104*ボーナさんにバッグを渡す
屋台の準備をしていたら、先日の商業ギルドのお兄さんが来ていた。
「おはようございます。カノンさん、今日の夕方は空いてますか? またギルド長がお呼びです」
「ああ、お茶の件ですかね。解りました。営業が終わったら行きます」
「宜しくお願いします」
電話が無いから伝言係も大変だ。
周囲の皆さんが『またギルド長?』と云う顔をしている。
「大丈夫ですよ。夕方に行くって返事しましたから」
相当恐れられてるな、ボーナさん。
そういえばお茶の値段をいくらにするか揉めたんだった。後日にしましょうと帰ってきたっきりだった。
普通だったら安く叩かれて揉めるところが、私の場合は「もっと安くしたい」と揉める。さすがに日本の100倍の額でなんて売れないよ。
先日魔法ギルドで話しながら気付いたけど、商人が双方向アイテムバッグを持ったら、現地に駐在員を置いておくだけで、仕入れのために赴く必要が無くなって船旅も不要になるから、壊血病の薬も要らないんじゃないの?
ビタミンCをレインディナに届けに行く話になってるけど、そもそもそんなにビタミンCが必要無くなるよ。
商品リニューアルの前に、内緒にしたまま旧製品を高値で売りつけるようなことをしている様で気掛かりになってきた。
船員に限らず陸地でもビタミンCが足りない人が多い第7の食料事情だから、まああってもいいよね。
それに双方向アイテムバッグが実用化されたところで、輸出入に船が要らない状況になるには十年以上はかかるだろう。
夕方商業ギルドに向かう。
ジェマはまたロビーで待ちたいようなことを言ったが、ボーナさんがジェマを気に入っているのでダメだ。
それに商人たちでごった返すところにジェマを置いていけるものか。
わずか5分で船に乗せられて外国に売られる可能性がある。
商業ギルドのロビーでジェマにそう言い聞かせていたら、隣にいたおじさんが「そうだぞ、気を付けろよ、優しいこと言われても信じちゃダメだぞ」と一緒にジェマに話してくれた。
今この場にいる商人の中で、おじさんが一番の強面だったけれど。
ボーナさんに呼ばれたので、ジェマと一緒にギルド長室に入った。
「こないだギルドでお茶の試飲会をしたんだけど、凄く美味しいと大好評だったわ。カノンちゃんの言う通り、少量ずつ販売することにするわ。とりあえずこの州の貴族やお得意様向けに販売することにしたので、初回はこれでお願いね。もっと欲しいけど悪くなると困るものね」
注文書が渡された。
緑茶も紅茶も100gの物が単価5万デナリ。それが100個ずつだ。
「えー、高すぎじゃないですか?」
「今家にあるお茶はこれより不味いのに同じ値段よ。だからこれ以上安くすることは出来ないわ」
いきなり相場を崩すわけにはいかないので、致し方ない額なのだろう。
今後徐々に下げていこうと云う話にして、不本意ながらも受諾した。
魂さんたちに、お茶のパッケージを外して中のアルミ袋だけにして貰うようメッセージで依頼する。
「最初は様子見の100個ずつだけど、すぐにもっと発注があると思うわ。ウベールでの居場所はっきりさせておいてね。居場所決まったらすぐ商業ギルドに行って。紹介状も用意しておくから」
「あ、そうだ。土地を貸して欲しいときって商業ギルドに行けばいいんですか?」
不動産ギルドなんて聞かないしなぁ。
ウベールでの拠点を探さないと。家はいつもの小屋がいいので、アリッチェみたいな安い土地が見付かればいいんだけど。
「商業ギルドが扱っているけど、貸家じゃなくて土地?」
「土魔法で家建てるから土地でいいんです。お風呂が欲しいので、元々建っている家じゃない方が楽なんですよ」
「お風呂がある物件もあるけど、大きな屋敷になっちゃうものね」
「ちっちゃーい家でいいんですよ」
「空地ならあると思うけど、1ヶ月だけの物件はきっと少ないわよ。でも家が建てられるなんて、上級魔法使いって凄いのね。我が家も作ってくれないかしら」
「私が作れるのは真四角な家だけですから、ボーナさんが住めるような家のレベルじゃないですよ。私は外見には拘りが無いので、寝れればいいんです」
実際は真四角な家どころか、四角の枠だけだ、おまけに魂さんたちに補正して貰ったので、私は埋めただけだ。
「じゃあ、その件も併せて紹介状書いておくわね」
「いきなりで申し訳ないんですが、明後日の朝までに書いて頂くことって可能でしょうか。土曜にウベール行って物件探そうと思ってたんです」
「解ったわ、用意しておくわね。女の子の二人暮らしなんだから、治安の悪いところは避けなさいよ」
わざわざボーナさんがウベールの地図を持って来て、商業ギルドの位置やお勧めの地区を教えてくれた。
先日何も調べずにウベールに行ったら迷子になったから、丁度良かった。
では今週末はウベールで物件探しだ。
「今日はボーナさんに渡したい物があって」
バッグの中に手を突っ込んで、BOXから赤いがま口を取り出した。
「あら可愛い。何かしら。小銭入れ?」
「ここをつまんで弾くと開きます」
一度開けて見せて再度閉じて、渡す。
ボーナさんも同じように開いてみて手を入れようとしたが、中の真っ白な空間に気付き、慌てて手を引っ込めた。
「これってまさか、アイテムバッグ?」
「そうです。うちの故郷のアイテムバッグです。容量は通常の3倍あります」
「こんなに小さいのに3倍?! カノンちゃんのバッグは大きいと思ってたけど、こんな小さいものを沢山持ってたのね。なるほど、納得だわ」
勝手に解釈してくれたようだ。
「普通のとちょっと違って、私とボーナさんの専用バッグなんです。私も対になるバッグを持っていて、遠くの街からでも、商品を入れると、アリッチェのボーナさんのバッグに納品されます。ボーナさん側からは発注書や受領書を送ってください。それと今までみたいに値付けの相談をお願いするかもしれないので、商品サンプルや手紙を送ることもあると思います。そのときは宜しくお願いします」
「お茶の発注もこれに入れれば、ここにいながら受け取ることが出来るってこと? カノンちゃんがエンジーナやレインディナに行っても取りに行く必要ないのね?!」
「そういうことです」
「すごいアイテムバッグじゃない。こんなの発売されたら、どれだけ商人が助かることか。他に在庫は無いのかしら」
ボーナさんが喋りながらどんどん近付いて来た。圧が強い。
「実は開発中でまだまだ試作品なんです。色々と課題があるので、商品化にはまだ何年もかかると思います。これは私が個人で使うだけならと魔法ギルドに許可を貰ったので、ボーナさんも他に漏らさないようにお願いします」
「そうなのね、解ったわ。……確かに簡単に流通させちゃ不味いわよね。海賊にでも使われたらとんでもないことになりそうね」
「そうなんです。悪いこと考えると色々思いついてしまうので、ルールを沢山作らないと。あ、ボーナさんの私物を入れたりすると、私にくれたと勘違いしますからね。気を付けてくださいね」
「カノンちゃんは沢山私物入れてくれていいわよ。有難く頂いておくから」
「入れませんよー」
たまにお菓子位なら入れてもいいかも。
「それで、来月頭に納める筈だったビタミンCを入れておきました。後で確認して大丈夫だったら、領収書をバッグに入れておいてください。代金はギルドの口座にお願いします」
「もう揃ったの? ありがとう。後で確認しておくわ」
「さっきのお茶も準備出来次第入れておきますね」
魂さんに依頼したパッケージ外しは既に完了済みでBOXに納品されていた。
ボーナさんに渡したのは、双方向アイテムバッグではなく、ジェマに渡したのと同じものだ。
普通のアイテムバッグで、保管場所を私のBOX倉庫内のボーナさんスペースに指定してある。対になるバッグがあるとは言ったが、自分のBOXに入れるバッグを別途持っても邪魔なだけなので、実際は作っていない。
ボーナさんはさっきから中のビタミンCを1個出しては入れ直す作業を繰り返していて、何だか嬉しそうだ。小さいバッグになっただけで、今のところ普通のアイテムバッグと変わらないのだが。
こっちからお茶を1つ入れたら、
「なんか新しい物が増えたわよ! ああ、緑茶が入ってる! 今カノンちゃんが入れたの? これは凄いわね!」
と少女のように喜ぶ。
おにぎり貰ったジェマと変わらないなぁ。
「残りの99個のお茶は後で入れておきますね。じゃあ今日はこれで」
「ありがとう。ビタミンCは後で確認しておくわねー、ジェマちゃんもさようなら」
「ありがとうございました! さようなら!」
ジェマ、テンパっているけど、挨拶だけはよろしい。




