第十五話 荷を狙う者
「橋が落とされました!」
見張りの武士の報告に、広間の空気が凍り付いた。
「南街道の木橋です!」
「何者の仕業だ!」
重臣の一人が怒鳴る。
「分かりません! 見張りが駆け付けた時には、すでに……」
城主・浅井政景は静かに立ち上がった。
「弥助。」
「はい。」
「見に行くぞ。」
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南街道。
町から一刻ほど離れた谷間。
橋は見事に崩れ落ちていた。
太い梁が真っ二つに割れ、川へ沈んでいる。
源兵衛が青ざめた。
「これじゃ荷車は渡れねえ……」
武士たちは周囲を警戒している。
俺は橋のたもとへしゃがみ込んだ。
折れた木材を手に取る。
「……」
妙だ。
木は腐っていない。
縄も切れた跡ではない。
俺は梁の断面を見つめた。
「刀傷……?」
何本もの鋭い傷が残っている。
自然に壊れた橋ではない。
「故意ですね。」
政景が頷く。
「やはりそうか。」
俺は周囲へ目を向けた。
草が倒れている。
荷車の轍。
馬の足跡。
そして──。
「これは……」
土の上に、小さな米粒が落ちていた。
俺は一粒摘み上げる。
「どうした。」
「荷車が通っています。」
「当たり前ではないか。」
俺は首を振る。
「違います。」
「橋が壊れる前です。」
武士たちが顔を見合わせた。
「つまり。」
「橋を壊した者は、荷車が来る時間を知っていた。」
その一言で空気が変わった。
源兵衛が息を呑む。
「待ち伏せ……?」
「いや。」
俺は静かに否定した。
「もっと悪い。」
「荷車の予定を知っていた。」
政景の目が細くなる。
「内通者か。」
「可能性があります。」
野盗が偶然橋を壊したとは思えない。
荷車の時間。
積み荷。
街道。
すべて知った上で動いている。
つまり。
こちらの情報が漏れている。
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城へ戻る途中。
庄吉が小声で尋ねた。
「若旦那。」
「何だ。」
「誰がそんなことを……」
俺はすぐには答えなかった。
まだ証拠がない。
だが一つだけ分かることがある。
「敵は賢い。」
「え?」
「米じゃない。」
「流れを止めにきている。」
荷車を壊す。
橋を落とす。
街道を塞ぐ。
どれも兵糧そのものではなく、物流を狙っている。
つまり。
こちらと同じ発想を持つ相手だ。
前世なら。
物流会社同士の競争。
サプライチェーンへの妨害。
そんな話も珍しくなかった。
戦国時代でも、本質は変わらない。
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城へ戻ると、一人の武士が待っていた。
「殿。」
「何だ。」
「これを。」
差し出されたのは、小さな木札だった。
橋の近くで拾ったらしい。
俺は受け取る。
表には何もない。
だが裏返した瞬間。
思わず目を細めた。
焼印がある。
米俵を模した印。
その中央に、小さな丸が三つ。
見覚えがない。
「知っているか。」
政景が尋ねる。
俺は首を振った。
「山本屋の印ではありません。」
「領内の商人でもないと思います。」
源兵衛も木札を見つめる。
「こんな荷印、見たことがねえ……」
政景は静かに木札を握った。
「つまり。」
「領外の者か。」
「おそらく。」
その時だった。
廊下の向こうから足音が響く。
「申し上げます!」
若い武士が飛び込んでくる。
「北の関所に、一隊の商人が到着しております!」
「どこの商人だ。」
「それが……」
武士は困惑したように答えた。
「荷は米ばかりなのですが、誰もその商人の名を知りません。」
俺は木札を見つめたまま、小さく息を吐いた。
来たか。
敵は野盗ではない。
もっと厄介な相手だ。
俺たちと同じように、米で戦う商人が、この領へ足を踏み入れようとしていた。




