第12章 9話 結末へ 【最終回】
「この問題について話し合わないか」と僕が言う。
「やろう。話し合って答えが出ることもあるしね」と泉が言う。
僕は二十年前の事件を時系列で再構成する。
閉館時、「黄昏ゆく牧場」は展示室にあった。
翌朝、展示ケースは空だった。
防犯設備は正常。
侵入・持ち出しの痕跡もない。
数日後、別の美術館で「黄昏ゆく牧場」が発見される。
当時の捜査では、「盗まれた作品が運び込まれた」と考えるしかなかった。
しかし現在の調査では、その作品も真正であることが判明する。
さらに、元の美術館に戻った作品も真正。
そして三枚目も真正。
僕は3枚の「黄昏ゆく牧場」の写真を並べる。
「物理的にすべて真正、制作年代も一致、筆致も同一人格、記録も矛盾しない」と僕が言う。
「そうね。今まで調べた結果、3枚ともほぼ同じ時期に、同じ人物によって描かれている」と泉。
「じゃあさあ、この3枚の違いってなんだ?」
僕と泉が考えたが答えは出なかった。
しばらくして僕が言う。
「どれが本物かという問い自体が成立しないんだ」
その後、泉とこの作品はなんなのかと話し合った。
その結果、「黄昏ゆく牧場」は単一作品として定義されていなかったことが問題だ、という結論に至った。
1枚を複製したわけでもない。
「この作品は「どれが本物か」ではなく、どれも本物として成立するよう設計されているんだ」と僕が言う。
「問題は、どの絵が盗まれたかじゃない。どの絵も本物なら、「盗まれた作品」そのものが特定できない」と泉が言う。
僕たちは依頼主の元へ向かった。
「犯人はわかったか」と依頼主が言う。
「盗んだ犯人と呼べる人はいないと思います」と僕が言う。
「しかし実際絵はなくなったんだぞ」
「はい。事件は確かにありました」と泉。
「誰かが作品を移動させたこと自体は事実です」と僕。
「しかし今となっては古すぎて捜査は不可能です。時効も成立していますし、美術館もこれに関しては協力的ではないですし」と泉が言う。
「しかし推理することはできます。画家自身が3枚とも完成作品として描いた。だから犯人は、その事実を知っていた人物です。その人物は盗むことではなく、3枚とも本物であることを未来へ残そうとした人物」と僕が言う。
「でも目的はわかりました」と泉が言う。
「それはなんだ!」
「絵を盗むことではありません。金が目的なら、売る。蒐集が目的なら、隠す。怨恨が目的なら、壊す。だが、そのどれも起きていない」と僕が言う。
「私たちが疑いもしなかった前提を、壊すことです」と泉。
「本物は一つしかないという常識を」と僕。
「だから誰も名乗らなかった」
「はい。目的は達成されていたからです」と僕が言う。
「そういうことだったのか」
「以上が捜査結果です」と僕と泉が言う。
「それが答えだ。私はずっと気づかなかった……」
「片山碧と泉、未解決事件の依頼完了しました」と連絡を入れた。
SNSコンビとオールドスタイルコンビが依頼主の元へやってきた。
「あなたたちが解決?すごーい」とSNSコンビ。
「まさかあなたがたが……。脱帽です」とオールドスタイルコンビ
2組は事件の解決のことを聞いてきた。
僕たちは捜査結果を話した。
「なんか納得できない」とSNSコンビが言う。
「失礼ですが、1つだけ忠告を。あなたがたは、犯人が誰かばかり追求しすぎた。事件の目的や、絵のことについても調べるべきでした」と僕が言う。
「ねえちょっといい?」とSNSコンビが泉に言う。
すると泉のスマホを取り、呟きサイトを見る。
「やっぱり私たちのことフォローしていた。ずっこい」
僕と泉は「すいません」と言う。
「でも、探偵ってライバルじゃないですか」と僕が言うと
「ブロックしたからね」と言われた。
そのやりとりに依頼主とオールドスタイルコンビが笑っている。
「ちょっと呟きサイトというのに興味が出ました。探偵も近代化に対応しないと」とオールドスタイルコンビの丸尾さん。
「それは私もかな」と依頼主。
美術館の公式記録は更新される。
「黄昏ゆく牧場」
単独作品 → 作品群(同一作者による複数完成作品)
事件名だけは、二十年前のまま変更されない。
「黄昏ゆく牧場」盗難事件
ただし、その記録には新たに一行が追記される。
「盗難は確認されたが、盗難作品の特定には至らず。本件は、美術史上の研究対象として継続調査とする」
事件は終わった。
しかし「黄昏ゆく牧場」が3枚描かれた理由だけは、今も誰にも分からない。
画家だけが、その答えを知っていた。
(完)
お読みいただきありがとうございました
今回はキャラ重視で書きました
色んな探偵をかけて楽しかったです
個人的には戦隊ものコンビが気に入っています
今回推理の話をひねり出すのに苦労したので推理はネタをためてからまた書きたいと思います
ありがとうございました




