第74話「とあるハプニングからの決意の再開」
ライブ会場には、降る雨の音より俺たちの演奏のほうが大きい。それに観客からの歓声も増えていく。
雨に負けず、懸命に弾いている姿を見たからだろうか。
ーーなんか、同情から盛り上げてやってる感があるみたいだが、まだこれからだぜ。
俺は一曲目のBメロを弾きながら、そう思いつつ必死に歌う。
バンドの曲をこの場にいる全員に響かせなきゃ、最強でバンドとはいわない。
ギターの弾く指が、勢いよく動いては揺れる。
ーーギュワンァァン!
何度も練習を重ねてきた俺のギターは、ミスなどない。完璧に弾きこなせていた。
シゲのギターや成瀬のベース。そして、小野寺が叩くドラムの音をきちんと聴き合わせる。
それはみんなも同じで、もう音のズレやリズムが乱れることはなかった。
楽器の音が一人歩きすることなく、曲は俺たちが納得できる形になっていく。
「……なんか、いい曲じゃね?」
そう思っている知らない人からの視線を感じた。徐々に似たような雰囲気で、さらに観客がアガっているのを肌で実感する。
ライブハウスで感じたあの独特な雰囲気が、会場から作られていくようだった。
ーーワァァァ! ヒューヒュー!
気がつけば、まるで夏のライブフェスにある熱気が出来つつあった。
俺たちは目線を合わせながら、その歓声に応えようとする。
まだ一曲目にも関わらず、エンジン全開で演奏していった。
「はあ……はあ。えー、次の曲はですねえ」
曲を弾き終わり、二曲目が始まる。
その前に、軽いMCを入れた俺は息切れしながらマイクに向かって話す。
すでに汗だくな状態になっている俺の息づかいがスピーカーから漏れていた。
「大丈夫? 晴君……なんか、辛そうだよ」
「はあ、はあ……そういう有本もかなり疲れている顔してんじゃねーか」
「それは成瀬君も……でしょう? はあはあ」
横にいるシゲたちの会話が耳に入ってくる。
全力で弾き切っていたからだろうか、俺と同じように息が荒いようだ。
「うむ……熱が入ってしまったようだな」
後ろのほうでドラムを叩いていた小野寺が、こちらに近づいてくる。
「おまっ! なにしてんだよ、ドラムの位置にいたんじゃねーのか?」
いきなり現れた小野寺に、俺はそうマイクに声を出してしまった。
ーーザワザワ。
なにが起きたかと、観客がザワザワし始める。せっかく、盛り上がってきたのに。
「いや、あまりにも力を入れすぎるてな。バスドラムが壊れてしまったんだ。今、スタッフに新しいのを交換してもらっている」
「おめえ……どんだけ、馬鹿力で叩いていたんだよ」
見ると、急いでスタッフがドラムセットを組み直していた。
「とりあえずハプニングってことじゃね? 仙道、おまえがMCで時間を稼げ」
「うむ! その間、我々は呼吸を整えておこう」
「……おまえらなあ」
MCで時間を稼ぐといっても、長くて数分が限界。長引くほど客が冷めていくのは、よくあること。
それをいかにして、変えずにいるかが問題だ。
「まあ……なにか、話すしかないよ。頑張って! 晴君」
シゲまでも俺に丸投げしている。
ーーこうなりゃあ、なんとかするしかねえか。
俺はマイクを手に持ち、観客がいるほうへ向き直す。
「えー、今……機材トラブルで演奏が止まってしまったんですがあ」
ひとまず機材トラブルが起きたことにして、観客に説明し始める。
雨のせいだの、機材が濡れていただの適当に話すが間が持たない。そんな説明は、一分もかからないのだ。
最初は俺の話に納得するような雰囲気だったが、次第に空気が冷めつつある。
演奏が始まらないことってことは、客からしたらシラけてしまうだろう。
何人かのグループが、公園から去っていくのも見えてきた。
「今日は俺たちのバンドが一番すげえライブをやるって決意して、ライブを開催しました」
唐突に、今日のイベントをなぜやるのか話し出す俺。
岩崎が率いるギャルゲーソングが、俺たちのオリジナルより勝っているかもしれない。
こんなすげえ曲を演奏して、CDに入ることができるバンド。その悔しさから、対バンを申し出たことを話す。
「おい、仙道はいきなりなに語り出しちまったんだ?」
「お客さんは高村さんのバンドがメインだと思っているからじゃないか?」
「たしかに……イベントの目的が岩崎さんたちと対バンをやろうとしただなんて、みんな思うわけないよね」
「あいつは自分が一番じゃねーと気が済まないやつだからなあ」
横でヒソヒソ話しているみんなに構わず、俺は話を続ける。
「最強のバンドになって、最高のライブをやる。それが、俺たちの原動力なんだ……けど」
最強最高のバンドは、なにも俺たちだけじゃない。岩崎たちだって間違いなく最強のバンドだろう。
やつらがどんなライブをやるかは、まだわからない。けど、今日のライブはそんなすげえ最高なバンドがライブをやっていく。
こんな雨の中、最悪のコンディションでもそんな最高のバンドがやるライブを楽しんで欲しい。
俺たちのバンドがその導火線になればいいと、演奏していく中で思っていた。
俺たちがではなく、みんなでだ。
「俺らのライブを終わっても、まだ最強なやつらが最高のライブをやるんで皆さんで盛り上げていきましょう!」
そうマイクに向かって俺は叫ぶ。
「よくわかんねーけど、おまえらのバンドもよかったぞー! まだ一曲しかしてねーけど」
静まり返っていた会場から、誰かがそう俺たちに答える。そして、そうだと言わんばかりに、歓声が再び大きくなっていった。
「おいおい、曲紹介とかすんのかと思ったら他の連中を褒める話にすり替わってんぞ」
「まあまあ成瀬君。けど、晴君が他のバンドを最強って言ったのは初めてだね」
「どこにそう心変わりする要素があったよ?」
「バンドのライブは、人を変えるなにかがあるのではないか? それに、タイミング的に良いだろう」
小野寺はそう口にした後、ドラムが置かれている場所まで戻っていく。
ーードン! ドッドッ! ヅンッ、ダッダ!
そしてドラムの感触を確認するように、ドラムを叩く音が聴こえてくる。
「あの野郎、一人でなにかっこよくドラムを叩き始めてやがるんだ! よーし、俺様も」
成瀬は悔しそうにベースを構えると、ボリュームを上げて弾き出した。
ーーあいつら……勝手に弾き始めやがって。
そう俺が思っていると、シゲまでもギターを弾こうとしている。
会場にはドラム、ベース。そしてギターが再び鳴り響く。
みんなが弾いているものは、聴けばすぐにわかった。
「それじゃあ、俺たちのライブを再開するぜ!」
俺は先に演奏されている音に合わせて、そうマイクで叫んだ。ギターを構え直し、押さえたコードを力強くはじいた。
それは次にやる二曲目。
俺たちのライブが、再び幕を開けた。




