115*痴話喧嘩に巻き込まれる
夕方近くなったので渋々行動開始。
町娘スタイルに着替えて、おっさんたちに会いに行く(行きたくない)。
「ウベール 帰還」
白猫が迎えてくれた。ジェマのいる小屋の三毛猫と紛らわしいので、犬と交換する。と云うか、ぬいぐるみで判別すること自体が既に紛らわしいわ。
今は、アリッチェーなし、ウベールの街―犬、ウベール洞窟―三毛猫 かな。
時々ウサギ出したり、場所移動したり、ぬいぐるみ変更したり、もう既に解らない。
模様替えしようと思ってたし、今は時間が無いから今度じっくり考えよう。
冒険者ギルドに向かって歩く。まだ道を覚えていないので、ユイのサポートナビ付きだ。
ついでに状況報告を聞く。
「小さい部屋の箱にあった魔石だけど、鮫だった」
「は? 魔鮫? 森なのに? でも港町か。やっぱり海の魔獣いるんだ。今まで襲われなかったけど、鮫に追い駆けられたりするんだーこわい」
「ボートに保護膜かかってるから、鮫程度じゃ問題ないよ」
「海の魔獣には水弾効かなそうだな。水晶弾すぐに出せるように用意しておこう。ジェマに運転任せて迎撃に専念した方がいいかも」
「それと、地球のあの場所は住宅地になってた」
「はい?」
「山削ったらしくてもう存在しないから、遺跡があったのか無かったのか解らない。山削ったのもいつか不明で、結構昔みたい。今となっちゃもう解らないな。他の惑星とかも機会あったら掘ってみたいけど、うちから人を出す訳にもいかないから現地に頼むの難しいな。カノンもアリッチェの街中に遺跡あるらしいから掘って来てって言われても嫌でしょ?」
「嫌も何も無理だよね。人住んでるし、勝手に掘ったら捕まるわ」
「あ、次、右だよ」
「はーい」
魔鮫が入ってたなら、墓じゃなかったってこと?
魔鮫の墓かもしれないけど。魔鮫が供物って可能性もあるか。壁画とか魔法陣読み解けば解るのだろうか。
正直遺跡の謎はどうでもいいんだけど、新しい魔法が書かれているなら知りたいよね。
冒険者ギルドに辿り着いた。家から結構遠いから帰還魔法使いたい。やっぱり便利を覚えると、人はどんどん堕落していくな。
ロビーに入って見回すが、おっさんたちはいない。まだ到着していないのか、既にギルド長室か。
「あのーすみません。アリッチェのギルド長ってもう来ました?」
受付に声を掛けた。
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
この間ポイントのことを聞いた受付嬢とは別な女性だ。キレイだけど、目付きが怖い。聞き方が悪かったかな?
「……えっと、アリッチェの冒険者ギルドで登録しているカノンといいます。今日、アリッチェのギルド長と一緒に、ウベールのギルド長と面会することになっています。まだ到着していないのか、既に面会が始まっているのかお聞きしたかっただけです。あと、アリッチェとウベールの魔法ギルド長二人も一緒です」
ギルド証を出して丁寧に説明した。
受付の女性は、ギルド証を見て更に疑いの目を向けてきた。
「そんなお話は全く伺ってませんが。ギルドに登録したばかりの人が、ギルド長と面会する機会は無いと思われますが、何が目的でしょうか?」
うっわー、火に油注いだ?
丁寧に説明したつもりだったのに、何が悪かったと言うの?
最初気安く話し掛けたから?
そんなに怒るほどじゃないじゃん。
「目的は面会ですけど。いいです、そこで待ってます」
これから来るならロビーで気付くだろう。もう来てるなら、いつまでも私が来ないと探しに来るかもしれない。
受付から立ち去ろうとしたら、大声で怒鳴られた。
「冒険者ギルドは仕事を探す場所です。仕事を探す気が無い人は出て行って下さい!」
彼女の大声に、周囲の人たちがみんな私に注目した。
は? 何でそんなに怒鳴られるの?
「業務の妨害をしないでください! 警備! 警備! 早くこの女を追い出して!」
えええ? 何だか状況が呑み込めないうちに、とんでもない展開になっている。
えーと、私、あなたを怒らせるようなことしたつもりもないですが。
入口に立っていた警備が慌ててやってきて、私の体を掴もうとしたが、保護膜にぽよんと飛ばされた。
保護膜ってこういう動きするんだ。やっと間近で見られたかもしれない。警備が再度掴もうとするが、ぽよんぽよんと飛ばされて、カウンターにぶつかった。
「この女武器を持ってるわ! 気を付けて掴まえて! 冒険者ギルド内で武器を使うなんて重罪よ!」
どれが武器だよ。
女が吠えれば吠えるほど、こっちの気持ちが冷めて行った。
警備や他の人たちも私を掴もうとするが、相変わらずぽよんぽよん弾かれているので、こっちは無視する。
女を黙らせるために、温風魔法とか冷風魔法とか掛けたかったが、それを理由に捕まりそうなので我慢する。
「静かに!」
大声を出し、周囲を威圧する。
シンとした瞬間に、大きな声でさっきの話を再度話した。
「アリッチェの冒険者ギルドに登録しているカノンです。夕方にアリッチェのギルド長と一緒に、ウベールのギルド長と面会する約束になっています。アリッチェとウベールの魔法ギルド長二人も一緒です。まだ到着していないのか、既に面会が始まっているのか、どなたかご存知でしたら教えてください」
ゆっくりと周囲を見回す。
私の動きに警備が緊張する。
「武器は持っていません。体に張った保護膜が作動しているだけです。襲ってきた人を柔らかく弾いているだけなので、痛くはないと思います。違いますか?」
警備に向けて聞くが、返事は無い。
「彼女は、私が敬語で話さなかったのが気に入らなかったようです。ギルドに登録したばかりの15歳がギルド長と約束がある訳がないと勝手に解釈し、嘘を吐いている良からぬ輩と判断したようです。私は彼女に危害を加えたり、暴言を吐いたり、騙したりは一切していません。それだけのことで、ギルドを追い出す理由にはならないでしょう。別なことで嫌なことがあったんじゃないですか?」
女は私を物凄い目で睨みつけていた。
こっわー。
怒りたいのはこっちだよ。
タメ口だったくらいで、訳わからぬまま罪人にしないでよ。
「あのー」
奥の方にいる職員の男性が声を出したので、全員が一斉にそっちを見た。
女の殺気漂う視線まで浴びてしまい、男性がたじろいだ。慌てて視線を私に戻して、言葉を繋げた。
「ギルド長たちの会議はもう始まっています。お名前もう一度いいですか? ちょっと聞いてきます」
ああ、良かった。まともな人がいた。
名前を告げようとしたとき、その後ろから軽薄な声がした。
「カノンちゃーん」
顔を見るまでもないチャラ男だ。
「迎えに来たら面白い劇が始まってたからしばらく見入っちゃってたよ」
「見てないで早く助けてくださいよ! もうすぐで警備に掴まって重罪になるところだったんですよ」
「だって啖呵切っているカノンちゃんかっこ良かったし、部屋が冷えている気がするけど氷魔法使った?」
「使ってません。魔法使って罪になると困るので、耐えました」
「えらいねー」
後ろから頭をぐりぐり撫でられる。いつの間にかまた手まで繋がれている。
「ちょっとやめて! 離してください!」
周囲の視線を浴びたままだったので、チャラ男が周囲に向かって話し掛ける。
「なんか行き違いがあったみたいだけど、正真正銘この子がギルド長会議のスペシャルゲストなので、心配無用だよ。アリッチェの優秀なハンターで上級魔法使いだから、若いのにとっても実力がある。正直僕よりも強いと思うよ。あ、ここじゃ僕のこと知らない人もいると思うけど、一応魔法ギルド長だからよろしくねー」
チャラ男が笑ったら、部屋にいた女性たちの目がハートになっていた。騙されるな!
さっき私を怒鳴り散らしていた受付の女にも、チャラ男が話し掛ける。
「そういうことでこの子の話は全部本当だから。ベリンダちゃん、怖い顔してると、可愛いのが台無しだよー」
女は唇を噛みしめて耐えていたが、急に泣きながら外に飛び出していった。
え? え? はい?
「えー! そういうことー? はぁ? 私全然関係ないのに逆恨みされただけー?」
冒険者ギルドのギルド長は全く関係なくて、チャラ男と約束があると言った私のことが気に食わなかったようだ。
「いやあ、アリッチェに可愛い女の子がいるって話したのが不味かったのかな」
私の手を引っ張り、ギルド長室に連行しながらチャラ男がボソッと言う。
「はあ? 何で私を巻き込むのよ!」
「可愛い子を可愛いと言って、何が悪いんだ」
イタリア男かよ。イタリア男だけどさ。
実際どういう関係かは知らないけど、ちょっかいを出していた受付嬢に対して、「アリッチェに可愛い女の子がいるんだ。今週末会いに行くんだ」と楽しそうに話した。でも戻って来たので安心してたら、その女が追ってきた。受付嬢激昂! と云う話らしい。
それで私がどんな目にあったと思うんだ。それを面白いからと見ていたと?
うわぁ、最低だなこの男。
「なんか凄い目で見られてる気がするけど」
「最低だなぁと思って」
「可愛い子を可愛いと言うことのどこが最低なんだ」
「いい加減手を離してください」
やっと手を離してくれたが、ギルド長室のドアを開くためだったらしい。
開けてすぐに寄ってこようとするので、全力で押し戻した。




