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転生したら戦国時代の米問屋だった ~武将でも剣豪でもない俺が、兵糧で天下統一を支えます~  作者: 水原伊織


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第四話 置き場所がない

山本屋の蔵は限界だった。


「入らねえ!」


奉公人の悲鳴が響く。

昨日から買い集めた米俵が次々と運び込まれ、蔵は俵の山になっていた。


元々あった二百八十七俵。

そこへ市場で買い集めた米が加わり、もう足の踏み場もない。


庄吉が駆け寄ってきた。


「若旦那、もう置く場所がありません!」


俺は腕を組んだ。

予想通りだった。

むしろ思ったより早い。


「親父、空いてる蔵は?」


「ねえよ」


即答だった。


「近所も全部埋まってる」


「借りられないか?」


「金がねえ!」


それもそうだ。

今の山本屋は借金まみれ。蔵を借りる余裕などない。


だが俺は慌てなかった。

物流で重要なのは保管場所。そんなことは最初から分かっている。


「なら寺だな」


「は?」


源兵衛が変な声を出した。


「寺を借りる」


「米を寺に置くのか?」


「広いだろ」


「広いが……」


「空いてる建物は他に?」


源兵衛は黙った。

ないらしい。


「交渉してくる」


「待て待て待て! 寺が貸してくれるわけねえだろ!」


「話してみなきゃ分からん」


俺はそう言って店を出た。


---


結果から言うと――貸してくれた。しかもあっさり。


「よいのですか?」

俺が確認すると、住職は穏やかに笑った。


「食べ物を保管するのでしょう」


「はい」


「なら仏も怒りません」


ありがたい話だった。

寺の倉庫を一つ借りることになり、源兵衛は未だに信じられない顔をしている。


「本当に借りてきやがった……」


「交渉だよ」


「簡単に言うな」


俺は肩をすくめた。

前世では取引先との交渉など日常茶飯事だった。むしろ寺の住職の方が話しやすい。


その日のうちに米俵の移動が始まった。


だが――問題は別にあった。


---


「若旦那」


庄吉が小声で話しかけてくる。


「市場がおかしいです」


「どうした」


「値段がまた上がりました」


俺は足を止めた。


昨日より一割。

今日だけでさらに一割。

わずか二日で二割近い上昇だ。


誰かが動いている。

俺以外にも。


「河合屋か?」


「分かりません。ただ、大口で買っている商人がいるそうです」


なるほど。

凶作の噂を信じた人間が出始めたらしい。


市場はまだ混乱していない。

だが確実に熱を帯び始めている。


「急げ。まだ買う」


「まだですか!?」

源兵衛が叫ぶ。


「もう十分だろ!」


「足りない」


「どれだけ買う気だ!」


俺は空を見上げた。

青空だった。雲も少ない。


だが天気が良いから豊作になるわけじゃない。

前世でもそうだった。


市場を動かすのは事実だけではない。


噂。

恐怖。

期待。

人の感情だ。


そして、一度恐怖が広がれば止まらない。


「親父」


「なんだ」


「これからもっと上がる」


「根拠は?」


「人間は焦るからだ」


源兵衛は意味が分からないという顔をした。

だが俺には見えている。


市場はまだ序章。

本番はこれからだ。


---


その時だった。


店の前に一頭の馬が止まった。

土煙を上げながら駆けてきたらしい。


乗っていた男が飛び降り、叫んだ。


「山本屋の主人はいるか!」


店内が静まり返る。


男の着物には見覚えがない。

商人でも農民でもない。

腰には刀――武士だ。


俺は目を細めた。

武士が米問屋に何の用だ。


次の瞬間、男の口から出た言葉で全員が凍りついた。


「代官様がお呼びだ」


山本屋に、初めて権力の影が差し込んだ。

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