第71話「遅刻なリハーサル!」
ライブが始まるまでの数時間。俺たちは、公園に来た人に出くわしても気にせず練習をしている。
「なんだよ……これ、かなり恥ずかしいじゃねーかよ」
ベースを弾きながら、成瀬は恥をかいているような顔をしてそう口にする。
ーーパンッ! パンッ! チャリーン。
ドラムセットがない小野寺が、タンバリンと木魚を使った音がこだましていく。
アンプもないギターの生音や、マイクなしの生声で歌う俺。
他所から見たら、それはまさにシュールな光景に見えるだろう。
「……ひそひそ」
目の前を歩く、なにも知らない人たちから冷ややかな視線やコソコソした声が聞こえてくる。
ーーまあ、たしかに恥ずかしいな。
成瀬が言うように、最初は練習に気合いが入っていたが徐々に恥ずかしくなっていった。
「つーかよ、今何時だ?」
「えっとね。今は午後の三時を過ぎたあたりかな」
時間を気にする成瀬に、シゲは今の時刻を告げる。ライブまでは、まだ時間に余裕があった。
「よし! このまま練習をやり続けるぞ」
「はあ? 少しは休ませろや。ぶっ通しでやってたら、本番じゃあヘロヘロになるぜ」
「それより、高村さんたちの手伝いはしなくていいのかな……」
「いいんだよ! 勝手に仕切ってんだから、準備もやつに任せておけばよし!」
バテてる成瀬を叩き起こし、心配そうに話すシゲに俺はそう答えた。
高村の手伝いなど、なにをさせられるかわかったもんじゃない。それならば、ここでみっちり練習をして本番に備えるがベスト。
そう考えた俺は、みんなに練習を再開するように言う。嫌々ながらも、全員が楽器を構え直して練習を始めた。
ーー二時間後。
「やばいぞ! リハの時間に間に合わねーよ」
「仙道! おまえが練習練習ってやらせてたから時間を忘れたんじゃねーか!」
リハの開始まで数十分。
すっかり練習に没頭してしまい、リハの存在を忘れていた。俺たちは急いで広場のステージがあるとこまで走る。
「しかし、なぜこんな距離があるところで練習などしたのだ?」
「はあはあ! 晴君のことだから、隠れて練習したかったんじゃないの?」
「シゲ、小野寺! しゃべってないで走れ! 間に合わねーだろう」
猛スピードで道を走り、ライブ会場の芝生公園を目指す。
広場へ着くと、すでにステージは完成されてかなりの大きさになっていた。
ライブのスタッフだろうか、周りには大勢の人が準備に追われているみたいだ。
「あっ! 遅いぞ、おまえら! 岩崎君たちはもうとっくに来ているんだぞ」
高村がいるところに岩崎たちが集まっていた。
「よう。もうおまえらは来てんだな」
「仙道……」
遅れてしまったことを隠しつつ、冷静を装いながら岩崎に声をかけた。
「今日のライブは大丈夫なんだろうな? まさか、びびってねーよな」
「びびってなんかいないよ……それより」
肩で息をしている俺を見ながら、岩崎はなにか言いたそうにしている。
「今、来たのか? もうリハーサルが始まるのに遅すぎじゃないの?」
「ふ、ふん! 別にいいだろ。リハに間に合えばいいんだからよ」
「僕らは早めに来て、高村さんの手伝いをしていたんだよ」
「手伝いだあ? そんなもんは高村だけにやらせればいいんだよ」
高村の手伝いをしたと話す岩崎に俺がそう答えると、横にいるシゲから視線を感じた。
「やっぱり、僕らもなにか手伝いをしたほうがよかったんじゃないかなあ」
「……する必要はもともとないんだよ!」
「岩崎さんたちは、率先してしていたのに……」
シゲの声が次第に申し訳なさそうなか弱いものになる。まるで、俺の判断が間違っているかのような雰囲気を醸し出していた。
「まあ無事にステージは完成したし、マイクテストもバッチリだ。それより、今日のライブの流れだ」
そう言って高村は俺たちに一枚の紙を差し出す。紙にはこれからのタイムスケジュールが書かれていた。
俺はその中でとある箇所で目が止まり、驚愕する。
ーーファーストバンド。ロッケンローラースターズ。
つまり、今日のライブでやる一番手は俺たちのバンド。納得がいかず、俺は高村に向かってさけんだ。
「これはどういうことだ、高村ぁぁ! なんで、俺たちが最初なんだよ!」
「ああ? 順番は俺があみだくじで割り当てたんだよ」
「わけわかんねー決め方で、演奏順を決定してんじゃねーよ! 俺たちが、このイベントの発案者だぞ」
俺が岩崎たちとライブをやりたいと言わなければ、ライブイベントは生まれなかったはず。それなのに、この仕打ちはないだろう。
そう高村に悪口も含めて叫んでいると、高村の眉間にシワが寄る。明らかに機嫌が悪くなってきている。
「だぁれがこの大規模なイベントにしてやったんだああ? 場所の貸し、告知や集客はどこの誰がしてくれたのかなあああ? ねえ、仙道君よぅ」
「……ぐっ、ぐぬう」
迫る高村にそう言われた俺は、なにも言い返せない。こいつがいたから、野外コンサートライブができるのだ。
「とにかく一番手はおまえたちだ! やるからには、最初だろうが全力でパフォーマンスをしろ。そうだろう?」
「ああ……その通りだぜ」
今日のライブで、俺たちは最高のパフォーマンスを見せる。それがどんな順番になろうが関係はない。
高村の言葉に、俺はそう納得する。
「これからまず仙道たちのリハ。その後に岩崎君、俺のバンドの順番だ」
「すみませーん! そろそろ始めたいので、ステージに上がってもらっていいですか?」
俺たちが話をしている途中、スタッフからそう声をかけられる。
「……よし! やるぞ、みんな」
「うむ。まずは、リハで存在をアピールせねばな」
「誰にアピールすんだよ。俺様のベースプレイを最初に見れる客はラッキーだな」
「いいライブができるように頑張ろうね」
みんながそれぞれ言いながら、スタッフの後についていく。
いよいよライブに向けたリハが始まる。
「ん? なんか、雲が出てきたな」
ステージに立ち、なにげなく空を見上げると先ほどまで晴れていた空が曇っていく。
「そうだね……雨が降らなきゃいいね。もし、降ったら大変」
屋根がないステージに、あちらこちらに置かれている音響機材。水に濡れたら、壊れてしまうのは必須だ。
「まあ大丈夫だろ。それより、早くエフェクターをセッティングしようぜ」
特に気にすることなく、俺たちはそれぞれ音作りをしていく。
「それじゃあ、軽く演奏してみてくださいー」
遠くのほうで、PAさんがマイクで俺たちにそう話す。ステージの近くで、岩崎たちが俺たちのリハを見守っていた。
ーー見てろよ、岩崎。リハでも、俺たちのすごさを感じるがいい。
俺がこちらを見る岩崎に視線を送り、そんなことを考えながらピックを手に持つ。
「よーし! それじゃあ、いくぜ!」
それぞれの立ち位置にいるシゲたちにそう声をかけて、さっそくギターの弦をはじこうとする。
思いっきり手を振り下ろそうとした時、それは起きる。
ーーザアァァァ!
いきなり、大きな音を立てて大雨が降り出した。
俺たちのバンドに対する試練かのような。そんな雨だ。




