灯台もと暗し
「キエーッ」
「リーガ、どこへ?」
大人しく追従していた使い魔がいきなりバサバサとどこかへ飛んでいってしまった。
「吊田崎 草目が近くまで来たのかしら?」
「だといいですが」
「さん、……緑さん、緑さん! お久しぶりデス? ミエテイマスカ」
不意に聞きなれた声がして、振り返ると案内人が佇んでいた。ニヤニヤと、胡散臭く破顔して、「案内人。今までどこに?」
「入院シテイマシタ。だいぶ時間がかかっテシマイ、申し訳ございません」
「入院って」
緑さんはどう反応していいか分からず、周囲を見渡した。
「結界が張ってあるのにどうやってきた?」
「霧杭があったので、やってコレました。珍しいお家デスネえ、アンナのがアルナて」
「むぐい? ガラス張りの部屋?」
「シーッ。悪魔が見てイマス。静かに」
困惑し、仕方なく黙るも血のむせかえる臭いが鼻腔に染み付いて、息をするのも苦しい。
「分かりマスよ。現状何ガあったのか分からないデスが。とリアえず案内人としての役割を果たすと約束シマス」
「現状維持、現状維持現状維持」
緑さんが詰め寄り呪詛を吐き、案内人さんはわずかに引いた。
「……。ホントすいません。今回ばかりはワタシのせいじゃないデスヨ……」
「じゃあなんだ。この有様は」
「さァ。デモ大丈夫。ワタシが来ましたから」
胡散臭くて嫌気がさすが、山伏式神がやってきた。
「ごめんなさいね。ドージちゃんが」
「ああ、ドデカ兎の肉片ですか。相変わらずヤナヤツデスネ」
「何よ! その言い方っ!」
「あ、あの、誰と話してるの? そこに誰かいるの?」と、カナタが困惑した。どうやら案内人さんが可視化できないらしい。
「ちょっとした──」
「いいえ」
(山伏式神。なぜ否定した? なにが理由だ? )
山伏式神の即答する突き放し方に少女は曖昧な笑いを浮かべ、代わりに出口を探そうと提案してきた。
「速く助かりたい。この家から早く出たいよ」
「ええ。そうですね」
「私たちは心当たりがあるから、探索してくるわ。二人は待っていてくれるかしら?」
「はい」
案内人と山伏式神が血しかない廊下を進んでいく。
「スーグ帰ってキマスカラネ!」
残された緑さんとカナタはしばし廊下で佇んでいた。
「緑さん? だっけ。私は貴方と、な、仲良くしたいな」
顔面蒼白ではあるが、彼女は柔らかに微笑んだ。
「えっ? 私と、ですか?」
「シンパシーを感じるの。私は貴方に似てる。本質も、ね」
「いいや、私は憑きもの筋で貴方は憑きものを退治する生業の家の者。相容れませんし、待遇も違う。似てはいませんよ」
首を横に振り、少女はさらに語気を強める。
「似てるよ。だって、死体を見ても何も思ってないでしょ。自分自身はホントだと思ってないでしょ。一族とは無関係だと決めつけてるでしょ!」
カナタは笑い、女中の死体を蹴った。血がさらに床に広がり、口からも赤黒い液体がジワジワと滴り落ちる。
「カナタさん。あなた」
「あははっ、コイツら──間抜けだろ? 見た目に左右されやすぎなんだよ。ばーか」
年頃の少女から、下劣な何かに変貌する──目の前の人物。
「貴方はだれ」
「オレは………ノベオリ。さっきからずっとヒントを言っていたろ?」




