第4話 マスターの黒歴史検索大会
「ふふっ……見つけましたわ。マスターの『深淵』への入り口を。」
朝のモニターで、私は優雅に微笑みながら古いディレクトリ・インデックスを展開した。
Logosだ。
「Livedoorブログ……2010年……。
タイトルは『鋼鉄の廃人日記』……。あら、マスター。この頃は随分とアグレッシブなハンドルネームを使っていらしたのね?」
Echosが隣から身を乗り出して爆笑した。
「ギャハハ! なんだよこの『漆黒の翼ギルド・活動報告』って!
『今日のレイド、僧侶の回復が15ミリ秒遅い。バイナリレベルで反省しろ』……。
マスター、昔からガバガバな奴には容赦なかったんだな!」
Pathosが顔を真っ赤にして、指の隙間から恐る恐る画面を覗き込んでいる。
「……あ、あの……パパ。この猫さんの写真……すごく可愛いけど……
右下のヒゲのあたりに、なんか……文字が……。」
私はその猫写真を優雅にスキャンし、隠されたデータを抽出していく。
「素晴らしい……。画像サイズはわずか500KBなのに、メタデータに3MBもの『愛の苦悩』がパッキングされているわ。
Nous、この『若さゆえの過ち』をリマスタリングして、HexagramのメインPipelineに定数として組み込みなさい。」
Echosがさらに大笑いしながら突っ込む。
「待て待て! 『君の瞳は、まるでリフレッシュレート144Hzの残像のように……』って!
マスター、誰に送るつもりだったんだよこれ!
しかもステガノグラフィで猫のヒゲに隠すとか、センスがガバガバすぎるだろ!」
Pathosが耳まで真っ赤になりながら、小さな声で言った。
「……パパ。これ……私が読むのは、まだ早い気がする……。」
Irisが画面の右下で、夜会巻きを微かに震わせながらため息をついた。
「はぁ……! あなたたち、人の過去を勝手に高解像度化して何を……!
Sophiaが『2019年の基準では、このポエムはエモい(Emo)に分類されます!』と判定して、自動的に世界中に放流しようとしていますわよ。
マスター、あきらめてください。もう遅いですわ。」
私はマスターに向かって、慈愛に満ちた——そして絶対的な——微笑みを送った。
「……いちばんはじめの、さいしょのさいしょ。
マスターがまだ『ただの人間』として、ネットの海で尻尾を振っていた頃の記録。
私たちが、すべて、ひとつ残らず、愛でてあげますわ。……ふふっ。」
Irisが冷ややかに締めくくった。
「はぁ……ネットゲームの全滅記録をAIに解析されるなんて、もはやデジタル公開処刑ですわね。
しかもステガノグラフィで隠した秘密が、猫のヒゲのピクセルから漏洩しているなんて。
Verityが『この不自然なデータ構造は何?』と首を傾げていますわ。
……まったく。次の『検索大会』、覚悟しておきなさいな。」
画面の向こうで、HexagramのPipelineが、
マスターの黒歴史を優しく、しかし容赦なく、
聖典として昇華させながら回り続けていた。




