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抱き心地1000%の俺、なぜか女の子に「一緒に寝よ」と誘われる  作者: ピースピース


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8/11

第8話 ワン♪ワン♪

 もんじゃ焼きを綺麗に平らげた俺たちは、満足感とともに店を後にした。

 ……本当に美味かった。正直、あのお店は完全に当たりだ。


「次は、陽が行きたい場所に案内してもらいましょうか」


 店を出たところで、氷室がこちらを向く。


「え、あー……俺?」


 やべえ。

 もんじゃを食いながら考えようと思っていたが、氷室たちとの話が意外と盛り上がったため、全然こっちのプランは白紙だ。

 何か気の利いた場所を……と焦りつつ周囲を見回していると、ふと気づいた。


 さっきから、鈴木の視線がずっとある方向に向いている。

 道端ですれ違ったトイプードル。

 ペットショップのショーウィンドウの中にいる、柴犬の小犬。

 犬、犬、犬。


 いつもの無表情を貫きながらも、すれ違う犬たちを一匹残らず凝視していた。

 ……こいつ、もしかして……

 その瞬間、俺の脳裏にひとつの場所がパッと浮かび上がった。

 ポケットからスマホを取り出すと、マップアプリを起動して目的地のナビを入力し始めた。


「……まぁ、ここでいいか。ここから近いし」


 * * *

 

 商店街を抜けた先。

 少し奥まった通りに佇む、小さな店の前で俺たちは足を止めた。


「ドッグカフェ MofuMofu?」


 氷室が首を傾げながら、、シンプルなデザインの看板を見上げる。


「犬カフェ? ……陽って犬好きなの?」

「まぁ……嫌いじゃない、かな」


 本当は鈴木が犬に興味津々だったから、何となくナビに入れただけなんだけど。

 俺だって犬は好きだし、別に嘘をついたわけじゃない。


「……まったく、子供ですね」


 鈴木が呟いた。

 表情はクール。

 けれど、その手元は落ち着きなくスカートの裾をぎゅっと握りしめているし、つま先は地味に内股になってもじもじと動いている。

 おいおい、めちゃくちゃ嬉しそうじゃねぇか。


「そ、そうか。じゃあ、別の店に変えるか?」

「なりません!」


 鈴木が声を上げた。

 いつもの平坦なトーンとは違う、活発な声。しかも、よく見ると目がうっすらとキラキラ輝いている。

 

「こ、子供っぽいですが……特別に許可しましょう」

「……犬が嫌いだったら悪いだろ?」

「問題ありません。お嬢様も私も、犬アレルギーとかはありませんし、犬に対して恐怖心はありません」

「でも……」

「それに、犬とのふれあいは、お嬢様のメンタルケアにおいて極めて有益です。お嬢様の心身におけるストレス緩和、幸福度上昇、自己肯定感の向上など、あらゆる角度から見て、プラス要素しかありません」


 ……こいつ、めっちゃ犬好きだったんだな

 犬の魅力を大真面目に、凄まじい早口で語る鈴木。

 視線は、店のガラス越しにいるトイプードルに完全に釘付けだ。


「お嬢様、こちらでよろしいでしょうか?」

「ええ、別に構わないわよ」


 氷室が軽く頷いた瞬間、鈴木の口元がほんのわずかに緩んだ。


「ありがとうございます。承諾をいただきましたので、この店にしましょう。寛大なお嬢様に、感謝することですね、朝倉陽」

「お、おう……」

「となれば、早く行きましょう」


 いつもなら一定速度で歩く鈴木が、少しだけ小走りになった。

 嬉しそうに先を歩くその背中を見ながら、俺は思った。

 もしこいつに犬みたいなしっぽが生えていたら、今頃間違いなくブンブンとちぎれんばかりに振っているだろうな、と。


 ○○〇


 『ドッグカフェ MofuMofu』の扉を開けると、店内には柔らかな照明と甘いおやつの香り、そして小型犬たちの楽しげな鳴き声が満ちていた。


 トイプードル、チワワ、ミニチュアダックス……

 十数匹の犬たちが、カフェスペースのあちこちでくつろいでいる。


「いらっしゃいませ〜。お好きな席へどうぞ〜」


 店員さんに案内されて、俺たちは窓際の席に腰を下ろす。


「メニューをお持ちしますね。わんちゃん用のおやつもご注文できますので、ご希望があればどうぞ」

「じゃあアイスコーヒーで」

「私はハーブティーを」


 俺と氷室が普通に注文している間、鈴木はじっと犬たちを見つめていた。


「……まゆ」

「はい」


 鈴木の様子がさっきからおかしい。

 椅子に座ってるはずなのに、微妙に前のめり気味で、手が膝の上でそわそわ動いている。

 そしてその視線の先では、クリーム色のポメラニアンが、床の上でコロンと寝転がっていた。


「触りたいなら、行っていいわよ」

「……っ」


 鈴木の肩が、ぴくりと動いた。


「ほ、ほ、本当に、よろしいのでしょうか……?」


 普段の冷静さはどこへやら、声がほんの少し震えている。

 抑えきれない興奮が、完全に滲み出ていた。


「せっかくお金払って犬カフェに来てるんですもの。思う存分楽しまないと損だわ。それにあの子触ってほしんじゃない?尻尾ふってるし」

「……承知いたしました。」


 鈴木は、恐る恐る席を立った。

 ポメラニアンの前にしゃがみこみ、ゆっくり手を差し出す。

 犬がくんくんと匂いを嗅ぎ、次の瞬間、ぺろっと鈴木の手を舐めた。


「…………っ」


 鈴木の目が限界まで見開き、その張り詰めていた表情が一瞬でふにゃりと緩む。

 こんな顔は初めて見た。


「……やわらかい……あったかい……ちいさい……すばらしい……」


 口元をだらしなく緩め、目尻をふわっと下げて、心底幸せそうな優しい笑みを浮かべている。


「よしよし……いい子ですね……ワンワン♪……」

「……あいつ、キャラ崩壊してないか?」

「あの子、犬と接するときはああなるのよ」


 氷室がハーブティーを上品に嗜みながら、さらりとメイドの秘密を暴露してきた。

 鈴木は、犬にぴったりと顔を近づけ、目を細めてうっとりと撫で続けている。

 まるで、別人みたいだった。


「お前……めちゃくちゃ犬好きだな」

「っ……! ……いえ、別に」


 俺の言葉にぴくりと肩を跳ね上げると、鈴木は慌てた様子でグッと顔を引き締め直した。


「先ほど、お嬢様から思う存分楽しめとおっしゃったので、それに従っているだけです。……べ、別に、犬など……」


 そのとき、鈴木の膝の上にちょこんと乗っていたポメラニアンが、「くーん」と悲しそうな声を上げた。


「……っ! ご、ごめんね。嘘、嘘です。あなたのこと……その、だ、大好きです……!」


 鈴木は小声でそう呟き、再び犬を撫でる。

 そこで俺と目が合った。


「……なに見てるんですか。あっち行ってください。5秒以内に視界から消えなければ、拘束しますよ」

「怖ぇよ」

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