Episode2.秘密の勅命
さて、困ったことになった。
目の前の鬼…いや王妃様の怒りをどうしたら鎮められるだろう。
王妃の名はアロメア・アーク・ヴェイル。
もちろんヘリオの実の母でありますから。王子様とはパワーも桁違いなんですわ。
(忙しい日々の合間を縫って何度か手合わせしてもらってる僕の師匠でもある。)
くっ…まずい、何か言い逃れする手立てはないか?
僕はどうしたら生き残れるかを考える。
謝罪か?それとも誤魔化すか?言い訳を並べて醜く逃げ回るのも手だなぁ…
それ以上考える隙を与えずアロメア様は琥珀色の瞳で睨みつけながら問いただす。
「今日ここに来なければいけないことは伝えていたわよね?このバカ弟子ぃ。」
「その通りでございます。アロメア様の命令は絶対でございます。ですので質の良い眠りをするためアロマを焚き万全の準備をいたしました。」
言葉を途切れさせずに続ける。
「ですが、あまりの良い香りに朝まで嗅ぎ続けてしまいました。これは私が悪いのではなく全てはアロマ職人の責任です!絶対に特定して、アロメア様の前に跪かせますので、今日のところは何卒お許しく…」
言い終わる前に王妃の一撃が炸裂する。
ボキッ!!
「ああぁん、足首を折られました〜!!」
足を押さえながら無様に転げ回る。
「くっ!!このぉ!!まだおちゃらけるつもりかあっ!!
今日は来月より始まる学園生活で、お前に任務を与えるために呼んだんだぞっ?!」
その言葉を聞いて、僕のコミカルで無様な動きがピタッと止まる。
はっ!?任務!!
僕は瞬時に気持ちが切り替わり、乱れた身なりを整えると、王妃様の前で片膝をついた。
「…申し訳ございません。アロメア様。何なりとお申し付けください。」
というのもワタクシ、マヤは女王直属部隊アンバラの部隊員の一人なのである。
物心ついた時から、僕の能力を見込まれ厳しい訓練に耐え抜いてきた。
長い訓練を終え、先月ようやく入隊が決まったのだ。
「やっと話を聞く気になりましたか…
マヤ。あなたには来月からオクシア学園へと入学してもらいます!そこで表向きは普通の平凡な学生として暮らす…その一方で、学校内で起こっているある儀式について調査を進めていただきたいのです。」
僕は一言一句聞き逃さないように耳を傾ける。
「調査内容は、学生の間で密かに布教活動をしている、カルプトス教の儀式、その内容についてです。」
「ほとんどの生徒は、変な儀式をしたり集まって密談をしたりと面白がっていますが、その一方で国が禁止している儀式『タビス』を秘密裏に行おうとしている者がいます。その人物を見つけていただきたいのです。」
「…タビス」
マヤはその言葉にビクッと反応し、顔が徐々に強張り始める。
『タビス』それは最果ての地に生息する異形『デム』と同等の力を得ると言われる最悪の儀式である。
ヴェイル王国の博物館に展示された『タビス』に関する記述によると、
『深淵を冒してはならない。深淵に触れれば最後、黄金に輝く邪神に魅入られてしまうだろう…』
と書かれていた。
僕は生唾をごくと飲み込む。
「学園には部隊長のニコスも教員として在籍しています。何か困ったことがあれば彼に協力してもらってください。
彼との連携が今回の任務の鍵となるでしょう。」
不安な気持ちを押し殺し、返事をする。
「必ず見つけ出して見せます。見ていてくださいアロメア様。」
王妃は僕の不安な気持ちに気付いたのか困ったような表情を浮かべ、続けた。
「不安になる気持ちもわかるわ。でも、真実を突き止めるには生徒という近しい立場からの調査が必要なの…。
でも、無理はしないでね…あなたは私のバカ弟子であり大切な愛弟子だから。」
僕の頬に手を触れて、まるで自分の大切な子供を見るかのような目をした。
僕は王妃の困った表情を見て、覚悟を決めた。
「大丈夫ですアロメア様!いざとなったら全力でニコス先生のところまで逃げます!逃げるのは朝飯の次の次くらいには得意ですから!」
僕はニカッと笑ってキメ顔でふざける。
師匠はフッと笑ったがすぐに真面目な顔に戻り、任務の話を続けた。
「それでは、学園入学への手続きはこちらで進めます。あなたは入学式までに制服などの準備をすませておいてください。詳細は手紙で送ります。以上!」
「はい師匠!!失礼します!」
マヤが扉を閉めるのを確認すると王妃は目を伏せて、何やら暗い顔をしている。
王妃は心の中で呟いた。
(はっはっはー!!可愛い子は千尋の谷に蹴り飛ばせというしな!!危険な任務もやむを得まい!!)
(私の弟子ならこの程度の任務片手でやってもらわねばな!)
(ふー。楽しみで仕方がない、我が弟子の活躍が…)
王妃は、はちゃめちゃスパルタドSであった。




