第六十八話 西国最大の港
「次は博多。」
木箱の底から見つかった一枚の紙。
その短い言葉を前に、部屋は静まり返っていた。
小早川隆景がゆっくりと口を開く。
「博多は、西国一の港町。」
「明や朝鮮との交易も盛んだ。」
「もし黒潮屋が本当に博多へ向かうなら……。」
その先は言わなくても分かった。
武器が大量に流れれば、一つの港の問題では済まない。
西国全体を揺るがしかねない。
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翌日。
隆景は弥助へ一通の書状を差し出した。
「これは博多の豪商、島井家への紹介状だ。」
「島井家……。」
「古くから毛利家とも商いをしておる。」
「安心して頼るとよい。」
弥助は両手で書状を受け取った。
「ありがとうございます。」
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数日後。
山本屋の船は瀬戸内海をさらに西へ進んでいた。
潮風を受けながら、庄吉が海を眺める。
「若旦那。」
「黒潮屋って、本当に博多へいるんでしょうか。」
「分からない。」
「でも。」
「紙を残したということは、見つけられる自信があるか。」
「あるいは。」
「こちらを誘っているか。」
庄吉の表情が引き締まる。
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やがて船は関門海峡を越え、博多湾へ入った。
弥助は思わず息をのむ。
「大きい……。」
港には、これまで見たどの港よりも多くの船が集まっていた。
日本の商船。
明の大型船。
朝鮮から来た船。
異国の言葉が飛び交い、荷揚げは昼夜を問わず続いている。
堺ともまた違う。
ここはまさに、日本と大陸を結ぶ玄関口だった。
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紹介状を持って訪ねた島井家。
出迎えたのは、五十代ほどの穏やかな商人だった。
「ようこそ。」
「島井宗清と申します。」
弥助は深く頭を下げる。
「山本屋の弥助です。」
宗清は紹介状を読み終えると、静かに笑った。
「毛利殿が人を紹介するとは珍しい。」
「よほど信用されているようですな。」
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応接間で茶をいただきながら、弥助は事情を説明した。
黒潮屋。
武器の密輸。
博多という言葉。
宗清は黙って聞いていたが、やがて静かに口を開いた。
「心当たりがあります。」
「本当ですか。」
「最近。」
「身元の分からぬ商人が増えました。」
「昼は姿を見せず。」
「夜だけ荷を動かしております。」
弥助と庄吉は顔を見合わせた。
瀬戸内と同じだ。
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宗清は一枚の地図を広げた。
「博多の港は広い。」
「ですが。」
「夜だけ荷が集まる場所があります。」
地図の端。
古い倉庫が並ぶ一角だった。
「表向きは使われていません。」
「しかし。」
「夜になると灯がともる。」
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その日の夕暮れ。
弥助たちは港を歩いていた。
昼間の賑わいが嘘のように、人通りが減っていく。
「若旦那。」
庄吉が足を止める。
「見てください。」
古い倉庫の壁に、小さな印が刻まれていた。
波の形。
そして黒い墨で塗られた丸印。
弥助は懐から木札を取り出す。
黒潮屋の印と、よく似ていた。
「間違いない。」
「ここだ。」
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夜が更ける。
倉庫の陰から様子をうかがう弥助たち。
すると、一台、また一台と荷車が集まり始めた。
荷を運ぶ者たちは皆、顔を布で隠している。
「始まりますね。」
庄吉が息をひそめる。
その時だった。
倉庫の扉が開く。
中から現れた男を見て、弥助は目を見開いた。
「……まさか。」
その男は、堺で取り逃がした黒装束の男だった。
そして男は静かに笑い、弥助のいる暗闇へ向かって口を開いた。
「待っていたぞ。」
「山本屋の弥助。」
見つかっている。
その事実に、庄吉の背筋へ冷たい汗が流れた。




