117*ハンバーガーとトマト教
「でもお腹空いたよ」
筋肉ダルマが情けない声を出す。
「夕食を食べるなと言ってはいません。外食は時間がかかるし、お酒を飲む可能性が高いから、ここで話しながら簡単に食べられるものにしようと言っているのです」
大きいおっさんたちが、娘に説教されている図だ。
「私のバッグには沢山食材が入っていまして……」
簡単に食べられるもの、牛丼、親子丼、カレー、楽だけど米は好き嫌いがあるからなぁ。
洋風ならステーキとか。フォークとナイフで食べるのは簡単じゃないよな。
ハンバーガーでいいか、好き嫌いなさそうだし。日本人的には夜の食べ物じゃないんだけど、こっちは主食パンだからいいでしょ。
「ハンバーガーでいいですか?」
「ハンバーガーって何だ?」
「えーと、サンドイッチです」
「サンドイッチって何だ?」
ハンバーガーもサンドイッチも、第7では浸透していない名称だったか。ジェマに当たり前のように使っていた。
ジェマが外に行ったとき苛められるかもしれないので、変な言葉を教えるのは自粛せねば。
「パンに肉とか野菜とかを挟んだ物です。片手で早く食べられるので、会議が早く終わります」
ニッコリ笑うと、反論する者はいなかった。
まずトマトとチーズが入ったハンバーガーを人数分。フライドポテトにオニオンリング。
多分体の大きなおっさんたちは足りないだろう。
「豚と海老ならどっちがいいですか?」
豚2海老2だったので、トンカツバーガーとエビカツバーガーを2つずつ。
「飲み物はコーヒーでいいですか? 温かいのと冷たいのどっちがいいですか?」
「冷たいコーヒー?」
そうか、地球でもアイスコーヒーは日本人の文化と言われていたんだった。外国では暑い時でもホットが基本だ。
「故郷では暑いときはアイスコーヒー、寒いときはホットコーヒーが主流なんです」
「あ、僕アイスにしてみよう」「私も」「ホットで」「俺も」
出すのはカフェのコーヒーだ。
どの店にも作り置きがポット1、2杯分はあったので、毎日せっせと飲んでいるが、一向に無くなる気配が無い。
1杯飲んで好みに合わず避けておいたコーヒーが結構あるので、おっさんたちにはそれを供する。別に不味い訳ではなく私の好みに合わないだけだ。
「砂糖とミルクはいります?」
みんな頭を振ったが、ウベール冒険長だけが手を上げた。外見によらず甘党らしい。
「簡単な夕食ですがどうぞ」
手で食べることにおっさんたちは多少の躊躇はあったようだが、基本抵抗なく口に運んでくれた。
「この赤いソースすっごく美味いな」
「揚げ物もさくっと揚がっている」
「柔らかい肉だ。これは何の魔獣ですか?」
「何と香り高いコーヒーだ」
おお、高評価。私の口に合わなかったコーヒーも美味しく飲んで貰えて丁度良かった、お替りもあるよー。
私もエビカツバーガーとオニオンリングを食べる。エビのプリプリが良き。
おっさんたちは男子中学生並みにワイワイガヤガヤしながら瞬く間に食べ終わった。
「正直言ってびっくりした。簡単な物なのに、どれもこれもレベルが高い。行こうとしてた店より美味しいんじゃないか」
「そうだな。このパンに入っていた赤いソースは何なんだ」
おっとー久々にトマト教の布教のお時間です。
上の人たちなので、上手く布教出来れば影響力が高いな。
私ってトマト布教のために第7に来たんだったよね。あれ、違った?
「トマトっていう野菜です」
BOXから1コ取り出して見せる。
「元からこんなに赤いんだ。食べるのに勇気が必要な赤だな」
「大丈夫ですよ。毒はありません。さっきみたいに玉ねぎやハーブと煮込んでソースにするのも美味しいんですが、生でもいけます」
その場でカットして配布する。
「おーフルーツだなこれは」
「さっぱりしてちょっと酸っぱくて甘くて、丸ごと1個食べられそうだ」
「トマトソースをパスタにかけても美味しいですよ」
「それは美味しそうだ。是非食べたい。アリッチェで食べられるのか?」
「残念ですが、外国の野菜なので、この国では作っているところがありません」
「何だと? 種は手に入らないのか?」
乗って来たねー。何故みんなここまでトマトに食いつくんだろう。イタリア人の血って奴?
トマトの種と作り方のメモを、欲しがっていない人の手にも乗せる。
「この辺りの気候はトマトに適しているので、上手く育ちそうです。実はアリッチェの南の村を周ったときにも、トマトソースが人気だったので、トマトの種をあげたんです。すぐ植えると言っていたので、上手くいけば収穫できるようになるかもしれませんね。しばらくは試行錯誤が続くでしょうが、アリッチェの商業ギルドにも種を卸しているので、足りなくなったらギルドに行ってください」
「ここでしか採れない野菜があると、交易にもいいな」
「そうですね。ソースを瓶詰で密封すると日持ちがすると思います。瓶詰もお一つずつどうぞ。このトマトソースは甘みの強いトマトだけで作ったもので、子供にも人気のある味です」
試食用にトマトケチャップを一さじずつ渡す。
「ある農家が気に入って、何にでもソースを付けて食べるものだから、数日で一瓶無くなったらしいです」
多分今頃トマトケチャップロスに苦しんでいるだろう。ボーナさんに村の行商を頼んだから早く行ってくれているといいな。
「おー、パンに付けるだけで、おかず無しでもいけそうだ」
「やっぱりフルーツですね」
「毒々しい色だと思っていたが、こんなに旨味のある野菜だったとは」
「栄養価も高いんですよ。お勧めです」
気付くと、トマトケチャップと種の発注書を山程貰っていた。
ウベール冒険長はウベール商業ギルドにも勧めるので、ウベール周辺の村にも行って欲しいと頼まれる。
村巡りの暇は無さそうなので、とりあえず保留にしておく。ビタミンCの件で商業ギルドのおじいちゃんところに行かないといけないから、そのときに話しておこう。
ところで、
「トマトの話もいいですが、結局脱線してるじゃないですか! 外食やめて時間増やしたのに意味ないです! 私を早く帰してください!」
トマトを出して脱線させたのは私の気がするが、それには触れない。
「うー、美味しいごはんが悪い」
偉いギルド長たちが、男子中学生にしか見えなくなってきた。
気づくと貴族相手にもタメ口で叱責している私がいた。不敬罪大丈夫かなぁ。
「会議に戻りますよ! それで一体どこまで話したんでしたっけ?」
「えーとな、洞窟を見付けました、までだ」
「何一つ進んでいない……」
私はがっくり項垂れた。家に帰れるのはいつになるやら。
めちゃくちゃ脱線しながら、会議は22時まで続き、もう眠いおっさんも出てきたので、何とか散会となった。
明日は午前中に準備をして、午後から洞窟に行くことになった。私は正午に洞窟前待ち合わせにして貰う。多分明日では終わらないから、明後日も付き合わされるだろう。
アリッチェ組は、冒険者ギルド内にある客室に泊まるらしい。
昨日建てたウベールの家に帰る(本当は森のジェマのいる小屋に帰りたい)と云う私を、誰が家まで送るか揉め出したので、職員さんにこっそり「帰ったって言っておいて」と耳打ちして、誰もいない裏庭から帰還で飛んで帰った。
ジェマはもう寝てたので、リビングに「明日は昼からだから寝かせておいて」とメモして部屋に戻った。
久々に前職を思い出させる夜間の会議だったな。もう勘弁して欲しい。
チャラ男のセリフを入力していると、何故かハイテンションのCV花江夏樹さんで脳内再生されます。カノンも含めて他のキャラはCVついてないんですが。
あの声だと思うと、かなりウザさも減るでしょ。意外にいいところもあるんじゃないかと思えてきたでしょ。大抵のことは許されますね。
※作者の脳内のみで、放映予定は一切ございません。脳内だけなので許して下さい。




