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転生したら戦国時代の米問屋だった  作者: 水原伊織


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第二十五話 兵は米を食う

「西の国境にて、大軍が動いております!」


急使の報告を受け、俺はすぐに城へ向かった。


広間には、すでに重臣たちが集まっている。


城主・浅井政景の前には、大きな地図が広げられていた。


「弥助、来たか。」


「はい。」


政景は地図の西側を指差す。


「隣国・黒川家が兵を集めておる。」


家老が続ける。


「まだ国境は越えておりません。」


「しかし、いつ動いてもおかしくない状況です。」


重臣の一人が口を開く。


「こちらも兵を集めるべきでしょう。」


「うむ。」


政景は頷く。


「だが、兵を集めれば兵糧も要る。」


その言葉で、広間の視線が一斉に俺へ向いた。


「弥助。」


「兵糧方見習いとして申してみよ。」


俺は地図へ近付いた。


城。


砦。


街道。


川。


一つひとつを目で追っていく。


そして、静かに口を開いた。


「兵は、何人集める予定ですか。」


「二千。」


家老が答える。


「……二千。」


俺は思わず眉をひそめた。


「何か問題か。」


「あります。」


俺はきっぱりと言った。


「二千人を城へ集めると、城の兵糧が先に尽きます。」


広間がざわつく。


「何を言う。」


「城には備蓄がある。」


重臣が反論する。


俺は首を振った。


「備蓄はあります。」


「ですが、食べる量も増えます。」


俺は床に置かれた算木を手に取り、並べ始めた。


「兵一人が一日に食べる米。」


「二千人。」


「十日。」


数字を積み上げていく。


「これだけで、かなりの兵糧が必要になります。」


誰も口を挟まない。


「もし戦が長引けば。」


「兵糧は戦う前になくなります。」


政景が腕を組む。


「では、どうする。」


俺は地図の上を指でなぞった。


「城へ集めないでください。」


「……何?」


「兵は各村に分けて駐留させます。」


重臣たちが顔を見合わせる。


「村だと?」


「はい。」


「兵糧も村へ分散して置く。」


「必要になった時だけ集める。」


「そうすれば城の負担は減ります。」


九兵衛が静かに笑った。


「なるほど。」


「兵まで分散物流ですか。」


「兵も荷物も同じです。」


俺は頷く。


「一か所へ集めれば、動かすのも食べさせるのも大変になる。」


「だったら最初から分けておけばいい。」


政景はしばらく考え込んだ。


やがて、大きく頷く。


「面白い。」


「兵を一度に集める必要はない、か。」


「戦が始まってからでは遅いんです。」


俺は静かに答えた。


「始まる前に、動ける仕組みを作る。」


「それが兵糧方の仕事です。」


---


会議が終わると、九兵衛が隣へやって来た。


「弥助殿。」


「何でしょう。」


「兵を荷物と同じように考える方は、初めて見ました。」


俺は苦笑する。


「怒られそうですけどね。」


「いえ。」


九兵衛は首を横に振った。


「兵は食べなければ戦えない。」


「つまり兵糧がなければ兵も動けない。」


「考え方としては正しい。」


二人で歩いていると、廊下の向こうから一人の武士が駆けてきた。


「殿!」


「申し上げます!」


政景が足を止める。


「申せ。」


「黒川家ですが……!」


武士は息を切らしながら叫んだ。


「兵を動かした様子はありません!」


「しかし!」


「領内の米を、大量に買い集め始めました!」


その場の空気が凍り付く。


家老が顔色を変える。


「まさか……。」


俺はゆっくり目を閉じた。


そういうことか。


兵が動く前に。


兵糧を押さえる。


これは戦の準備だ。


そして、その裏には。


「あの商人たちか……。」


大黒屋。


そして、その背後にいる者たち。


敵は刀を抜く前に、米を奪いに来た。


俺は静かに拳を握る。


「だったら。」


「こっちも先に動く。」


戦は、もう始まっているのだから。


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