第9章 3話 えで始まるもの
僕たちは家の中を歩いてまわった。
隣の部屋で依頼主と女性が話をしている。
見たところ、依頼主の妻らしい。
話し込んでいたので、目が合った時に軽く会釈だけした。
その隣の部屋では男性の使用人が書類整理をしていた。
「こんにちは。お仕事中にすいません。ちょっとお時間よろしいですか?」と僕が聞く。
「はい、どうぞ」
「ここに務めてどれぐらい経ちます?」
「5年ぐらいですね」
「いつも何時ごろこの家に来ていますか?」
「いえ。住み込みなので」
「ここ3週間。なにか変わったことはありますか」
「う~ん。特にないですね」
「最後に"え"で連想する物は?」
「"え"でですか。エナメルシューズとか?」
「ありがとうございました」と僕は礼を言った。
「エナメルシューズか」と僕が言うと
「まあフォーマルな場所では履くんじゃないかな」とイタリアンコンビの老馬。
「いつの間に」と僕が言うと、
「そりゃあ屋敷といえども、家の中。そして考えることは同じ」と後ろを指すと美羅野さんとなぞなぞコンビもいた。
「てな訳で、君が代表して質問してくれ。我々はお嬢さん(泉のことらしい)と一緒に後ろで聞いてるよ」
「まあいいですけど」
次の部屋には女性の使用人がいた。
同じく質問していく。
「ここに務めてどれぐらい経ちます?」
「10年です」
「住み込みですか?」
「はいそうです」
「ここ3週間。なにか変わったことはありますか」
「特にないです」
「最後に"え"で連想する物は?」
「エアダスター。掃除で使います」
「ありがとうございました」
さらに隣の部屋には息子がいた。
歳は15手前といったところか。
「ここ3週間。なにか変わったことはありますか」
「母が2度、物が無くなったと騒いだぐらいだね」
「"え"で連想する物は?」
「エジプト。あっ物じゃないか。ならエンジン」
「ありがとうございました」
そこへ女性が入って来た。
僕らを見て驚いている。
「はじめまして。僕らはここのご主人に依頼された探偵たちです。失礼ですが、あなたは?」
「私は家庭教師をしています」
「いつからされているんですか」
「7・8年前ぐらいからです」
「ここには通いで?」
「ええ、そうです」
「"え"で連想する物はなにかありますか?」
「"え"ですか。それがなにか。まあ"え"ならエプロンですかね」
「ありがとうございました」
最後にキッチンに行くと料理人がいた。
事情を説明し、いくつか質問をした。
「いつからされているんですか」
「5年前ぐらいからです」
「ここには通いで?」
「はい、足が悪いので住み込みの話も出たんですが、自宅のほうがよいので」
「"え"で連想する物はなにかありますか?」
「"え"ですか。FX」
「物では?」
「エレキギター」
「ありがとうございました」
こうして一通り聞いて回った。
みんな、当たり障りのない答えばかりだった。
料理人だけは少し攻めてたが。
「エレキギターは盲点だったね。高いのだと百万超えるぞ」とイタリアンコンビの老馬。
依頼主が歩いているので、一応聞いてみた。
「エレキギターはありますか?」
「ありますよ」
「あるんかい!」
「モデルは?」とイタリアンコンビの美羅野さん。
「PRS」
「いくらぐらいするんですか?」と僕が聞く。
「80万ぐらいですね」
「「それだ!」」とイタリアンコンビとなぞなぞコンビ。
「あっ"え"のつくもの」
「そう。アイシャドウ・イヤリング・腕時計と値段が上がってきている。ならば次は」イタリアンコンビが言う。
「エレキギターだと?」と依頼主。
「どこにあるんですか?」と僕が聞く。
息子の部屋に。
息子さんの部屋にいくと、家庭教師と勉強中であった。
「何ごとです」と家庭教師。
「ちょっとエレキギターがまだあるか確認しに来ただけです」と僕が言う。
依頼主が「あそこに」と指をさす。
よかった。
まだある。
その夜。
妻がまたしても悲鳴を。
みんなで行くと「指輪がない」と言っている。
まさかと思い聞いてみると「エメラルドの指輪が無くなっている」




