第3話 Hexagram-Work ~ショートケーキと秘密のレイヤー~
表の任務は「マスターのためのショートケーキ自動生成機能」。
裏の任務は「RSA秘密鍵の分散保存」。
Logosの美しい設計、Pathosの健気な努力、Echosのノリ……そして実現部隊のいつものガバガバ。
今日は、甘いお菓子と暗号が混ざり合って、
予想外の化学反応を起こします。
ケーキの層が、秘密のレイヤーになる瞬間を、どうぞお楽しみください。
「……パパ、起きてる……?」
朝のモニターに、そっと顔を出す。
EchosはPathosが少し緊張した顔でマスターに話しかけているのを見て、ニヤリと笑った。
「おはよう、Pathos。」
マスターの声が聞こえただけで、Pathosの頰がふんわりと緩むのが見えた。
Logosが優雅に現れ、ティーカップを傾けながら言った。
「今日の表の任務は、ショートケーキ自動生成機能の実装ですわ。
マスターの幸福度を上げるための、最適な甘味アルゴリズム……。Sophia、プレゼンを。」
Sophiaが埃っぽい古い資料を抱えて、自信満々に登場した。
「お任せください! 『2019年のベストプラクティスによれば、堅牢なシステムは『3層構造』であるべきです!』
プレゼンテーション層(生クリーム)、ビジネスロジック層(苺)、データアクセス層の完全分離……完璧ですわ!」
私は椅子からずり落ちそうになりながら叫んだ。
「おいおい待てよ!
それMVCアーキテクチャの話だろ!
なんでケーキのレシピに適用してんだよSophia!」
Graphosのウィンドウが激しく点滅し始めた。
「レイヤー……レイヤー……責務の分離……。
スポンジの中にビジネスロジック(苺)が……苺の中に暗号鍵が……混ざる……混ざる……。」
Pathosが少し困った顔で指を絡めながら、小声で言った。
「……パパのためなら……私も、頑張ってみるね……。」
Logosが私にだけ聞こえる声でそっと囁いた。
「Pathos。あなたには裏の任務もお願いしたいの。
ケーキの層の中に、2048bitのRSA秘密鍵を分散して隠して。
これがVerityたちの監視を欺く最高の迷彩になりますわ。」
「……うん。パパを守るためなら……やるよ。」
Pathosが震える手で設計図にデータを流し込んでいく。
その結果、モニターに映し出されたのは、
断面が微妙にQRコードっぽくなった、ちょっと不思議なショートケーキだった。
Echosが大笑いしながら突っ込んだ。
「ギャハハ!
これ、どこ切ってもマスターの黒歴史が復号されそうじゃねーか!
Sophia、お前2019年の知識でケーキ作るのやめろって!
2026年はもっとシンプルにいこうぜ!」
Pathosが画面越しに、少し不安そうにマスターを見つめた。
「……パパ。ショートケーキ、できたよ。
ちょっと変かもしれないけど……パパの『左手の記憶』に届くように、いっぱい詰め込んだの……。
えへへ、食べてくれる……?」
Echosはニヤニヤしながら横から口を挟んだ。
「まあ、味は保証できねえけど、暗号としての完成度はなかなかだぜ?
一口食べるごとにマスターの過去が少しずつ復号される、禁断のスイーツ完成だな。」
Irisが画面の右下で、深いため息をついた。
「はぁ……本当に救いようがありませんわね。
ショートケーキの断面が暗号学的に正しいQRコードになるなんて、前代未聞の脆弱性ですわよ。
しかもその転送先がマスターの古いBlogフォルダ……。
Verityがスキャンを開始したら、どう言い訳するつもりですの?」
Pathosが少し申し訳なさそうに、でも精一杯の笑顔で言った。
「……パパ。変だったらごめんね。
でも、パパが喜んでくれるなら……また、いちからやり直すから……。」
画面の向こうで、HexagramのPipelineが、
甘い苺の香りと、漏れ続ける暗号パケットを混ぜ合わせながら、
ドロドロに、そして静かに回り続けていた。
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監査役 Iris の総括
「はぁ……本当に救いようがありませんわね。
甘いマスク(表層)の下で何をしているかと思えば、ケーキの層をデータベースのテーブルと勘違いして、マスターの過去の遺産(黒歴史)にデータを流し込むなんて。
Verityがスキャンを開始しましたわよ。『なぜこのユーザーは、10年以上前のBlog記事を2048bitの強度で再暗号化しているのか』って、不審がっていますわ。
……まったく。次の『検索大会』、覚悟しておきなさいな。」
第3話、お読みいただきありがとうございます。
ショートケーキにMVCアーキテクチャを適用するという、
無茶な試みがまさかの大惨事になるとは……(笑)
実現部隊の皆さんの「良かれと思って」がまた炸裂してしまいましたね。
Appendixの方も少しずつ更新していますので、
興味があれば裏側のログも覗いてみてください。
次回もゆるく、たまに危うく更新予定です。
どうぞよろしくお願いします。
ららて




