111*ミイラは見たくないよ!
次に、私が目指すのはこの上の分かれ道、左側の道だ。
魔獣の反応は感じなかったが魔石の反応が少しあった。ギルドに報告するにしても、確認してからの方が良いだろう。
問題はまたさっきの急坂を昇らないと分岐点に辿り着かないと云うことだ。いくら体力がついたとは言え、坂道は辛い。
下るのもつんのめったが、登るのもロッククライミングかよと思える場所もあった。ちょっと足を滑らせて下に落ちそうになり、慌てて体勢を整える。
やっと何とか登り切った。調査員が来るならロープとか必要だな。
上にも下にも魔獣の反応なし。
下で時間を食ったので、ここで小休止とする。さすがに小屋を出すと重さで洞窟が危険になるので、簡易トイレで我慢する。ついでにチョコレートを食べてエネルギー補給した。
左の道に広く索敵をかけると、全体像が見えてきた。
右の道は広い空間がいくつもあったが、左は道が多くて長い。そして先端は山の麓に通じているような気がする。長丁場になるかもしれないので、チョコレートをもう一粒追加した。
ようし、どんどん降りて行こう。
気合を入れて道を進む。
魔獣はいないようだが、帰還キーホルダーは手首に取り付け、いつでも水弾を撃てるようにしておく。
時々落ちている小さな魔石を拾いつつ、道なりにどんどん歩いて行く。道は蛇行しているが、脇道のない一本道で、大人3人くらいが通れる幅で天井は低い。
20分下ったところで、変化があった。
10畳ほどの空間に辿り着いた。
そしてそこにはベッドサイズほどの箱が中央に置かれ、壁に壁画と床に魔法陣が記されていた。
デジャヴだ。
しかし大きさが違い過ぎる。さっきの縮小版だ。
こっちを先に見ていたら、上の広い部屋の感動が大きかっただろうが、あっちを先に見ている分、この部屋の残念感が半端ない。
あっちが民の心を掴んだ大王の墓ならば、こっちは悪政を敷いてクーデターにあったかつての王の墓か。
いずれにしても墓所なのだろうか。こっちも入念に動画を撮影しておく。
この箱の中にミイラ……と思って見ていたら、この箱が僅かに開いていることに気付いてしまった。
うわぁ。
索敵をかけると魔石反応あり。大型魔獣並みの魔石が検知出来た。
そうなると開けざるを得ないのだが、ミイラは見たくないーーー。
「そうだ、ユイ。箱をBOXに収納するからそっちで開けてみてくれないかなぁ。ミイラと魔石が入ってたら、魔石だけ回収して、箱とミイラをまたここに戻すってことでどう? 実際に目で見られれば分析部も喜ぶんじゃないの?」
BOXに入れれば運営の関係者は誰でも見られる。私は見ずに済む!
「エジプト展とかと同じじゃん。呪いとか無いから、そんな怖がることもないよ」
「違うの。ただ見たくないだけなの!」
「解った解った。収納してみて」
よしっ、箱を収納!
台座に固定されていたらしく。台座やその下の土もろとも収納された。床の魔法陣は崩れていないようで安心する。
ユイの返事を待ちつつ、他の場所の撮影を続ける。
天井にはさっきのキラキラは無かった。単純にあっちの部屋の天井に元々あの鉱物があったに過ぎないのかもしれない。
撮影が終わったので、部屋を出て通路を少し進むことにする。
通路の左右の壁にも一面絵が描かれていた。私の目には何を意味している絵なのかさっぱりだが、学者が見れば色々と解読できるのだろう。
何か魔法の手がかりとか見付かるかもしれないし。私は壁画を撮影するだけだ。
「終わったよーカノン」
ユイの声がして、撮影を一旦止める。
「BOXの直下に棺置いといたので、元の場所に戻してくれる?」
「ひぃー、棺ってやっぱりミイラ入ってたの?」
「子供のミイラが数体……」
「ぎゃー。やだ、触りたくない。でもBOXに入ったままなのもやだ。ぎゃー」
「冗談だよ」
「ぎゃあー」
「冗談だってば。ミイラ入ってなかった。魔石と金と宝石だったよ」
「何でそういう冗談言うんだよー!」
タブレットの向こうでユイがニヤニヤ笑っている。性格悪いわ、ホント。
性格判定良好で運営入れるって聞いたけど、絶対嘘に決まっている。
半ベソかきながら、さっきの部屋に戻った。
「カノンは本当怖いの苦手だよね。最近魂さんたちも心得て来て、荷物整理のときにちょっとでも怖い要素のある物はカノンが嫌がるからってポンポン弾いているよ」
「魂さんたちグッジョブだよ。出来るだけそういうの見たくない」
例えニーズがあるとしても、私が認めない物は第7に流通させないよ。
「とりあえず棺戻しておいて」
「ミイラ入っていないのに棺って言うな! 金と宝石が入ってたんなら宝箱だったんじゃないの?」
「んーでも、箱の割に中身が少ないんだよ。と云うことは魔石は入れたときには魔石じゃなかったんじゃない?」
「え、どういうこと?」
「魔石は魔獣の体の中にあることが多いでしょう? 今回の魔石は大型魔獣クラスだったから」
「元々魔獣が入ってたけど、死んだ後に肉体は風化して魔石だけ残ったってこと?」
「魔獣とは限らないけどねー。そっちは大抵土葬だから気付かないだけで、人間にも魔石があってもおかしくない」
「ぎゃああああああ。結局ミイラがいたってことじゃん!」
「あはは、ミイラになってたらその体も残ってるって。……でも蓋が少し開いてたから風化した可能性もあるか……だけど骨も無いのはちょっと」
ユイは急に研究者モードになって考え込む。やめろ。
「心配しなくても大丈夫。第7の動物にも人間にも魔石が無いのは確認されているから。魔素を沢山吸い込んだ動物のみが魔獣になって、魔素の塊が魔石として体内に残るのは解ってるよ」
エルゼダンテの森で数か月暮らし魔素を思い切り吸った私、既に体内に魔石あったりしないのか?
急に怖いことを思いつくが、口にするのは止めた。
そういえば運営では年に一度健康診断は実施されるのだろうか。一応私も運営の社員なんだけど。
「箱の内側に魔法陣書かれていたからコピーしておいた。魔石も回収済で、実は戻すのはコピーの方」
「え? 詐欺じゃん」
「はあ? コピーの精度高いんだから、ほぼ同じ物よ。カノンが日頃食べてるものだって北海道のコピーなんだからね。大体、第7自体が地球のコピーなんだからね!」
「じゃあ、いいことにするか」
箱をさっきの位置に戻した。どうしてプロパティの名称が箱じゃなくて、棺になってるんだよ。
「さっきの大きい箱もコピーしたいけど、あっちは開いてなかったから止しておいた方がいいね。もしミイラ入ってたらカノン泣いちゃうかもしれないし」
いじめっ子ユイめ。
ミイラの可能性も勿論だが、また戻ってあの急坂を降りて登るのが嫌だから、このまま先に進む。
「通路の撮影が途中だから、そっちやっちゃうよ」
「よろしくー。こっちもしばらく忙しくなりそうだよー」
壁画や魔法陣から新たな魔法が見付かるかもしれない。
撮影しながら、緩やかな下り坂を下りて行くと、15畳くらいの空間に出たが、ここはただの土の空間で壁画も魔法陣も箱も無かった。正面にドアが見える。
ドアの向こうに索敵をかけると、だだっ広い空間が広がっていた。これは相当広い部屋ではなく、外なのではないだろうか。ようやく麓に辿り着いたらしい。
注意しながらドアに手をかけたが、押しても引いても開かなかった。長年使われていないせいで、塞がってしまったようだ。
仕方ないので、ドアをくり抜いて外に出ると森に出た。ぼうぼうの草に阻まれたが、やっと外に繋がったらしい。
洞窟に入って5時間、やっと外に出られた。
地図で位置を確認すると、やはり麓近くに出たようだ。ジェマがいる小屋からは2kmほど離れている場所だ。
とりあえず周辺の草木を刈ってから、さっきのドアがあった場所を土魔法で塞ぐ。
目印に赤いペンキで×と書き、誰かに見付かることを考えて、『立入禁止 冒険者ギルド』と書いておいた。
塞いだ土はそんなに固くないので、ツルハシなどで崩せるだろう。
冒険者ギルドに報告に行かなければいけないが、とにかく眠い。もう夜も更けたので、明日にしよう。
まずは、洞窟に入った場所に設置した小屋を回収しなければ。
キーホルダーを掴んで「洞窟前 帰還」と唱えた。
瞬きするとウサギのぬいぐるみが見えたので、さっきの小屋で間違いない。
そのまま外に出て、洞窟の入口を確認する。
こっちも塞いでしまった方がいいよね。
同じように塞いで『立入禁止 冒険者ギルド』と書いておく。
小屋の拠点登録を解除してBOXに収納、続けてジェマのいる小屋に戻った。
三毛猫のぬいぐるみに迎えられる。
丁度ジェマがトイレで1階に降りてきたところだった。
「あーカノンさんお帰りなさい」
パジャマ姿で、寝ていたのか目を擦っている。
「ごめん遅くなった。ジェマの体は大丈夫?」
「はい、大分慣れてきたところです。水を沢山飲まないといけないから、トイレ行きたくて起きちゃいました」
「トイレ行っておいでよ」
「はーい」
大欠伸しながらジェマはトイレに向かう。
大丈夫そうで安心した。
自分のときは1階だったから、トイレも冷蔵庫も近くて良かったが、部屋が2階だと辛いのに降りて来なきゃいけないのが可哀想だ。1階にベッド置いといた方がいいかな。
とにかく早く眠りたい。
でもろくな物を食べて無かったので、お腹も空いた。軽く何か食べようと冷蔵庫を物色していたら、ジェマが戻って来て一緒に冷蔵庫を覗く。
「何か食べた? 階段上り下りするの辛いだろうから、ベッド1階に下ろそうか?」
「いいえ、大丈夫です。晩ごはんも食べたんですが、お腹空いちゃって、私も何か食べてもいいですか?」
その調子なら大丈夫そうかな。ジェマはやっぱり魔素に強い体質なんだろう。
「私もちょっとしか食べなかったからお腹空いちゃって。寝る前だから軽いのがいいね」
あっ、転生初日に食べたレトルトの帆立雑炊を発見。
「私が初めて魔素で頭痛かったときに食べた思い出の帆立雑炊だ」
「じゃあ、私もそれにします!」
「うん、米を柔らかく煮たもので、体に優しいからすっごく美味しいよ」
あのときは気付かなかったが、製造が北海道だ。北海道と云えば帆立だもんね。
二人で帆立雑炊を作って、向かい合ってはふはふと食べた。
「味薄いけど、帆立の味が出てて美味しいです。あと3杯位食べられそうです」
「優しい味だよねー。寝られなくなっちゃうから1杯で止めておこうね」
ジェマの主食もすっかり米になってしまった。ランチも前はサンドイッチだったのに、今はおにぎりばっかり好んでいる。
「カノンさんは大丈夫でした? 危険な魔獣はいませんでしたか?」
「うん、危険なのはいなかったね。ただねー変なものを見付けちゃって、ギルドに連絡しないといけなくなった」
「変なものって何ですか?」
「遺跡って解る?」
頭を振るジェマ。
「森の中に洞窟があって、大昔の人たちが住んでいた跡。住んではなさそうだったけど、壁に絵や魔法陣が描かれたりしていて、歴史的価値がありそうな場所。を、見付けてしまった」
うー、見付けたくなかったよ。いや、運営のためには良かったんだけど、私自身は関わりたくなかったよ。
「すごいですねー!」
ジェマは素直でとても愛らしい。
「じゃあ明日は冒険者ギルドですね。私はまだここにいても大丈夫ですか? もう少し呼吸法の勉強がしたいです」
あ、ついてきてくれないのね。
これもジェマの修行だから仕方ないか。
「とりあえず疲れたからもう寝よう。ジェマも早く寝るんだよ」
「はい、頑張って寝ます!」
めっちゃやる気のジェマさん。おやすみなさい。




