第12章 8話 画家
翌日、僕と泉は画家の故郷を訪れた。
その地方の資料館には、画家の若い頃の資料が展示されている。
卒業証書、展覧会の案内状、学生証、出品目録、新聞の展覧会評、賞状。
どれもよくある資料であるが、1冊注目すべきものがあった。
制作記録帳である。
「黄昏ゆく牧場」を見ると、番号が空欄になっていた。
このことについて係の人に聞いてみると「昔から不思議だったとのこと」
やはり「黄昏ゆく牧場」は例外だったのか。
係りの人にもっと「黄昏ゆく牧場」のことを聞いてみる。
「夕日に沈む牧場の風景で、静けさと移ろいの美しさを丁寧に表現した作品。眺めていると心が落ち着き、ゆっくりと作品の世界に引き込まれる。」と評価をしている。
僕は慌てて「作品の感想はわかりました。この作品が複数あるというのは知っていますか」と聞いてみた。
「そうなんですか。そのことについてはよくわかりません」と言われた。
資料館では把握していないのか。
午後には東京に戻ったら、昨日訪れた子孫の老人から電話が来た。
「契約書と日記があったけど見るか」と言ってきた。
僕と泉は再び老人の元へ向かった。
急いで老人宅に着くと、笑顔で迎えてくれた。
「契約書と日記が出てきたのですか」と僕は着くなり聞いた。
「昨日君らが帰ってから部屋を片付けてたら出てきた」とのこと。
さっそく見せてもらうことにした。
まずは契約書。
これは画家に製作依頼を出したものだ。
契約内容、牧場の夕暮れを1点。
普通の注文。
支払いは2回記録されていた。
しかも2回目には「追加制作」とだけ書かれている。
追加注文書は存在しない。
次は日記を見せてもらった。
中身は制作補助について書かれていた。
キャンバス張り。
下地作り。
絵具の調合。
その中に奇妙な一文。
「今日も牧場を描いた。」
翌日も。
さらに翌週も。
「黄昏ゆく牧場」だけ何度も描かれている。
しかし「複製」という言葉は一切出てこなかった。
創業百年以上の老舗画材店にまずは向かう。
日記にここのお店の名前が出てきたからだ。
話をすると、倉庫から古い売掛帳を持ってきてくれた。
画家の購入履歴。
赤色顔料だけ異常な量。
通常の3倍。
「これは1枚では使いきれない量じゃないのか」と僕は思った。
家に帰ると疲れがどっと出た。
「昨日から移動で疲れたよ」と僕が言う
「あんたは運動不足だからね」と泉が言う。
「とりあえず、画が複数あるのはわかった。しかも最近書かれたものではない。ずっと昔にだ」
「そうね」
「ところでSNSコンビはどうだい?」
「う~ん、ちょっと苦戦しているみたいね。私思うんだけど、質問というか募集している内容が悪い。私なら別のこと調べさせる」
「じゃあ順調じゃないんだ」
「そうと言ってもいいと思う」
「よっしゃあ、ひょっとしたらがあるかもよ」と僕がそう言っていると、パソコンにメールが届いているのに気づいた。
オーストラリアの美術館に問い合わせていたことの返信だ。
「The Ranch at Dusk(黄昏ゆく牧場)」
貸出元 Japan。
返却先 Japan。
しかし返却先が現在の所蔵館と違っていた。




