表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら戦国時代の米問屋だった  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/29

第十七話 商人の勝負

「すべて私どもの荷です。」


九兵衛の言葉に、その場の空気が変わった。


二十台を超える荷車。


積まれた米俵の数は、おそらく千石近い。


源兵衛が思わず呟く。


「……こんな量、見たことがねえ。」


俺も同感だった。


前世の感覚なら大型トラック数十台分。


この時代で、一つの商家が動かせる規模ではない。


「さすが越後屋。」


城主・浅井政景が感心したように頷く。


「見事な商隊だ。」


「恐れ入ります。」


九兵衛は静かに頭を下げた。


その所作に無駄がない。


成功した商人特有の余裕があった。


---


「ところで。」


九兵衛が俺を見た。


「弥助殿。」


「はい。」


「少し、お知恵を借りてもよろしいですかな。」


俺は首を傾げる。


「知恵ですか。」


「ええ。」


九兵衛は一台の荷車へ歩いていく。


「この荷車。」


「あと俵を五つ積めると思われますか。」


武士たちは顔を見合わせた。


源兵衛も困った顔をする。


「見ただけじゃ分からねえ……」


だが。


俺は荷車を一周した。


車輪。


車軸。


馬。


縄の張り。


そして荷の積み方。


一通り見終えると答えた。


「積めます。」


九兵衛が微笑む。


「やはり。」


「ですが。」


俺は続けた。


「積まない方がいい。」


「理由は。」


「車軸が保ちません。」


九兵衛の眉がわずかに動いた。


「今は問題なくても。」


「帰り道で折れます。」


「特に山道なら。」


沈黙。


そして。


「見事。」


九兵衛は深々と頭を下げた。


「そこまで見抜かれるとは。」


武士たちから感嘆の声が漏れる。


源兵衛は誇らしそうに笑っていた。


---


「では。」


今度は俺が尋ねる。


「一つ聞いてもいいですか。」


「もちろん。」


「橋が落ちたと聞いても、この量を運んできた理由は。」


九兵衛は少しだけ空を見上げた。


「商機だからです。」


即答だった。


「橋が落ちれば、多くの商人は動きを止めます。」


「ですが。」


「止まった時こそ利益は生まれる。」


俺は思わず笑った。


考え方が似ている。


危機の時ほど動く。


それは俺も同じだった。


「ですが。」


九兵衛が続ける。


「利益だけではありません。」


「?」


「米を届けなければ、人が死にます。」


その言葉に、俺は少し驚いた。


もっと冷徹な人物だと思っていた。


「商人は儲けるだけではない。」


「物を届ける者です。」


九兵衛は静かに言う。


「物が止まれば、人も止まる。」


俺は自然と頷いていた。


敵だと思っていた。


だが違う。


この男もまた、自分なりの信念を持っている。


---


その時だった。


「申し上げます!」


関所へ一人の足軽が駆け込んできた。


「何事だ。」


城主が声を上げる。


「北の山道にて!」


「越後屋の荷車が襲われました!」


九兵衛の表情が初めて変わった。


「被害は。」


「護衛が応戦しております!」


「ですが荷車二台が取り残されました!」


周囲が慌ただしくなる。


武士たちはすぐに出陣の準備を始めた。


俺は静かに地図を見つめる。


北の山道。


二台だけ。


……おかしい。


「弥助?」


源兵衛が振り返る。


俺はゆっくり顔を上げた。


「これは襲撃じゃない。」


「え?」


「誘いだ。」


九兵衛も俺を見た。


「同じ考えですか。」


俺は頷く。


敵の狙いは米ではない。


荷車二台を囮にして、護衛を引き離す。


本命は別にある。


「代官様!」


俺は大きな声で叫んだ。


「兵を二つに分けてください!」


「本隊は動かさないで!」


「本命は、まだ動いていません!」


その言葉に、政景の目が鋭く光った。


戦うのは武士。


だが、戦場を読むのは兵法だけではない。


物流を知る者にも、見える戦いがあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ