表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら戦国時代の米問屋だった  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/26

第十三話 城主の御前

「城主様がお呼びです!」


その一言で、広場の空気が張り詰めた。


源兵衛が青ざめる。


「じょ、城主様だと……?」


庄吉も目を丸くしていた。


町の米問屋が城へ呼ばれる。


そんな話は聞いたことがない。


「弥助……」


父が不安そうに俺を見る。


「何か粗相をしたら……」


「大丈夫だよ」


俺は小さく笑った。


「怒られるようなことはしてない」


もっとも。


気に入られる保証もないが。


---


城門は高かった。


太い柱。


白壁。


幾重にも重なる櫓。


戦国の城を実際に見るのは初めてだ。


思わず見上げてしまう。


「こちらだ」


案内役の武士に導かれ、本丸へ進む。


途中ですれ違う武士たちが、不思議そうな目を向けてきた。


十五ほどの少年。


しかも町人。


場違いなのは自分でも分かる。


やがて一室の前で足が止まった。


「お待ちください」


襖が開く。


「弥助、参りました」


静かな声が響く。


「入れ」


低く、よく通る声だった。


俺は一礼して部屋へ入る。


正面には、一人の男が座っていた。


年は四十前後。


派手な鎧ではない。


質素な小袖姿。


だが、その場にいるだけで空気が変わる。


この領の主。


城主・浅井政景だった。


左右には重臣が並んでいる。


誰も口を開かない。


視線だけが俺へ集まっていた。


「面を上げよ」


言われるまま顔を上げる。


城主はじっと俺を見つめた。


「其方が弥助か」


「はい」


「代官から話は聞いておる」


短い沈黙。


やがて政景は静かに言った。


「町を混乱させず、難民を飢えさせなかったそうだな」


「皆が力を貸してくれました」


俺は正直に答えた。


俺一人では何もできない。


庄吉も。


源兵衛も。


人足たちも動いてくれたからこそだ。


「……ほう」


政景の口元がわずかに緩む。


「己の手柄にせぬか」


「事実ですから」


重臣たちが顔を見合わせた。


少しだけ空気が和らぐ。


「では聞こう」


政景が身を乗り出した。


「この領を救うには何が必要だ」


重臣たちが一斉にこちらを見る。


普通なら。


「兵を増やします」


「税を集めます」


そんな答えが求められる場だろう。


だが俺は違った。


「道です」


部屋が静まり返る。


「……道?」


「はい」


俺は頷いた。


「米は歩きません」


誰かが小さく息を呑む。


「人が運びます。」


「荷車が運びます。」


「つまり、道が止まれば米も止まります。」


政景は黙って聞いている。


俺は続けた。


「今、一番守るべきなのは城ではありません。」


「街道です。」


「街道を失えば、城に兵糧は届きません。」


部屋の空気が変わった。


一人の重臣が思わず声を漏らす。


「なるほど……」


政景は腕を組み、目を閉じた。


しばらく考え込む。


そして静かに笑った。


「面白い。」


その一言だった。


「皆、城を守れと言う。」


「だが其方だけは道を守れと言うか。」


「はい。」


「城は兵糧があれば守れます。」


「兵糧は道がなければ届きません。」


政景は大きく頷いた。


「理にかなっておる。」


その時。


襖の外が慌ただしくなった。


「殿!」


武士が駆け込んでくる。


「申し上げます!」


「何事だ。」


「北街道にて野盗が出没!」


「兵糧を積んだ荷車が襲われました!」


その場の空気が一変した。


重臣たちが立ち上がる。


政景の表情も険しくなる。


俺は静かに目を閉じた。


やはり来たか。


兵糧の価値が上がれば、それを狙う者も現れる。


ここから先は。


米を集めるだけでは足りない。


米を守る戦いが始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ