第二十二話 川を使え
「川を使います。」
俺の一言に、広間が静まり返った。
「川だと?」
家老が眉をひそめる。
「そんな浅い川で荷が運べるのか。」
俺は地図を広げた。
「この川は、春先の雪解け水で水量が増えています。」
「今なら小舟は通れます。」
政景が地図を覗き込む。
「確かに……。」
「村の近くまで続いておるな。」
俺は頷いた。
「荷車は一本道しか通れません。」
「だから待ち伏せされます。」
「ですが川は違います。」
「待ち伏せしようにも、どこへ船が着くか分からない。」
九兵衛が腕を組んだ。
「面白い。」
「街道を捨てる発想ですか。」
「街道が危険なら、使わなければいいだけです。」
重臣たちは顔を見合わせる。
今まで誰も考えなかった方法なのだろう。
「よし。」
政景が立ち上がる。
「試してみよ。」
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翌朝。
山本屋の前には、米俵が積み上げられていた。
「若旦那。」
庄吉が心配そうに尋ねる。
「本当に船で運ぶんですか。」
「ああ。」
「荷車より揺れるぞ。」
「だから積み方を変える。」
俺は俵を指差した。
「三段積みはやめる。」
「二段にする。」
「縄も二重に縛る。」
「荷の中心を低くするんだ。」
庄吉は何度も頷きながら縄を締め直していく。
源兵衛は腕を組んだ。
「なるほどな。」
「倒れなきゃ、それでいいのか。」
「違う。」
俺は首を振る。
「倒れないだけじゃ足りない。」
「船が揺れても、荷が動かないようにする。」
物流では荷崩れも立派な損失だ。
前世では当たり前のことだった。
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昼前。
十俵の米を積んだ小舟が岸を離れた。
船頭が長い竿で静かに船を押し出す。
「行くぞ!」
ゆっくりと船が流れ始めた。
庄吉は目を丸くしている。
「本当に進んでる……。」
「当たり前だ。」
俺は苦笑した。
「川は荷物を運ぶためにある。」
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一方、その頃。
北街道。
茂みに潜んでいた野盗たちは苛立っていた。
「来ねえぞ。」
「昼には通るって話だったろ。」
頭目が舌打ちする。
「おかしい……。」
何時間待っても荷車は来ない。
「親分!」
見張りが駆け戻る。
「どうした!」
「米は……。」
息を切らしながら叫ぶ。
「もう村へ着いてました!」
「何?」
頭目が立ち上がる。
「どうやって!」
「川です!」
「船で運ばれました!」
野盗たちは呆然と顔を見合わせた。
街道を封鎖しても意味がない。
荷は別の道を通っていたのだ。
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夕方。
村へ到着した俺たちは、村人たちの歓声に迎えられた。
「米だ!」
「兵糧が来たぞ!」
子どもたちが駆け寄ってくる。
年老いた村長が深々と頭を下げた。
「助かりました……。」
「もう三日も粥しか食べておりませんでした。」
俺は米俵を見つめる。
武器ではない。
だが、この俵一つで人は生きられる。
改めて、この仕事の重みを感じた。
その時だった。
一人の若い漁師が声を掛けてきた。
「若旦那。」
「何だ?」
「実は、この川。」
漁師は少し声を潜めた。
「もっと上流まで船で行けます。」
「本当か?」
「ええ。」
「昔は木材を運んでましたから。」
俺は思わず地図を広げた。
上流には、さらに二つの村がある。
もし船で行けるなら。
兵糧を届けられる村は一つではない。
物流の道が、また一本増える。
俺は思わず笑みを浮かべた。
「街道だけが道じゃない。」
「まだ、この領には誰も気付いていない道がある。」
兵糧を届ける道は、自分で作ればいい。
その発想こそが、弥助最大の武器だった。




