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転生したら戦国時代の米問屋だった  作者: 水原伊織


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第五話 代官の呼び出し

「代官様がお呼びだ」


武士の言葉に、店の空気が凍り付いた。


源兵衛の顔が真っ青になる。


庄吉など今にも倒れそうだ。


「だ、代官様が……?」


「そうだ」


武士は短く答えた。


「今すぐ来てもらう」


有無を言わせぬ口調だった。


戦国時代だ。


公務員からの呼び出しではない。


断るという選択肢は存在しない。


源兵衛が震える声で言った。


「わ、わしが何か……?」


武士は鼻を鳴らした。


「知らん」


絶対知ってるだろ。


俺は心の中で突っ込んだ。


だが表情には出さない。


代官が動いた理由はおそらく一つ。


米だ。


ここ数日で山本屋は大量の米を買い集めている。


目立たないはずがない。


「親父」


「な、なんだ」


「俺も行く」


「馬鹿言うな!」


即座に否定された。


「相手は代官様だぞ!」


「だからだ」


俺は答えた。


「米を買うと言い出したのは俺だからな」


源兵衛は頭を抱えた。


だが結局、俺も同行することになった。


――――


代官所は町の中心部にあった。


山本屋などとは比べ物にならない立派な建物だ。


門をくぐる。


庭を抜ける。


そして広間へ通された。


そこには一人の男が座っていた。


四十代後半。


細身。


鋭い目。


無駄のない所作。


いかにも仕事ができそうな顔だ。


「山本屋か」


男が口を開く。


「はっ」


源兵衛が慌てて頭を下げた。


男の名は松田清左衛門。


この地域を治める代官だ。


「最近、米を買い集めているそうだな」


やはりその話だった。


「い、いや、その……」


源兵衛がしどろもどろになる。


すると代官は机を叩いた。


「答えよ」


低い声。


源兵衛が震え上がる。


俺は一歩前へ出た。


「私が進言しました」


部屋の空気が変わる。


代官の視線が俺へ向く。


「お前は?」


「山本屋の倅、弥助です」


「ほう」


代官は目を細めた。


「倅の考えか」


面白いものを見るような目だった。


だが好意的ではない。


試している。


そんな視線だった。


「なぜ買い集めた」


「凶作の噂があったからです」


「噂で動いたのか?」


「はい」


代官は笑った。


冷たい笑みだった。


「商人らしいな」


その言葉には棘があった。


俺は理解する。


代官は怒っている。


米不足の噂が流れている時に、商人が買い占めを行う。


領民から見れば迷惑な話だ。


当然だろう。


だが。


俺には言うべきことがあった。


「代官様」


「なんだ」


「もし本当に凶作なら、今買わなければ手遅れになります」


代官の眉が動く。


俺は続けた。


「今ならまだ市場に米があります」


「だから買い占めろと?」


「いいえ」


俺は首を振った。


「領内で備蓄するべきです」


部屋が静まり返った。


代官が黙る。


武士たちも黙る。


源兵衛だけが青い顔をしている。


俺はさらに続けた。


「米が足りなくなれば値段は上がります」


「……そうだな」


「民は困ります」


「そうだ」


「だから今のうちに確保するべきです」


代官はじっと俺を見ていた。


まるで値踏みするように。


長い沈黙。


やがて。


「面白いことを言う」


代官は小さく呟いた。


そして立ち上がる。


「実はな」


そう言って机の上に紙を置いた。


「隣領から正式な報せが来た」


俺は目を向ける。


代官の顔は険しかった。


「凶作の噂は事実だ」


源兵衛が息を呑む。


庄吉も顔色を変えた。


そして。


俺は内心で確信する。


当たった。


予想が。


代官は静かに言った。


「問題はここからだ」


その目が鋭く光る。


「このままでは、我が領も米不足になる」


戦国時代の領地経営。


その現実が。


ついに山本屋の目の前へ姿を現した。


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