第三十四話 荷札が語る真実
「山賊ではありません。」
俺の言葉に、広間は静まり返った。
黒川義久がゆっくりと口を開く。
「理由を聞こう。」
俺は奪われた荷車の記録を見せてもらった。
荷札。
積荷の帳面。
出発時刻。
届け先。
一枚ずつ確認していく。
「弥助殿。」
案内役の侍が不思議そうに尋ねる。
「何か分かるのですか。」
「まだ断言はできません。」
「ですが、一つだけ気になることがあります。」
俺は荷札を一枚取り上げた。
「この荷車だけです。」
「……何が。」
「襲われた三台は、すべて同じ印の荷札でした。」
家臣たちが顔を見合わせる。
「印?」
「はい。」
俺は荷札の端を指差した。
墨で小さく書かれた丸印。
「蔵ごとに印を変えているのでしょう?」
蔵番が頷く。
「そのとおりです。」
「間違えないようにしております。」
「つまり。」
俺は荷札を机へ並べた。
「犯人は、この印の意味を知っています。」
部屋の空気が変わった。
義久の目が鋭くなる。
「蔵の者か。」
「その可能性があります。」
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その日の午後。
俺は兵糧蔵を見せてもらうことになった。
広い蔵には米俵が整然と積まれている。
「弥助殿。」
蔵番が胸を張る。
「先日、あなたの帳簿を参考に整理しました。」
「ありがとうございます。」
確かに以前より分かりやすい。
だが。
俺は床へ目を向けた。
「……。」
土の上に、小さな跡が残っている。
車輪の跡ではない。
草鞋の跡でもない。
「これは。」
しゃがみ込む。
足跡は蔵の奥へ続いていた。
そして。
壁際で消えている。
「壁?」
軽く叩く。
コン。
一か所だけ音が違う。
「失礼します。」
板を押してみる。
ギィ……。
ゆっくりと板壁が開いた。
「隠し戸……!」
蔵番が青ざめる。
その先には、人ひとりが通れる細い通路が続いていた。
「こんなものが……。」
義久も驚きを隠せない。
「知らなかったのか。」
「先代の頃から閉じられていたはずです。」
俺は通路を見回す。
土は踏み固められている。
最近も使われている。
間違いない。
ここから情報が漏れていた。
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その夜。
蔵番たちは全員集められた。
義久が静かに問いかける。
「誰だ。」
誰も答えない。
沈黙だけが流れる。
その時だった。
「殿!」
兵が飛び込んできた。
「隠し通路の先で、人影を見ました!」
「追え!」
兵たちが一斉に駆け出す。
俺も思わず後を追う。
細い通路を抜けると、裏山へ出た。
木々の間を黒い影が走っていく。
「止まれ!」
兵の声が響く。
だが、黒い影は迷いなく山の中へ消えていった。
「逃げられたか……。」
兵たちが悔しそうに拳を握る。
俺は地面へ目を落とした。
そこには、小さな布切れが落ちていた。
拾い上げる。
黒い布。
端には金糸で、見覚えのない紋が縫い込まれている。
「これは……。」
義久も布を見る。
「見たことがない。」
俺は布を懐へしまった。
「ですが。」
「必ず分かります。」
「情報は足跡を残します。」
「人も同じです。」
物流には必ず記録が残る。
荷物が動けば、誰かが運ぶ。
人が動けば、痕跡が残る。
それを追うのが、俺の仕事だった。
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翌朝。
山本屋へ戻る準備をしていると、一羽の伝書鳩が城へ飛び込んできた。
文を読んだ義久の表情が変わる。
「どうされました。」
俺が尋ねる。
義久は静かに文を差し出した。
そこには短く書かれていた。
**『南の街道にて、大黒屋の大規模な荷隊を確認』**
兵糧を積んだ荷車は、およそ五十台。
その行き先は――。
浅井領だった。
「……始まるな。」
俺は地図を見つめ、小さく呟いた。
敵は蔵ではなく、市場を狙って動き始めていた。




