣がこっち来ると困るので、それを片付けたから合流します」
通路や狭い部屋を見るだけで結構時間がかかるだろう。その間に合流すればいいや。
洞窟周辺の魔獣を先に片づけて来よう。ハンターたちにギルド長たちを頼んで、魔獣の元へ走る。




