112*遺跡発見の報告
ウベールの冒険者ギルドは、先日受付でポイントの話は聞いたけど、それ以外は全く馴染みが無い。
依頼を受けてもいない小娘がいきなり行って洞窟の話をしても信じて貰えるか。
証拠の壁画の欠片や、緑のキラキラや写真はあるが、写真自体疑われるだろうし、話が通って重い腰を上げるまで何日もかかりそうだ。
写真は外国の魔道具ってことにしているので、精度を落としてプリントアウトしている。運営はそんなに情報を与える気はないらしく、5枚しか渡されなかった。
ここは全く関係ないが、アリッチェのギルド長を巻き込むしか無いのではないか。同じ州の管轄だからいいよね。私も住所はまだ変更していないから、アリッチェの冒険者だし。
魔法陣があることを考えると、冒険者ギルドだけじゃなく魔法ギルドも出てくるよなぁ。
そのウベールの魔法ギルド長が何故かアリッチェにいるんだよね。この週末会わずに済んで喜んだと云うのに、何故私から会いに行かないとならないのか。
勿論このまま何も見ていないとバックレる道もあるんだけど。
あああ、仕方ない!
まずはアリッチェの冒険者ギルド長を巻き込んで、相談することにしよう。
「アリッチェ 帰還!」
玄関の前には何も無い。よし、アリッチェだ。
ぬいぐるみで判定しないで、名前のついたプレートでも取り付けておいた方がいいか。でも拠点変更する可能性もあるから、書き直せる方がいいね。いっそぬいぐるみに名札を付けるとか。あのでっかいぬいぐるみは玄関にあると邪魔なので、もう少し小ぶりにした方が。
どうでもいいことを考えながら、冒険者ギルドへ向かう。
せいぜい15分位の距離なのだが、帰還魔法を知ってしまうと遠く感じる距離だ。
女子更衣室に帰還シールでも貼っておきたいものだが、イレーネさんが着替えている最中にいきなり私が登場したら言い訳が出来ない。
「ギルド長は今いますか?」
今日イレーネさんは休みだったので、別の受付に声を掛ける。
部屋にいて来客はいないと云う話だったので、そのまま向かうことにする。
普通は勝手に行ける部屋じゃないと思うのだが、私がギルド長室に呼び出されるのは最早みんな見慣れた光景みたいだ。
今忙しい時間だから、勝手に行ってくれと云うのが本音かな。
ギルド長室をノックすると、「どうぞ」と声がした。
顔を出すと、ギルド長の顔が一気に曇る。
「職員かと思ったらカノンさんですか」
「ええー、なんか嫌そうですね。あんなに魔熊納めてるのにー」
「カノンさんは色々困ったことを持って来ますからねー。魔キリンはまだローマから返事が無いので、もう少し待って頂けないでしょうか」
ああ、魔キリンの件もあったっけ。私の中ではもう終わった話だったんだけど、こっちはまだそれで忙しい最中なんだな。エルゼダンテの森に調査隊を出すと言っていたし。
えーと、そんなときにギルド長を巻き込むのはちょっとまずい気がしてきた。
ウベールに紹介状だけ書いて貰おうかな。
「そっちの件は大丈夫です。ゆっくりやってください。実は別件なんですが」
そう言った途端、ギルド長の顔に緊張が走る。
「魔ゾウでも見つけましたか?」
「魔ゾウはいなかったですが、魔虎は見つけました」
さっきBOXを見たら、魔虎が入っていた。あの魔獣の群れの中にいたんだろう。気づかなかったな。猫系もいたか。
「魔虎……」
ギルド長が頭を抱えたので、慌てて否定した。
「違います。アリッチェのテリトリーじゃありません! ウベールです! いきなりウベールに連絡に行っても信用して貰えない気がするので、紹介状書いて貰おうと思って来たんです」
ギルド長は少し安心した顔になった。
「そうですか、それは賢明でしたね。ウベールのギルド長は結構堅物でして、女性や若い冒険者には厳しいこともあるようですから」
「女子供に冒険者は勤まるかよって感じですか」
「昔気質のところがありますからね。それで魔虎はどこで?」
「ウベールの森です」
紹介状を書こうとしていたギルド長が顔を上げる。
「エルゼダンテの森と同じような状況でしょうか?」
「いえ、遺跡でした」
「は?」
「森の頂上付近で洞窟を見付けたんです。麓まで続く長い洞窟だったんですけど、その中に遺跡を見付けました。これは報告しないとまずいと思ったんですが、いきなり行って門前払いされると困るので、こっちに先に来ました」
「それが遺跡と云うのは本当ですか?」
「明らかに人工物でした」
証拠の写真と崩れた壁画の一部を見せる。
「この絵はカノンさんが描いたんですか? なんて精密な絵だ」
「いいえ、私じゃありません。我が家に伝わる魔道具でして」
「素晴らしい。絵を描く魔道具があるんですね。失礼、話が逸れました。確かに人工の物ですね。はー、遺跡か……素晴らしい発見ですが、これは大変なことになりそうですね」
来たときから疲れた顔だったギルド長が、もっと疲れた顔になっていた。やばい。
「えーと、実は誰もが知っている場所だったり?」
「聞いたことがありません」
「上の人だけが知っている場所では?」
「だったら私も聞いているでしょう。洞窟の入口の位置はどの辺ですか?」
地図を持って来てギルド長が聞く。
かなりアバウトな地図なので、正しく指し示すのは難しいが、タブレットの地図を見て、
「大体この辺りでしょうか?」
と指したら、その瞬間にギルド長が頭を抱えて突っ伏した。
「どうされました?」
はーっと大きなため息を吐き、ギルド長はしばらくそのままだった。何か変なこと言ったかな、どうしよう。
少しして、ようやくギルド長がむっくり顔を上げた。
「はあ、絶対巻き込まれる。はあ、仕方ないか。この位置アリッチェ寄りですよね。ウベール管轄ですが、アリッチェでも仕事の依頼を受けるエリア範囲なんですよ。ああ、仕方ない! カノンさん行きますか!」
ブツブツ言っていたギルド長が急に立ち上がり宣言した。
急な展開についていけない。
森はウベール支部のエリアだが、洞窟入口の位置がアリッチェとウベールの共同エリアだったってことかな。調査やその後の色々に、アリッチェも巻き込まれるに違いないと云うことか。
「この床の魔法陣ですよね。魔法ギルドにも話通しておいた方がいいでしょうな。あいつも巻き込もう」
あいつとは、アリッチェの魔法ギルド長だろう。あの筋肉ダルマだ。
アリッチェのエリアなら、魔法ギルドもそうなるよね。
「うーんと、ちょっと行って、洞窟の入口動かしてきましょうか」
「それは助かります。ですが、そういう訳にもいかないですね」
お互い無理と解っての軽口だ。
「ウベールの魔法ギルド長も絡んでくるかー。ちょっと変わった方なんですよね。色々翻弄されそうで面倒なことになりそうです」
またギルド長はため息を吐く。あのチャラ男だもんね、よく解る。
「あんなのと関わりたくないですよね」
ウベールのギルド長は二人とも厄介なのか、嫌だなぁ。商業ギルドのおじいちゃんはいい人そうだったけど。
「カノンさん、ウベールの魔法ギルド長を知ってるんですか?」
「一昨日会いました。何度振り払っても手を握ってくるので、浄化かけ通しでしたよ。今アリッチェに来てるんです」
「何ですって? じゃあ魔法ギルドに行きましょう。そっちの方が早い。おーい、誰か!」
ベルを鳴らして職員を呼び、その間にメモに何かを記入している。
職員の男性がすぐにやって来た。
「魔法ギルドに行って、ギルド長に手紙を渡して私がすぐに行くからと伝えてくれ」
「はい、解りました」
手紙を渡されて、職員はさっと出て行った。
近いんだから直接行った方が早そうだけど、訪問前に連絡するのが一応礼儀なんだろう。
ま、日本だって、いきなりピンポン来られても困るもんね。電話やメールで先に知らせて欲しい。
家の中に入るなら掃除したいから、一週間前には知らせて欲しいよ。
ギルド間の連絡も多いようなら、双方向アイテムバッグの設置も検討した方が良いかも。
魔法ギルドには、アイテムバッグの件で迷惑かけているところなのに、また私が厄介事持ってきたことになってしまう。
もしかしなくても、私ってトラブルメーカーって奴? あー本当にすみません。
逆の立場だったら「次から次へと面倒な仕事持って来んじゃねえ、あの女」って気持ちになるわ、本当にすみません。
でもこれからギルド長3人と会わないと行けないの? それは嫌すぎる。
逃げたいけど無理だよなぁー。嫌だなぁ。
ギルド長はまだ何かを書いている。急に仕事を中断させてしまって仕事を増やしてしまったので、急ぎの仕事を片付けているんだろう。
本当にすみません。私だって見付けたくて見付けた訳じゃないんですが。
さっきの職員さんが戻って来たので、二人で魔法ギルドへ出掛けることにする。
はあー
思わず二人でため息を吐いてしまったが、ギルド長には『お前がため息を吐くな』と云う顔をされた。




