11*ローマ語勉強開始
「紹介する人がいるんだけど、いい?」
「ああ、そうだったね。大丈夫」
「タブレット持ってきてよ」
「あ、はいはい、待ってね」
タブレットを広げると、勝手にアプリが立ち上がっていて、ユイの隣に女性がもう一人いた。
「はじめまして」
「ライラです。よろしくお願いします」
「カノンです」
「ライラさんはね、第7の人なんだよ。あっちの修行を終えて第7の運営に来たんだけど、今回カノンの勉強に役立ちそうなので、出向してもらっています」
地球の運営があれば第7の運営もあるんだね。そして、第7は第7で輪廻転生の修行があるわけか。
「勉強、それは、ふっふっふっ、ローマ語だー」
やっぱりねー。ユイがイタリア語みたいな言葉でライラさんと話してたから、そうだと思ったよ。
「ですよねー。モニ子と一緒に頑張ったんだけど苦手」
「モニ子?」
「私がいた部屋のタブレットのモニターのこと。AIみたいな」
「モニ子ってネーミングセンス」
「うっさいよ」
「読み書きは後でいいので、まずは話す方を頑張ろう。カノンは外国から来た設定なので、多少発音が残念でも大丈夫よ」
「そうだよね、現地の人じゃないもんね」
「それに、転生体の元はいいところのお嬢様だったので、ローマ語の読み書きできるから、魂のままでモニ子と会話していた頃よりは上達が早い筈だから」
「いいところのお嬢だったの? 親戚の人に見つかったりしない?」
「外見は大分変えているから、例え親でも気づかないよ」
「それならいいけど」
死因は知らないが、15歳でお亡くなりになったのか。親御さんも可哀相に。
「それじゃ、ライラさん、お願いします。魔素で死んでる日もあると思うけど、カノンが体調の良い日はお願いします。話し言葉を中心に、読み書きは後でいいです」
ユイがライラにローマ語で伝えているが、何となく解ったぞ。成長しているのかもしれない。
「カノンは今からでも大丈夫?」
「あー…はい…がんばります」
ライラさんとの勉強は挨拶から始まった。
ライラさんの前世はエジプトのアレクサンドリア出身で、ローマ帝国のレインディナという街から商売に来ていたご主人と出会い、商家に嫁いだそうだ。
今は第7の運営で本人も楽しく働いて充実しているそうだ。
そうなのね、色んな人生があるよね。
それより、ライラさんとの勉強一日目で、これだけリスニングできたのってすごくない?!
さすが、魂ではなく、肉体があると違うんだね。
モニ子との時間を返して欲しい位だわ。
いや、モニ子との日々があったから今がある筈。モニ子との大切な思い出を無駄にしてはいけない。
それより、学生時代もっと勉強しとけば良かったよ。地球のイタリア語とは結構違うところがあって紛らわしいんだけど、根っこのところは同じって気がする。
ただ、発音にかなり難があるらしいので、しばらく発音の勉強が続きそうだ。
魔素でただでさえ頭が痛いというのに、余計に辛い。
丁度3時間勉強したところで、ユイが戻ってきて「これまで」とストップをかけた。
「続きは明日にしましょう。カノンも体調見ながら、午前中はローマ語の勉強ってことで良い?」
「はい。ではライラさん、ありがとうございました」
頑張ってローマ語で挨拶する。
ライラさんも笑顔で帰っていった。
「そういえばユイも大学でイタリア語専攻してたの?」
「え、違うよ。運営来てから対策のメンバーになって、初めて勉強した」
「すごいねーペラペラだもんね」
「ペラペラではないけど、カノンのナビするためには現地の人の言っていること解っていないとダメだからね。超勉強したよ。もう10年くらい」
では10歳から勉強してたのかと思うけれど、ユイは年齢不詳でした。
「第7の人呼んで講師してもらってるんだけど、めっちゃ怖いおじさんで、教え方がスパルタ。カノンにもその先生呼ぼうか?」
「いや、ライラさんがいいです。ライラさんでお願いします」
「カノンの設定考えたから、現地の人に聞かれたとき用に覚えておいて」
「設定?」
「カノンは日本からお家騒動で逃げ出してきたお嬢様で、知り合いを頼って船でインドまで逃げたけど、そこで悪い奴に狙われて奴隷として売り飛ばされそうになる。丁度通りかかったレインディナの商人に匿われ、アラビア海を超え紅海を超えエジプトに辿り着く。その旅の間に商人からローマ語を教わったことにしよう。その後一緒にレインディナ行きの船に乗るが、運悪く嵐に遭い難破し仲間とも逸れたが、カノンの乗った小舟はイタリアの端っこに流されて一命をとりとめた。という話」
「何、その話。お嬢様って日本の顔じゃないし」
「坂口さんと一生懸命考えたんだけどなー。こっちの人は日本なんて知らないから大丈夫。地図も無いから、インドより東って言っておけば平気」
「かなり創作に無理がない? この時代に船で日本からイタリアまで来れるの? 何年かかるの?」
「日本からは遠いけど、インドからエジプトまでは良い船で風に乗れば2~3か月で来れるらしい。地中海貿易よ、シルクロードのマリンルートだね。まだ大航海時代は始まってないので、アメリカ大陸や日本は見付かっていない」
「まずいじゃん、厄介な歴史が起きる前に大航海時代何とか止めないと」
「まぁそこまで運営は関与するつもりはないけど、カノンがやりたいなら止めないよ」
「えー、一人じゃ無理だって! んーでも、それで文明が進んだのも事実なんだよね。日本人移住のために、大航海時代や産業革命はあった方がいいの? 大体、日本人が大挙して押し寄せてきたら、それこそ民族大移動よりヤバい事態になりそう」
「地球と歴史は同じじゃないよ。意外と仲良くなれるかもしれないしね。それより凄いこと教えてあげよう」
「何何?」
「ローマ帝国だし、場所や時代背景的に、宗教戦争とか気になっていると思うのですが」
「思ってる! 十字軍とかはあったの?」
「残念ながら二大宗教は廃れました」
「はぁー?!!」
過去一びっくりした気がするわ。
天国や地獄が無いとか、神様や閻魔様や天使や悪魔がいないとかより、大声出たわ。
「いや、存在はしてるよ。信仰心が強い人たちは、都市ではなく地方にコミュニティを作って生活しているところが多い。でも大多数の人たちは別の宗教に流れていってしまいました。あ、逆に迫害とかはされてないから安心して」
「そうなの?」
「その新しい宗教とは……魔法!」
魔法は宗教じゃないよね。
「氷河湖火山大噴火で、世界に魔素が降り注ぎました。魔獣が発生して、人々は急に火を出したり、水を出したり、病気を治せる人まで出てきて、『おーっ、宗教よりすごいじゃん! 魔法万歳、宗教いらなくね?』ってことで、魔法信仰が生まれました」
後半かなり雑になったな。
「まーでも魔法も発展途上で、個人単位の小さな魔法はあるけど、大きな魔法は無い。魔法で戦争起こすレベルじゃなくていいけど、もう少し文明は発展して欲しいところよね。カノンに期待。じゃあ、ランチ行ってくるね。午後は自習&休憩で。昼寝でもして体休めてね。何かあったら呼んで」
「はーい、行ってらっしゃい!」
ユイが話しやすい子で良かった。傍にはいないけど、タブレットで顔見て話せるのはいいよね。
ランチは何にしようかな。体は動かしていないけど、ローマ語でめっちゃ疲れた。
朝は鮭定食だったので、パンがいいな。
棚に菓子パンがあったので、これでいいや。頭使ったから糖分も取らないとね。
「何これ、私がめっちゃ好きだったチョコクリームパンじゃん!」
東京には売っていない地元のパン屋のチョコクリームパン。どうしてこれがここにあるのよ。
最後に食べたのって何年前だっけ? 5年帰ってなかったから、少なくとも5年以上前だよ。何でそんな嗜好履歴まで残ってるんだよ。
最近のお気に入りのプリンが冷蔵庫に入っていたのは良しとして、5年前まで把握しているとは。
運営恐るべし。
というか、ストーカーより恐るべしだよ。
懐かしの地元のチョコクリームパン。小さい頃からよく食べていた味だよね。半分にチョコクリーム、半分にカスタードクリーム、パンがふわふわで美味しいんだよね。
どこにでもありそうな素朴な菓子パンだけど、何故か唯一無二な美味しさ。
ああ、これにまた会えるとは思わなかった。第7に来て良かった。
思い出に浸りながらチョコクリームを食べ、もう一つ懐かしい惣菜パンも食べ、お腹いっぱいになったからちょっと昼寝した。
こんな生活、いいのか自分。
まだ異世界生活2日目だし、魔素で頭が痛いからいいことにする。




