第75話「ライブは続き、ロックは鳴り止まない」
自分たちの最高なライブをやり、次のバンドへと繋ぐ。どのバンドも、最高の演奏で観客を沸かせるだろう。
ーージャカジャカ! ジャラランー!
二曲目の演奏するサウンドが、アンプから爆音で鳴り響く。
ライブが始まってまだ時間的には十数分。短いようで長い時間が続いている。
それでも俺たちのライブに観客が歓声を出しているのは本当だ。
「まだまだいくぜぇぇぇ!」
俺は歌う間に、そう観客に向かって叫んだ。
ーーワアァァァァ!
俺の声に返すような歓声が聞こえてきた。
ギターの弾く手ははずみ、音に合わせて喉が枯れるくらい歌う。
俺たち、ロッケンローラースターズのライブは走り続けてゆく。
有名なバンドのようなライブとまでいかない。しかし、アマチュアバンドだからこそ出せるライブ感はあるのだ。
俺は今日のライブで、それを実感する。間違いなく、観客に届けられていると。
ーーやっぱり、ライブは楽しいな。
こうやってステージに上がって、人前で演奏する。それが、どれだけ幸せな時間だろうか。
まったく俺たちのバンドを知らない人がいるのに、こうやって盛り上がってくれている。
最強のバンドを目指す俺にとって、今日はかけがえのないイベントだ。
曲もBメロまで進み、折り返し地点。
アップテンポの曲調が、より速く進んでいった。
俺は自分のパートをこなしながら、みんなが出す音に耳を傾けて振り返る。
小野寺が叩く正確でパワフルなドラム。
太鼓のリズムゲームしかやってなかったのに、気がつけばきちんとドラムを叩けるようになっている。
難しいリズムパターンも、乱れることなく叩けていた。ドラム初心者だったやつが、ここまで成長しているとは。
ーードンッ! ドドッ! カッカァァァン!
小野寺は額に汗をかきながら、懸命にドラムを叩いている。時折見せる顔には、笑みがあった。
全力でドラムを楽しんでいるやつの顔だ。
誰がなにを言おうが、小野寺は俺のバンドに必要なドラマー。
ーーおまえは、最強のドラマーだよ。
小野寺のドラムに、俺が弾くギターを重ねた音を聴きながらそう想った。
「ふっ! やはり、俺様のベースにオーディエンスが応えているみてぇだなあ!」
成瀬がやたらテンション高くベースを弾いている。カッコつけて自分をアピールしては目立つ。
だがベースの音は重低音マックスで、流れるようなベースラインが鳴り響いていく。
ーーあの野郎、目の前にいる女だけにアピールしても意味ねーだろうが。
そう思いつつも、俺は成瀬が弾くベースにギターの音を重ねている。
あいつの弾くベースにはなにも不安はない。成瀬の人格に信頼はないが、そのベースセンスは絶対の信頼がある。
バンドを組むと決めた時、俺のバンドにはあいのベースしかなかった。
それくらい、成瀬のベースは本物だ。
ド派手なパフォーマンスに、観客が沸いている。
「はっはっは! どうだ、仙道! 俺様はクールだろ?」
ーーああ、そうだな。おまえはライブで弾いている姿が、一番クールだよ。
俺の弾くギターが負けじと勢い良く鳴る。それが話す成瀬に向けての返事であった。
二曲目も終盤に近くなり、そろそろギターソロがやって来る。
俺は歌いながら、頭の中でギターソロを確認していく。
小野寺の叩くドラムビートに、成瀬のベースライン。すべてが完璧な演奏に、俺の弾くギターソロは失敗する訳にはいかない。
ギターのネックを押さえている手の力が、強く重くなる。変な緊張感が生み出されているようだった。
上手くソロを弾けるか。成瀬たちの演奏に恥じないようにできるのか。そんな不安も感じる。
ーージャララン! ジャカジャカ!
そこにホッとするようなギターサウンドが横から鳴っていた。ディストーションの歪んだ音の中に、どこか優しい温かみがある。
もちろんそんな音色を出すやつは一人しかいない。昔から俺と一緒にギターを弾いてくれていたシゲ。
初めは音に自信がなかったのか、いつもモタついたギターが目立っていた。
だが、いくつものライブを経験して今ではギターに迷いがない。ギターのレベルが上がって、俺たちのオリジナルソングを作るまで成長している。
しかしどんなに場数を踏んできてギターが向上しても、その優しいギターの音は変わらない。
俺のギターに寄り添うように、バンドのギターに厚みを与えてくれている。
ーーシゲがいなかったら、俺のバンドが存在していたかわからねぇな。
先ほどの不安や緊張感は、いつの間にかなくなっていた。
みんなの演奏に後押しされているような気がして、ギターの弾く指が軽くなる。
最高に盛り上がっている今、俺はギターソロのパートを弾き始めた。
ギターをローからハイにポジションを変え、突き抜けるような高音が鳴る。
素早く弾く一音一音が、流れていくように走ってゆく。
みんなの弾くオケに合わさり、曲の雰囲気をさらに変える。
俺のギターソロに、聴く観客はさらにヒートアップしているように見えた。バンドのライブで一番の見せ所は、やはりギターソロだろう。
テクニックや弾くうまさだけでなく、いかに感情を込めたソロができるかが重要。
泣きのギターソロみたく、俺は歓声に包まれながら感情を爆発させるように弾く。
ーーすげえ、今までで一番盛り上げられているライブをやってる気がするぜ。
たくさんの観客の前で、俺たちは最高のライブをやっていると思う。
ーーワァァァァァ!
観客の歓声が、そうだと思わせてくれるから。
ギターソロも弾き終わり、もうじき曲が終わる。残り一曲で、俺たちのライブも終わってしまう。
疲労感はさらに増していくが、それ以上にアドレナリンが出まくっている。
「はあはあ……もうじきラストソングだな。指が動かねーぞ」
二曲目を弾き終わった後、盛り上がる歓声の中で成瀬がそう口にする。
「最後は新曲をやるんだよね。上手く……弾けるかなあ」
「体力的にも限界だろ。このテンションの中で、フルパフォーマンスは無理じゃねーか?」
バンドとオーディエンスが、最高にアガっている状態。だが、このテンションもまま新曲をやるような体力は残っていない。
「下手したらミスって冷めた感じで終わるとか、俺様は嫌だぞ。ここは曲を変えてコピーにするか?」
「けど、今日のライブのために作った新曲だし……」
予想以上の疲労と、予想外の反響。
このまま手慣れたコピーで妥協するか、失敗を恐れず新曲をやるか。そんなものは俺にとって、どうするか決まっている。
シゲたちの話を黙って聞いていた俺は口を開く。
「新曲をやるぞ……! たとえ、演奏を間違っても曲をめちゃくちゃにしようが関係ねぇ! 疲労でぶっ倒れようが、オリジナルでやるのがロックってもんだろ」
そう。俺たちはロックンロールバンドだ。やるからにはロックな気持ちでやるのが、観客に対する姿勢。
「だあああ! おめえは本当にクソッタレな野郎だな!」
「ははは……それが晴君のロックなんだろうね」
「どうなってもしらねーからな! まあ、俺様は完璧にこなすけどよ」
成瀬はそう言って自分の立ち位置に戻る。
「晴君。もし、失敗しても恨まないでね?」
「ああ、オリジナルでやるんだ。失敗してもロック魂で弾けばいいさ」
届けたいのは曲だけではない。俺たちのロック魂を感じてもらえればバンドとすれば本望。
俺はドラムセットにいる小野寺に合図を送る。
残るラストソングは新曲。初めて人前で演奏する曲。
どう反応するかは不透明。最悪、失敗してグダグダになる可能性もあるだろう。
「次がラストの曲です……まだ誰にも聴かせていない新曲だ」
それでも、俺たちは最強のロックバンドとしてライブをやる。ビビってオリジナルをやらないなんて、ロックじゃないから。
「いくぜ! 新曲……ロックンロールデイズ!」
俺はマイクに向かって叫び、勢いのままギターをかき鳴らす。
そして演奏が始まると、あれほど降っていた雨が消え去っていた。




