表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淑女の得物は斧でございます  作者: 依馬 亜連


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/10

7:元学友から愛をこめて

 国王の執務室――の床に座らされたまま、エドワードは全てをゲロった。


 か弱そうな女性にいじめられるのが大好きで、侍女のキティにも隔日で踏んだり蹴ったりしてもらっていたこと。

 しかし段々と、更なるスリルを求め始めたこと。

 キティに頼み込んで、執務室でも踏んでもらっていたこと。

 ベアトリスに仕事を手伝わせるべく、登城の要請をしていたのに、それをすっかり忘れていたこと。

 で、キティとのプレイを見られちゃったこと。

 その秘密の保守を巡って、ベアトリスに決闘を申し込まれたこと。

 彼女に勝てるわけがないと焦り、悪評と罪をでっち上げて彼女を修道院行きにしたこと。


 ――そして彼女がすぐに(なんなら一生)出てこられないよう、アンテノーラ修道院へ島流しにしたことも含め、全てぶちまけた。


 この身勝手すぎる告白に国王も公爵も、客間から戻って来た王妃も頭を抱えるしかなかった。

 国王は両手でこめかみを押さえてうめきながら、低い声で問う。

「色々と、言いたいことはあるのだが……お前、あの侍女はただの学友で(やま)しい関係などない、と宣言していたよな? 私たちは一応、あれを信じていたのだぞ?」

 足がしびれ切ったため、はんなりと横座りになっているエドワードは、国王からさっと視線を反らした。

「……申し訳、ありません」

 しおれた声に、国王のバカデカいため息が重なる。


 王妃も首を振り振り、バカ息子に冷めた目を向ける。なんなら舌打ちもしそうなご面相だ。

「あなたの話を聞く限り……ベアトリスさんはたとえあなたが決闘に負けても、火遊び自体を責めるつもりはなかったのでしょう? しかも婚約も、継続する心積もりだったのですよね?」

「……はい。恐らくは」

 とうとう王妃から舌打ちが繰り出された。キレのいい音だ。


「あなたはそれがかなりの譲歩、慈悲だと気付かなかったのですか? わたくしがベアトリスさんの立場なら、その場であなたのイチモツをもぎ取っておりますよ?」

「ヒイッ……で、ですがあの女――ベアトリス嬢は、私の醜聞を公表させようとしたのですよ! 慈悲などあるわけが!」

「王家――いいえ貴族の妻にとって、跡取りを産むことは最重要課題です。そこに至るまでに見え見えの火種があれば、取り除くのが当然ではないですか」

「でも彼女は、私が広めた噂を訂正しませんでした! そして皆、疑うことなく信じました! ならば普段の彼女の行いを、皆も問題視していたのですよ!」


 だから自分は悪くない、と続けそうな言葉を、公爵が視線だけで黙らせる。キャィンッ、とビクつくエドワードを見据え、公爵は押し殺した声で言った。

「私の可愛いベアトリスは常々、貴方への愛想が尽きたと申しておりました。噂をわざわざ潰して回ってまで、殿下のおそばにいたくなかったのでしょう。そのまま婚約解消となれば万々歳、とも申しておりましたから」

「え……嘘……」


 エドワードは呆然、と呟いた。自分が(うと)んでも、相手はなんだかんだで憎からず想ってくれると信じていたらしい。

 さすがは脳内にも星屑だけが詰まっている、キラキラ王子サマである。


 国王が呆ける息子に、「あのな」と声をかける。

「そもそも、彼女の婚約者であり、そして王太子でもあるお前が広めた噂だぞ? 周りの者がおいそれと、否と唱えられるわけがなかろう。下手を打てば、今度は自分が悪評をばらまかれるかもしれない、と警戒して当然だろう」

「え……あ……」

「それで、お前の愛人であるキティ嬢はどこにいるんだ?」

「えっと……彼女は昨日から、体調不良で休んで……それに、キティは何も知ら――」

「知らなかったとて。当事者として、彼女の聴取も改めてせねばなるまい」

 国王は息子の懇願を、ぴしゃりと跳ね返した。


 ここで今まで部屋の隅で気配を消していた侍女長が、静かに動いた。しかめっ面の国王へそっと歩み寄る。

「陛下。恐れながら、発言をお許しいただけますか?」

「構わん。どうしたのだ?」

「キティさんですが、本日付けで退職いたしました。退職届も預かっております」

「えっ!」

 エドワードが素っ頓狂な声と一緒に、顔を跳ね上げた。彼はすぐに公爵を睨む。しかし公爵は、澄まし顔で肩をすくめた。


「私どもは何もしておりません。娘からキティ嬢への恨み言など一つも聞いておりませんので、手を出す理由もございません。殿下との秘密のご関係も、今初めて知りましたので」

「う、嘘だ……」

 疑心暗鬼のエドワードの前に、侍女長がしゃがみ込む。

「キティさんからは、結婚が決まったための退職と伺っております。実家にいい縁談が届いたそうです」

「えぇっ、結婚!? 私以外とぉ!?」

「そうでしょうね。良縁だと喜んでおりましたし。こちらに、殿下へのお手紙を預かっております」


 侍女長がお仕着せのポケットから取り出したのは、飾り気のないペラペラの封筒だった。封も開いている。

「キティさんの許可を得て、念のため中も(あらた)めております。どうかご容赦ください」

 この言葉は、エドワードの耳を右から左に流れていった。ひったくるように受け取った手紙の内容のせいで、それどころじゃなかったのだ。



――拝啓 エディ様

挨拶もなしにお別れしてすみません。


でも、さすがにベアトリス様の根も葉もない噂を広めるのは、やりすぎです。引きました。

エディ様のアレな性癖を知っても、結婚してあげようと考えて下さっていたお優しい方に対して、さすがにやりすぎです。


それに都合が悪くなったら、きっとあたしも捨てられるんだろうなって怖くなって。

だから逃げるしかないなって思ったんです。分かって下さい。

あたし、しがない子爵家の娘だし。


でもマゾ趣味に誘ってくれたことは、ありがとうございます。最初はお金のためでしたけど、最近は割と楽しかったです。


実は娼館を営んでいる伯爵様から、後妻のお誘いがあったんです。

伯爵様とはエディ様に頼まれて、首輪を買いに行った時に出会いました。こういうの、運命の出会いって言うんですかね?


「副業で、とある高貴な方をいじめてるんです」って言ったら、「私の店でも、女主人として手腕を振るってくれないか?」って。

お仕事がお仕事だからか、伯爵様はとっても誠実で優しいお方なんです。

しかもおひげの似合う、素敵なイケオジなんですよ。実はあたし、枯れ専なんです!


伯爵様は、エディ様みたいな性癖の人でもストレス発散できるよう、色んなお店を作りたいっておっしゃってました。

なのであたしも、妻として伯爵様を手伝おうと思います。

エディ様で鍛えたスキルを、お店のみんなにも伝えるので楽しみにしててくださいね。


これでもロウソクをたらし・たらされた仲ですし、エドワード殿下の幸せを遠くで祈っています。

そしてどうか、お優しいベアトリス様にちゃんと謝って下さいね。


あなたの元学友 キティより――



 エドワードは、手紙を凝視したまま固まった。

 一方の国王たちは、侍女長から手紙の内容の報告を受けて一転、呆れと同情混じりの目をエドワードに向けている。


「エドワードよ……お前は勉学も武芸も人並み以下だが、社交性と度胸ならば人一倍だ。そして要領もいい。賢王にはなれずとも、人たらしの良王になれると信じていたのだが……」

 国王の嘆きに、公爵の声が続く。

「……身近な恋人の心も繋ぎ止められないほど、有事の立ち回りが下手でいらっしゃったとは」


 国王たちだけでなく、侍女長や侍従など、この場にいる大人たちの心の中は一致していた。

「もう駄目だな、こいつ」

と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ