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転生したら戦国時代の米問屋だった  作者: 水原伊織


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3/4

第三話 米を買え

翌朝。


俺は源兵衛と庄吉を連れて市場へ来ていた。


朝だというのに人が多い。


農民。


商人。


行商人。


荷運び人足。


様々な人間が行き交っている。


その中心にあるのが米市場だった。


「本当にやるのか?」


源兵衛が不安そうに言う。


「まだ間に合うぞ」


「間に合わなくなるから来たんだ」


俺は周囲を見回した。


米俵が並んでいる。


だが昨日より確実に数が少ない。


市場は正直だ。


噂が流れれば、人は動く。


そして人が動けば物も動く。


「値段は?」


俺が聞く。


庄吉が答えた。


「昨日より一割ほど高くなっています」


やはり。


始まっている。


まだ小さいが、市場は反応し始めていた。


「親父」


「なんだ」


「金は?」


源兵衛は苦い顔をした。


「店に残っていた銭を集めた」


小袋を差し出してくる。


軽い。


かなり軽い。


山本屋の苦しい懐事情が伝わってきた。


「これで全部か」


「ああ」


「借金してでも集めろ」


「おい!」


源兵衛が叫んだ。


「正気か!」


周囲の商人が振り返る。


だが俺は気にしない。


「凶作が本当なら米は上がる」


「もし嘘だったら?」


「その時は俺が土下座する」


「お前の土下座に何の価値がある!」


それは確かにそうだ。


俺は少し反省した。


だが判断は変わらない。


買うべきだ。


今しかない。


その時だった。


「おやおや」


後ろから声がした。


振り返る。


太った男だった。


豪華な着物。


金の指輪。


いかにも儲かっている商人だ。


記憶が名前を教えてくれる。


米問屋『河合屋』の主人。


河合宗兵衛。


山本屋の競争相手だ。


「源兵衛殿」


宗兵衛は笑った。


「潰れかけの店が市場へ何の用ですかな」


源兵衛の顔が歪む。


どうやら仲は悪いらしい。


「関係ねえだろ」


「いやいや」


宗兵衛は肩をすくめる。


「借金の返済が近いと聞きましてな」


嫌味だった。


しかも大勢の前で。


周囲の商人たちも苦笑している。


山本屋の経営難は有名らしい。


宗兵衛は俺へ視線を向けた。


「そちらは倅ですかな」


「ああ」


「なるほど」


宗兵衛は鼻で笑う。


「親子揃って米を買いに来たわけですか」


「そうだ」


俺は答えた。


「市場の米をできるだけ買う」


その瞬間。


宗兵衛が吹き出した。


周囲もざわつく。


「ははは!」


「それは面白い!」


「借金まみれの山本屋が買い占めですか!」


笑い声が広がった。


だが俺は平然としていた。


むしろ好都合だ。


誰も本気にしていない。


なら競争相手は少ない。


宗兵衛は笑いながら言った。


「若いですなあ」


「そうか?」


「凶作の噂など毎年あります」


「なるほど」


「それを信じて米を買い込むなど三流商人のすることです」


俺は少し考える。


そして聞いた。


「じゃあ河合屋は買わないのか?」


「当然ですな」


宗兵衛は胸を張った。


「私は無駄な博打は打ちません」


そうか。


買わないのか。


ならますますありがたい。


俺は源兵衛へ向き直った。


「聞いたな親父」


「何をだ」


「競争相手が減った」


源兵衛が頭を抱えた。


宗兵衛の笑顔が引きつる。


俺は構わず商人たちへ声を掛けた。


「米を売ってくれ」


市場の空気が変わる。


本気だと理解されたのだ。


「あるだけ買う」


静まり返る市場。


その中で。


最初に動いたのは、一人の農民だった。


「本当に買ってくれるのか?」


「ああ」


「全部か?」


「全部だ」


農民の顔が明るくなる。


そして次々と人が集まり始めた。


一俵。


二俵。


十俵。


二十俵。


山本屋の荷車が埋まっていく。


源兵衛が呆然と呟いた。


「おい……」


「なんだ」


「本当に買ってるぞ」


「当たり前だ」


俺は答える。


「商機なんだからな」


その頃には。


河合宗兵衛の顔から笑みは消えていた。


俺はそんなことには気付かないふりをして、次の米俵へ手を伸ばした。


まだ足りない。


もっとだ。


もっと米が必要だ。


凶作の噂は、まだ始まったばかりなのだから。


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