第73話「雨天のファーストソング」
悪天候の中、俺たちにライブが始まる。
雨が降っているけれど、俺はマイクスタンドがある真ん中へ歩く。
出てきた時の歓声はなく、雨が地面に当たる音が目立っていた。
しかし、正面を見ると大勢の人たちが集まっている。その数はライブハウスでやった時よりも、はるかに多い。
ーージジジッ! ジィィィィ!
「あっ! ノイズが走っちまった」
ケーブルをギターに繋げようと刺したら、おもいっきりノイズがアンプから出てしまった。
耳障りなノイズが、でかい音で会場に響く。
「大丈夫、晴くん?」
「あ、ああ……けどノイズが出るってことは、機材は壊れてないな」
心配して駆け寄ってきたシゲに、俺はそう口にする。
あれだけ雨に濡れていた音響機材も、なんとかなっていた。
透明なビニールシートがかかっているアンプを見ながら、俺は改めてマイクスタンドの前を向く。
ちょいとしたハプニングがあったのか、緊張らしい緊張は体から感じられない。
むしろ、この状況でも最高のコンディションな気がしてきた。
「なにやってんだよ……いきなり、かましてくれやがって」
すでにベースを構えている成瀬は、呆れながら俺を見ながら話す。
ーードドッ! カッカ!
後ろのほうで、奇妙なドラムの叩く音が聞こえてきた。どうやら、小野寺がドラムで俺に大丈夫かと伝えているようだった。
俺はそんな小野寺に手を振り、大丈夫だとジェスチャーで返した。
俺たちにやりとりに観客がガヤガヤとし始める。
「ちっ……ほら! おまえら、自分の立ち位置に戻れや」
近寄っているシゲたちに、俺は戻るように指示した。すると、戻る途中に成瀬が振り返る。
「……仙道、やるからにはかませよな」
いきなりの言葉に少し驚くが、俺はニヤリと笑って答える。
「当たり前だろ。おまえも、今日は最高にカッコつけろよ」
俺の返事に成瀬もニヤリと笑うと、自分の立ち位置へと戻っていった。
ーーわかってるさ、俺たちは最高のライブを今からやるんだからな。
ギターを構え直してマイクに口を近づけ、俺は観客がいるほうに話し始める。
「どうも! ロッケンローラースターズの仙道っす」
そう軽い自己紹介をする俺は、ライブに来てくれたことへの感謝を述べる。
だが、そんなものより伝えたいことは一つ。
「俺たちは最強最高のロックバンドになる! 今日はそのライブを見せていくぜ!」
突然の宣言に、観客はキョトンとしているがそれは今のうち。
俺がみんなに合図を送ると、小野寺のドラムロールが鳴り響く。
「まずは一曲目、BADBOY! GOODLOVE!」
曲名を叫んだ後、俺は勢いよくギターをかき鳴らし始めた。
ーーギュワァァン! ジャラランー!
曲のイントロがでかいアンチから、爆音で鳴る。それに加えて、みんなの鳴らす音が混ざっていった。
俺はその音に合わせて、マイクに向かって歌う。疾走感が溢れ出るオケに、俺の歌声がうまいくらいに乗る。
雨が降ろうが機材が完全とはいえない環境でも、おかまいなしだ。
ただ、俺たちが奏でる最高のオリジナルを観客に届けたいだけ。
ライブがスタートしたばかりか、まだ観客は盛り上がりはみせない。
ーーやはり、始まっていきなりは盛り上げれないか。
観客はライブが好きな人たちばかりなのだろう。まずは様子見。そう思わせるような、場の雰囲気だ。
しかし、歌っている俺の目線に曲を聴き入っている人が少なからずいた。その人には、俺たちの音楽が伝わっている。
ーーへっ! まだこれからだぜ!
以前は場の雰囲気にのまれてしまって、力を出し切れていなかったが、今は違う。
俺の弾くギターの音色は、乱れることなく走り続けていた。
もちろん俺だけではない。懸命に弾くシゲのギターや横でカッコつけながら弦をはじく成瀬。
ドラムの叩く音が次第に迫力を増していく、小野寺のドラム。
みんなの演奏する音が、どれも最高なものだ。
会場にいる観客に臆することなく、自信を持ったパフォーマンスをしている。
ーーザワザワ! ガヤガヤ!
曲のサビに入ろうとした時、会場がざわついてきた。
やっと俺たちのバンドが受け入れられたのかと思ったが、それは違った。
雨の降る量がライブの始まる頃より、増してきたのが原因かもしれない。
やたら観ている人はステージではなく、真上を気にしている。
ーーどうしよう? みんな、演奏より雨が気になっているみたいだよ。
隣でギターを弾いているシゲが、目線でそう訴えかけてくる。それに加えて、スピーカーの音より、雨の音がやたら強くなる始末。
ーーくそ! せっかく、曲の盛り上がりどころてあるサビが来るのに。
このままでは、バンドより雨が印象に残るイベントになってしまう。
「がっ、がんばれー! 仙道くーん」
俺が悔しそうにしながら演奏していると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
声がしたほうへ目をやると、かなでか観客席の真前で俺にさけんでいた。いきなりの叫び声に周りにいる人たちが、かなでを見ている。
ーーかなで……なにやってんだ、そんなことしてたら恥をかいちまうぞ。
明らかに知り合いの売れないバンドマンを応援するファンみたいで、知らない人からしたら痛いやつに見えるだろう。
それでもかなでは構うことなく、頑張れと叫び続ける。かなでの隣にいる上原が、俺をじっと見ていた。
ーーあんた、かなでがここまでしてるのよ? わかっているんでしょうね?
そう目で言っている上原。
こんな悪天候で、音響機材も決してよくない状況。にも関わらず、かなでは負けずに大声で声援を送っている。
ーーああ、そうだな。俺は……いや、俺たちは、最強のロックバンドになるつもりなんだ。
俺はシラけていた顔を変えて、ギターを握る手の力を強くする。
かなでにこれ以上恥をかかせるわけにはいかない。あいつの応援に応えなければならない。
サビへと突入すると、俺は練習の時よりも声を上げて歌う。雨だろうが、俺の熱いロック魂の炎は消せやしない。
俺のボーカルについてくるように、みんなの弾く音が次第に大きくなっていく。
その姿を見ていた他の観客も、反応するように盛り上がりを見せ出した。
まだこんなものじゃない。これからさらに盛り上がらせていく、
雨が降る中、俺たちのライブはまだ始まったばかりだ。
さあ、最高のライブはこれからだ。




