10*サンキュージョージ
森の中なので朝は鳥の声から始まるのかと思ったけれど、静かで聞こえなかった。
小鳥もいないほど魔獣ばかりの森なのか、小屋が保護膜張っているせいで聞こえないのか。窓の外も昨日と変わらない青々とした森しか見えない。
3ヶ月引きこもりになるようなので、気晴らしを考えなくては。気持ち悪くてそれどころではないかな。
うーんと伸びをして、まずはシャワーを浴びる。
服脱いでちょっと鏡見てみたけどね、見慣れないナイスバディだよ。胸は普通だけどグラビアレベルだね。外国人体型だし。
でもイタリア女性って、若い頃細くても年取って太る人が多いって聞くよね。気を付けなくては。
シャンプーなども我が家御用達の物が一通り揃っていて、ストックもあった。
ナイス、ジョージ。あ、コックのジョージさんはこっちは関係ないか。ナイス、ユイかな。
無くなったら補充してくれるそうで良き。この小屋のまま移動できないものかなぁ。
着替えも持っていた服のまま。
と思ったけれど、新しくなってる?
部屋着なんてどうせ誰にも見せないんだからと、首元ゆるゆるのとか、毛玉出てきたのとか、あった筈なのに。
「新品じゃん!」
「え? 何が?」
思わず声に出てしまったら、耳元でユイが反応する。
「あー服がヨレヨレだった筈なのに、新しくなってない? と思って。おはよう」
「おはよう。浄化と再生と劣化防止の魔法かけてあるから」
「魔法?」
「そう、魔法。他の物も同じ。冷蔵庫とか綺麗になってない?」
「確かに昨日開けたときめっちゃ眩しいと思った! 本当だ、すごく白い! わぁ、魔法って凄いんだね」
「今に使えるようになるよ」
夢が膨らむねー。
浄化と再生と劣化防止ってアンチエイジングじゃん。ちょっと年とったら、若くなれるってことなんじゃない?
でも外見変えられるって言ってたから必要ないのかな。
「ところで体大丈夫なの? カノン」
「うん、昨日より全然平気。ちょっと慣れてきたんだと思う。朝ごはん何にしようかな」
「実は、昨日意外と平気そうだったので、5%→10%に変更しました」
「嘘っ!!」
「本当に平気なの?!」
「いや、頭は痛いよ……ちょっとね」
「もう少し上げてみる?」
「いやいややめてやめて、今日は10%でそのままで。起きたばかりだしね、シャワーも浴びたからスッキリしたのかも。そのうちまた気持ち悪くなるかもしれないし」
「1日でこんなに順応した人、初めて見た。5%でも2~3週間位立ち上がれない人が多いんだよ。やっぱり第7生まれの転生体だから魔素に強いのかな」
「さ、ごはん何にしよっかなぁ」
冷蔵庫と隣の棚を見て悩みまくる。昨日は雑炊しか食べてなかったからお腹が空いている。しかし、それほど食欲は湧いていないので軽いものがいい。
やっぱ和食ですかねー。ご飯炊くのは面倒なので、パックご飯にしよう。電気ポットでお湯を沸かしてカップの味噌汁、レンジで温める鮭の焼魚と卵焼き。
サンキュージョージ&日本の食料品会社の方々。
全部温めても10分もかからない。レンジがいっぱいあればもっと早く出来るね。
テーブルに揃えて『いただきます』する。
何か足りないと思ったら、地球で一人ごはんのときは動画見ながら食べてたんだ。昔はTVだったけど、最近はTVも全然見なくなったね。
音が無くて、木と葉っぱしか見えない森を見ながら食べるごはんは何だか侘しい。
うわー鮭うまいー!
これもコンビニのかと思ってたけど、違うね。高級料亭の一切れ500円以上するやつだよね、きっと。
これはこれで凄く美味しいんだけど、西京漬けとかじゃなくて、生鮭に醤油たらして食べるやつも好き。ジョージ、今度宜しくお願いします。
何だか、昨日今日だけで顔も知らないジョージに対する信用度がめちゃ高くなっている気がする。
音がなくて寂しいと思っていた割には、ジョージのこと(というより食べ物のこと)を考えているうちに食べ終わっていた。
「ごちそうさまでした。ユイ、ごはん食べた?」
「食べたー。今朝は油淋鶏」
「え、朝からガッツリいきすぎじゃない?」
「ジョージのお勧め定食だったんで。おいしかったーーー」
「ジョージ! いいな、運営行きたい」
「次の人生はぜひ運営においでー」
「え、それまでジョージいる? つーか、知らない人なのに呼び捨てにしてるし」
「あの人は絶対いる。食堂のメニューに人生かけてるので」
「絶対行きたーい」
「もうそんなに食欲あったら魔素全然平気な気がするんだけど。保護膜消してもいいかな」
「無理無理無理って言ってるんでしょ!」
「ちょっとずつ慣らしていこーね。カノンに紹介したい人がいるんで、ちょっと連れてくるね」
「ジョージ?」
「いや、ジョージは忘れて。呼んでくるね」
その間洗い物をする。食洗機はついていないんだね。どうせ一人だから知れてるけど。
確かに新品になっているなと、冷蔵庫やレンジを見てたら、不思議な物を見付けた。
通常、電化製品は壁についているコンセントに繋がっている筈なのだが、小屋の壁にはコンセントが無い。
では何に電源コードがついているかというと、小さな四角い箱である。
それこそ口数が足りないときに、コンセントに差す3口タップみたいな形状だ。
しかし、後ろに伸びるコードが無く、そこで止まっている。
つまりこれはバッテリー? モバイルバッテリーみたいなものなのだろう。
狭いところに潜って奥を見てみたが、いずれの電化製品も壁のコンセントに繋がれることなく、一つ一つが別々のバッテリーに繋がっている。
洗面所でドライヤーを見たが、これもバッテリーだ。まだ髪が濡れたままだったので、乾かす。
腰までの長さなので、時間がかかって大変だが、もっと困ったことがあった。
元々のコードが長い上に壁に固定されていないので、動かす度にコードがブルンブルンと動き回って、何度も身の危険を感じた。
危なくて仕方がない。ドライヤーはワイヤレスが良かったな。これは後で要望を上げておこう。
そのモバイルバッテリーだが、後ろのカバーが開きそうなので、開けてみた。
思った通り四角い充電池が入っているのだが、結構大きくて重い。
確かにオーブンレンジとかを動かすためには結構電力いるだろうし、大きいのじゃないとダメなんだろうな。
このバッテリーを定期的に充電する発電機がどこかにあるのかな?
「何してんの? カノン?」
レンジの奥の狭いところに手を伸ばしてバッテリーを掴もうとしている私を見て、ユイが話しかけてきた。
「バッテリー充電はどこでするのかなと思って」
「ああ、充電は出来ないの。中の電池を交換するんだよ」
「これって電池なの?」
「電池ではなくて、本当は魔石。魔素が濃いところや魔獣の体に溜まる魔素が蓄積した固まり。それをギュッとしたのがそれなのね。で、外側のカバーは魔石と電気の変換器なの。だから魔素がなくなったら、魔石を交換するの。表に青いランプがついてるでしょ」
「うん、ついてる」
「魔素が無くなっていると黄色になるから、交換サイン。赤になったらもう使えない。冷蔵庫とか気付かなかったら悲惨だから、たまに見ておいてね」
「どのくらいもつの?」
「物による。冷蔵庫の大きさでも異なるし。うーん、わかんない。1ヶ月とかは持つと思うけど」
便利だなと思ったけど、電化製品ごとに1ヶ月おきに交換するのはちょっと面倒かもしれないね。




