第65話「セッションタイム!仙道アンド岩崎」
改造されたマイギターで試し弾きをしていると、岩崎が目の前にいる。やつも楽器屋に用があったのか、肩にはギターをぶら下げていた。
「なんだ、おまえもここの楽器屋に来るのか」
ギターを弾く手を止め、俺はそう尋ねた。
「え? あ、ああ。まあな」
いきなり話しかけられて少し驚いたのか、岩崎は声を詰まらせながら話す。
ーーそんなに、ビビることはねーだろ。
俺の見た目を恐いと感じているみたいで、オロオロしていた。ギャルゲーソングをバンドでやるくらいなんだから、もっと堂々としていればいいのに。
この手のオタクは、他人とコミュニケーションが乏しいって話は本当のようだ。
「いらっしゃい! 今日はなにをお探しで?」
「えっと、新しいギターを購入しようか迷ってまして……」
店員は岩崎に気がつくと、お決まりのフレーズで対応し始めた。
どうやらギターが壊れたらしく、新しいギターにするつもりらしい。
ーーへえ、一応ギターにも気を遣ってるんだな。
岩崎たちのやりとりを横で見ながら、俺はそう関心する。ギターコーナーに案内された岩崎は、店員と共に去っていく。
「ふん! まだ使えそうなギターじゃないか、新しいギターにするなんてもったいない」
俺みたく、改造すれば違った発見ができるのにあえて新しいギターにする。それは、決して岩崎がうらやましいわけではない。
「ただ……あいつめ、どんなギターにするつもりなんだ?」
ギターをやっていると、どうも他人が持つギターに興味が湧いてくる。ましてや、相手は対バンするバンドのメンバー。
どんなタイプのギターを選ぶのか、どんな演奏スタイルなのかも知るには絶好のチャンスだ。
すると、店員と一緒に岩崎が試奏コーナーに戻ってくる。店員は一本のギターを手に持っていた。
「……へえ、セミホロウタイプのギターか」
そのギターはセミホロウと呼ばれるタイプのギターで、今どきのやつが選ぶには珍しい。
「あ、ああ。中古コーナーで見かけて、いいなって思ったんだ」
俺の声に気がついた岩崎は、そう言ってギターを店員から渡される。ギターを少し眺めた後、アンプに繋げた。
ーージィィィィ!
ボリュームがマックスまで上げたせいか、ものすごいノイズが走った。
「うわ! ノイズがでかい……」
「そりゃあ、おめえがフルテンにしたからだろ。ましてや、中古ギターなら状態が心配だ」
俺は岩崎にボリュームを少し下げさせ、改めて音を鳴らすように話す。そして、岩崎は軽く弦をはじくとハムバッカー特有の太い音が鳴った。
ーー意外に悪くない音だな。安っぽくないし、生音も良さそうなギターだ。
中古とはいっても、そこらへんのギターと比べても質は高く思う。
岩崎もその音色が気に入ったのか、満足そうな顔をしていた。
「せっかくだからよ、少し一緒に弾こうぜ」
なにを思ったのか、俺はついそんなことを提案する。やつがオタクとはいえ、ギターをやるもの同士がゆえにセッションがしたくなったからだ。
「……え、なんで」
「いいじゃねーか! 二人ともギターを持ってんだしよ、遊びだよ遊び」
突然の提案に戸惑う岩崎に構わず、俺もギターをアンプに繋げる。
セッションをやろうと思っていたのだが、岩崎はオタクが聴く音楽以外をわかるのか疑問に思った。弾こうにも、お互いに知っている曲でなければ合わせることは難しい。
とりあえず、俺は岩崎にどんな曲が弾けるのか尋ねてみることにした。
「おまえ、海外の曲とかわかるか? 例えば、ニルヴァーナとか」
数多くいるアーティストの中で、あえてニルヴァーナの名前を出す。単に俺が弾きたいだけでもあるが、ギターをやるやつならその名前くらいはわかるだろう。
最悪、わからなければ俺がコードを教えるのもアリだ。
「……スメルズなら、一応できるけど」
岩崎はニルヴァーナでメジャーな曲のタイトルを口にする。まさかと思ったが、やつは曲を知っているみたいだった。
「なんだ、知ってんじゃねーか! なら、それをやろうぜ! 俺、あの曲が好きなんだよ」
知っていたことに気分を良くした俺は、そう話すとギターを構えてコードを押さえる。
ーージャージャン! ジャカジャラ、ジャージャン!
まず、俺はスメルズのイントロを一人で弾く。新しいピックアップに変わり、前に弾いた時より歯切れがいい音が鳴る。
何度かループさせて弾いていると、そこに岩崎がギターを鳴らして合わせてきた。
ーーへえ、きちんと曲を知ってるやつが鳴らす音を出せてるじゃねーか。
タイミング良く、重ねて弾く岩崎を見ながら俺は感心する。正直、上手いなとも思えるくらいだ。
俺は仙道が弾くギターの音色に居心地の良さを感じながら、負けじとギターをかき鳴らす。
試奏コーナーでは、俺たちが弾くスメルズが響き渡っていた。
「ふう! やっぱり、ギターは楽しいな!」
セッションに満足した俺は、岩崎に向かってそう口にする。
「ああ、そうだな」
「おまえのギターは悪くないセンスだ。だが、俺のほうがすごかっただろう?」
つい気分の良さから、俺はそんな風な口ぶりで岩崎に言葉を返した。やつは、不機嫌になるわけでなく黙ってうなずく。
しかし、岩崎のギターセンスが悪くないのは本心だ。丁寧な弾き方でも、きちんとパワフルな音を出せていた。
いい好敵手だと、確信する。
「さて、俺はそろそろ店を出るか」
きっと岩崎は今以上にギターを仕上げてくるに違いない。そう思った俺も、さらに練習が必要だ。
ギターをケースに戻し、俺は立ち上がってた。そして、岩崎のほうへ振り向き俺は思ったことを口にする。
「おまえ、そのギターを絶対に買えよ? きっと、おまえが弾く曲をさらに変えさせてくれるだろうよ」
「え? 僕らが弾くギャルゲーソングを聴いたのか?」
俺の言葉に驚いた岩崎は、そう尋ね返した。
たしかに、あれから俺はこいつらが弾く曲の動画やら、CDを聴きまくった。
最初は気に入らないと思っていたが、何度も聴いていくと曲のアレンジに度肝を抜いた。それは、俺を焦らせるくらいに。
「だが! 俺たちの弾くオリジナルが最強、最高だ! おまえらなんかに負けない」
俺は自分のバンドが一番だと、自信を持って言える。それを証明するために、対バンで勝負をするのだ。
「僕らだって、ギャルゲーソングの良さを伝えるために頑張っているんだ。負けないよ」
俺の言葉に岩崎は、その反論する。その言葉には、強い信念が込められているようだった。
ならば、俺たちがやるべきことはライブでお互いの想いをぶつけること。
岩崎の熱い想いを聴いた俺は、にやりと笑う。そして、俺はそれに返事をせず店を後にした。
「……へっ! 言うじゃねーか、あいつ」
オタクのくせに、バンドに対する気持ちは俺たちと同じ。
そうなんだなと思った俺は、新しく改造されたギターを背負って歩き始めた。




