113*ウベールにとんぼ返り
この土日はウベールで遊んで、ギルドには近寄らない予定だったのに、何でこんなことになってしまったのだろう。
「カノンちゃん一昨日ぶりー。もう僕に会いたくて戻って来ちゃった? ウベールに行くなら、一緒に帰ろうよ。家に泊まってくれていいのにー」
軽薄チャラ男め! 3人も奥さんがいるのに、気安く声を掛けるな!
この間の名前何て言ったっけ。ローマから来た部長さんは、今日はいなかった。
アリッチェの二人はチャラ男に構わず話を始める。
「日曜なのにすみません。カノンさんがとんでもない話を持って来まして。ウベールの冒険者ギルド長に最初に話すべき内容なのですが、お二人がこちらにいるとお聞きしたので、先に少し話だけ通しておくべきと思い訪問させて頂きました」
「いや、別件でカノン君に仕事させられてたから全然構わないよ。それで遺跡って何だい?」
「ウベールでカノンさんが遺跡を発見しました。これが遺跡の絵です」
「これは!」「何と!」
「絵を描く魔道具だそうです。もし魔法ギルドに同じ物があれば、冒険者ギルドでも欲しいですね」
「いや、聞いたことが無いな」
「カノンその魔道具見せてくれないか。持ってるんだろう?」
「え……いえ、置いてきました」
「嘘だろ! 絶対アイテムバッグに入っている筈だ! 見せろ!」
3人の男たちに囲まれる。助けてーおまわりさん。
「嫌です! 我が家に伝わる家宝です。渡しません!」
「取ろうとしてるんじゃない。見たいだけだ。ちょっとでいいから」
「嫌です! それより遺跡の話です!」
3人がやっと正気に戻った。
「ああ、そっちが先か。でも売りたくなったらすぐに言ってね。魔法ギルドでは高値で買い取る用意があるからね」
「冒険者ギルドだって本部なら金を出すでしょう」
「魔法ギルドに資金力で勝てると思うかい」
「いい加減にしてください。親の形見なんで売りません。それで遺跡の床に魔法陣が描かれてました。意味は解りませんが、古代ラテン語っぽいです」
前世の親は死んでいないが、こっちの設定の親は死んだことになっている。
いっそボートや車やバイクも、形見の家宝でいいんじゃない?
「それでこれから冒険者ギルドで遺跡の調査に入ります。この部屋の調査になったらお呼びするので、そのときは調査員を派遣して頂けますか?」
冒険者ギルド長が話を元に戻してくれた。
「いや、是非最初から調査に同行させて頂こう」
ずる賢そうな表情のウベール魔法ギルド長。
「そうだな。その方がいい」
アリッチェ魔法ギルド長。
ギルド長が多くて紛らわしいわい。誰の名前も知らんしな。聞いた気がするけど忘れた。
紛らわしいので、
魔熊(アリッチェ冒険者ギルド長)、
筋肉ダルマ(アリッチェ魔法ギルド長)、
チャラ男(ウベール魔法ギルド長)
でいいね。魔熊は本物と紛らわしいから魔熊長にしよう。
「カノンさんの話だと、相当中が広い空間で大勢が入ると落盤の可能性があるようです。先に補強を優先すべきですから、冒険者ギルドが先行します」と、魔熊長。
「補強の必要があるなら、魔法が使える者がいた方が作業が早いでしょう。お手伝いしますよ」と、チャラ男。
「そうだな。その方がいい」と、筋肉ダルマ。
「遺跡はその土地の領主に帰属しますので、調査は冒険者ギルド管轄です」と、魔熊長。
「魔法陣がある遺跡は、魔法施設でしょうから、国の領分です。魔法ギルドの管轄で進めるべきですね」と、チャラ男。
「そうだな。その方がいい」と、筋肉ダルマ。
一昨日も思ったけど、会議になると筋肉ダルマ役に立たないな。
「まあ、肝心のウベール冒険者ギルド長がいないので、ここで議論しても始まらないでしょう。彼が揃ってから細かい話をしましょう」と、魔熊長。
「あの人がいても話が進むと思えませんけどね。まあ、仲間外れにする訳にもいかない。私から連絡しましょうか?」と、チャラ男。
「もう連絡は入れてます。この後早速ウベールに行ってきますよ」と、魔熊長。
「解りました。私も行きましょう」と、チャラ男。
「え?」と、筋肉ダルマ。
「いいえ、まずは冒険者ギルド内の話ですから」と、魔熊長。
「みんな一緒に話した方が早く済みますよ。ねーカノンちゃん」と、チャラ男。
「は?」と、小娘。
そのときコンコンと扉がノックされ、アルマさんが入って来た。そして、魔熊長に手紙を渡す。
「冒険者ギルドの使いの方からです」
「ああ、ありがとう」
魔熊長が手紙を受け取り、中身を確認する。
「ウベールのギルド長です。今夜の面談が取れました。まだ早いので今から馬車で行けば16時頃には着くでしょう。カノンさん行きますよ」
「は?」と、小娘。
「僕の馬車があるので使ってください。一緒に行きましょうよ。町の馬車よりは乗り心地いいと思いますよ」と、チャラ男。
何故かまた人の手を握って来るので、引っ張って抜く。浄化。
魔熊長もチャラ男の粘着さには諦めたようだ。
「はぁ、解りました。じゃあ支度を整えてくるので、また来ます」
早速魔熊長が出て行こうとするので、私も慌てて後を追う。ここに残されるのは嫌だ。
何だか随分早い展開になってしまった。
私も行かない選択肢は無いよな。状況説明出来るのも洞窟案内出来るのも私一人だ。それは嫌だけど致し方無い。
ただ、おじさんたちと同じ馬車に乗るのは断固として避けたい。貴族(チャラ男)の馬車だからこないだ乗ったのよりは乗り心地いいとは思うが、地球の車ほどでは無いだろう。
それに例えファーストクラス並みの乗り心地だったとしても、あの面子で5~6時間も車内に閉じ込められるなんて、死んでも嫌だ!
「すみません、ギルド長。私、船で行きます。夕方に冒険者ギルドに行けばいいんですよね」
前を足早に歩いていた魔熊長が振り返る。
「え? 船があるんですか?」
「知り合いの商人の船で、朝こっちに送って貰ったんです。ウベールにジェマを残したままなんで、折り返しウベールに戻るよう港に待機して貰っているんです。夕方必ず行きますから」
「だったら私も乗せて貰えませんか。ウベールまでなら、馬車より船の方が早いですよね。あいつらを連れて行く前に、ウベールのギルド長と話がしたい」
「ごめんなさい。小さな船なので、私一人でもう乗れないんです」
「でも帰りはジェマ君も乗るなら、一人くらい余裕あるのでは?」
「ジェマは小さいですから、私の膝の上に乗って行きます」
そこまで小さくはないが、魔熊長よりは随分小さいし軽い。
私の膝の上に魔熊長が乗る姿を想像したのか、魔熊長は諦めたように首を振った。
「余程小さい船みたいですね、仕方ないです。絶対に来て下さいよ。詳細解っているのはカノンさんしかいないんですから。あと明日洞窟に行きますから同行してください」
「明日ですか?」
「早い方がいいでしょう。私もアリッチェをあまり空けてられませんから。いい機会ですから、魔キリンのこともウベールに相談しましょう」
「明日は市場の日なんですが」
「そうでしたね。何とか休めませんか?」
「まあ、仕方ないですね。明日で終わりますか?」
「そうですね、一応明日明後日見ておいて下さい。早く終われば帰って頂いて構わないです。ただこれは最初の案内ですので、調査が進めばまた呼ばれる可能性もあるでしょう。いや、必ずまた呼ばれます」
「はあ。やっぱり逃げておけば良かった」
「本当に遺跡だと証明されれば、発見者として報奨金が支払われますよ。結構な額になると思います」
「え、そんなのがあるんですか?」
「遺跡の程度に依るので金額はピンキリですが、市場2日分は確実にお約束できます」
「解りました、じゃあ協力します。本当は報奨金より魔石が欲しいんですけどね。発見者権限で魔石貰えませんかね。あっ、市場に寄るのでここで失礼します」
「夕方に絶対来てくださいね!」
「はーい、お気をつけて」
市場の屋台のある場所に行き、立札の(土日休み)表示を、(火曜まで休み)に変更した。
ウベールまですぐ行けるので、5~6時間暇といえば暇である。
ウベールの観光でも行きたいが、早い時間にギルド職員にでも目撃されると困る。それを言うとアリッチェでもだが。
折角市場まで来たので、商業ギルドに顔を出しておこう。
お目当てのボーナさんが見付かったので、ウベールのおじいちゃんの話をする。
「家は見付かりました。ありがとうございます。向こうのギルド長にビタミンCが欲しいって言われたんですが、直接取引しても問題ないですか? ボーナさんを通した方がいいですか?」
「叔父さんは大丈夫よ。千個位なら融通して貰えると助かるわ。でもこっちの発注分は残しておいてよ」
「それは大丈夫です。では今度行ってきますね。もしかしてボーナさんの言ってた後ろ盾ってギルド長のことですか?」
「違う違う。叔父さんは伯爵だから地方の名士だけど、国の権力までは無いわね。でもウベールの領主様と仲がいいし、あの辺り一帯では顔が利くから仲良くなっておいた方がいいわよ」
貴族の世界は色々ありそうだ。
「優しそうな方ですね」
「礼儀とかかしこまる必要はないから大丈夫。何か困ったら私に聞いてね」
「はい、ありがとうございました」
他に何かあったっけと考えるも思い出せないので帰ることにする。何か思い出したら、ボーナさんとはアイテムバッグで連絡が取れるから安心だ。
ギルドのトイレに誰もいなかったので、
「ウベールの森 帰還」
ジェマのところに帰ることにした。




