第四十八話 将軍家の依頼
翌朝。
俺は庄吉を連れ、急いで城へ向かった。
城門には、いつも以上に厳しい警備が敷かれている。
「山本屋の弥助殿ですね。」
門番は名前を確認すると、すぐに中へ案内してくれた。
広間へ入ると、浅井政景をはじめ重臣たちが並んでいる。
そして、その中央には見慣れない男が座っていた。
年の頃は五十ほど。
上質な直垂を身にまとい、落ち着いた眼差しをしている。
一目で分かる。
ただ者ではない。
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「弥助。」
政景が口を開く。
「紹介しよう。」
「将軍家より参られた奉行衆の、細川清之殿だ。」
俺は静かに頭を下げた。
「山本屋の弥助にございます。」
細川は穏やかに頷く。
「話は聞いております。」
「街道を整え。」
「兵糧を集め。」
「商人をまとめ上げた若者だとか。」
その評価に、広間の家臣たちも誇らしげな表情を浮かべていた。
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「実は。」
細川は一枚の地図を広げた。
京を中心とした広域の地図だ。
街道には赤い印がいくつも付いている。
「近頃。」
「戦が続き、街道が乱れております。」
「兵糧が届かぬ。」
「税も集まらぬ。」
「民も困っております。」
俺は静かに地図を見つめた。
まるで、以前の山本屋と同じだ。
問題は物不足ではない。
運べないこと。
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「山本屋。」
細川は俺を見た。
「そなたに頼みがある。」
広間が静まり返る。
「物流の仕組みを。」
「他の領にも広めてはもらえぬか。」
その一言は、予想を超えていた。
商売の依頼ではない。
仕組みそのものを広めてほしいという話だった。
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俺は少し考えてから口を開いた。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」
「申せ。」
「それは。」
「山本屋の利益になりますか。」
広間がざわつく。
家臣の一人などは眉をひそめた。
「将軍家の頼みだぞ。」
「無礼ではないか。」
だが。
細川は静かに笑った。
「良い質問だ。」
「商人らしい。」
そして真っすぐ俺を見る。
「利益になる。」
「いや。」
「利益にしてもらいたい。」
その答えに、俺も笑みを返した。
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「承ります。」
俺は頭を下げた。
「ですが。」
「条件があります。」
今度は政景まで驚いた顔になる。
「条件?」
「はい。」
「一つ目。」
「街道整備には、その土地の商人も参加させること。」
「二つ目。」
「無理に税を上げないこと。」
「三つ目。」
「働く人へ正当な賃金を支払うこと。」
広間は静まり返った。
細川はしばらく目を閉じ、ゆっくりと頷く。
「分かった。」
「約束しよう。」
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帰り道。
庄吉が何度も振り返っている。
「若旦那。」
「何だ。」
「将軍家ですよ。」
「そんな人と約束しちゃいましたよ。」
俺は苦笑した。
「約束したのは。」
「物流を良くすること。」
「いつもと同じだ。」
庄吉は頭をかいた。
「若旦那は。」
「相手が誰でも変わりませんね。」
「変える必要がないからね。」
相手が農民でも。
商人でも。
大名でも。
将軍家でも。
物流の基本は変わらない。
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山本屋へ戻ると、源兵衛が慌てて駆け寄ってきた。
「弥助!」
「大変だ!」
「どうした?」
「港から飛脚が来た!」
飛脚は息を切らしながら文を差し出す。
そこには、伊三郎の字で短く書かれていた。
**『南蛮船がもう一隻入港。今度は明との商人も乗っている』**
「明……。」
思わず声が漏れる。
南蛮だけではない。
海の向こうには、さらに大きな交易相手がいる。
国内。
南蛮。
そして明。
山本屋の物流は、戦国日本という枠を超え、さらに広い世界へつながろうとしていた。




