第四十七話 鉄は誰のために
「鉄、ですか。」
港の倉庫で、俺は通詞へ聞き返した。
「はい。」
通詞は静かに頷いた。
ディエゴも真剣な表情でこちらを見ている。
「刀ではありません。」
「釘。」
「鍬。」
「斧。」
「そういった鉄です。」
俺は少し安心した。
戦国時代だ。
鉄と聞けば、まず武器を思い浮かべる。
だが、求めているのは生活や船に使う鉄だった。
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「どれくらい必要なんです?」
通詞がディエゴへ尋ねる。
返ってきた答えに、思わず顔を見合わせた。
「多ければ、多いほど。」
庄吉が苦笑する。
「最近、その答えばかりですね。」
ディエゴも意味が分かったのか、大きな声で笑った。
緊張していた空気が少し和らぐ。
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俺は少し考えた。
「鉄そのものを集めるのは難しいでしょう。」
「ですが。」
「鍛冶屋なら知っています。」
通詞が訳すと、ディエゴは興味深そうに頷いた。
「紹介できます。」
「オネガイ。」
握手を交わす。
また一つ、新しい仕事が増えた。
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山本屋へ戻る途中。
庄吉が首をかしげる。
「若旦那。」
「鉄まで扱うんですか?」
「いや。」
「鉄を売るつもりはない。」
「え?」
「俺たちが売るのは。」
「信用だ。」
庄吉は足を止めた。
「信用?」
「欲しい人と。」
「売りたい人をつなぐ。」
「それだけでも商売になる。」
前世で言えば、仲介業。
在庫を抱えなくても利益を生む方法はいくらでもある。
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翌日。
弥助は町一番の鍛冶屋を訪ねた。
店の中では、赤く焼けた鉄を職人が打ち続けている。
カン。
カン。
カン。
心地よい音が響く。
「こんにちは。」
奥から大柄な男が現れた。
腕は丸太のように太い。
「山本屋さんか。」
「何の用だ。」
「相談があります。」
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事情を説明すると、鍛冶屋の主人・源蔵は腕を組んだ。
「南蛮人が。」
「農具を欲しがってる?」
「ええ。」
「できれば大量に。」
源蔵は少し考え込む。
「うち一軒じゃ無理だ。」
「ですが。」
「町中の鍛冶屋が集まれば話は別だ。」
俺は思わず笑った。
「その言葉を待っていました。」
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数日後。
町の鍛冶屋たちが山本屋へ集まる。
十人。
二十人。
皆、最初は警戒していた。
「何で山本屋が。」
「鍛冶屋を集める。」
そんな空気だった。
俺は正直に話した。
「利益は隠しません。」
「手数料だけいただきます。」
「残りは皆さんの利益です。」
静まり返る店内。
最初に口を開いたのは源蔵だった。
「面白い。」
「儲けを独り占めしないのか。」
「長く続けたいので。」
その一言で空気が変わった。
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話し合いは日暮れまで続いた。
農具は源蔵。
釘は別の鍛冶屋。
斧はさらに別の店。
それぞれ得意な品を作る。
山本屋は注文をまとめる。
運ぶ。
代金を回収する。
誰も損をしない形が出来上がっていく。
宗兵衛から教わった言葉が頭をよぎる。
「一人で抱えるな。」
まさに、その通りだった。
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その夜。
帳場で庄吉が帳簿を書いていた。
「若旦那。」
「何だ。」
「山本屋って。」
「何屋なんでしょうね。」
俺は思わず笑った。
少し前までは米問屋だった。
今では。
米も扱う。
運送もする。
人も紹介する。
情報も運ぶ。
商人同士をつなぐ。
鍛冶屋とも仕事をする。
「何屋だろうな。」
源兵衛も笑う。
「まあ。」
「儲かってるからいいじゃねえか。」
店中に笑い声が広がった。
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翌朝。
一羽の伝書鳩が山本屋の屋根へ舞い降りた。
「鳩?」
庄吉が驚く。
足には小さな竹筒が結ばれている。
中には一通の文。
俺は封を開いた。
差出人は浅井政景。
短く、こう書かれていた。
**『急ぎ城へ来られたし。将軍家の使者が来る』**
将軍家。
その四文字に、店の空気が一変した。
地方の米問屋だった山本屋が。
ついに、戦国の中央権力と接点を持とうとしていた。




