第61話「オタクバンド登場!」
教室に入ってきたのは、まさに予想通りの姿をしたやつらだった。
おかっぱ頭のやつがいれば、小太りなやつ。それにガリガリなメガネやら。
誰がどうみても、趣味がオタク臭い。
「いやあ! まるで、ギャルゲーの学園みたいですな! 聖フロイエル学園って名前は」
おかっぱ頭の野朗が教室に入ってくるなり、テンション高めな声でそう口にする。
ーーこのおかっぱ野郎、なに言ってやがんだ。
いきなりわけがわからないことをぬかすおかっぱ頭野朗に、俺は眉間にシワを寄せる。
「えっと……今回、こちらのお願いを聞いてくださった音楽研究同好会の皆さんで」
シゲは明らかに不機嫌な俺を見ながら、冷静を装いつつ紹介していく。
そう話す間、座っているオタク共は俺たちの顔を見ながらひそひそとしていた。
「……シゲ、本当にこいつらが動画に写ってたバンドなのか?」
「そうだよ? ほら、晴君も何回も動画を見てたでしょう?」
ーーどう考えても、バンドマンには見えない。
本当に、こいつらが動画で見たライブをやったのか。そして、CDに入っていた曲を弾いたのか疑ってしまう。
俺はそう思いながら、じっと睨みつける。
「……あの見た目で、バンドマンなわけないだろう」
正面に座っているやつが、ぽつりと口にした。それを聞いた俺は、カチンときてさけぶ。
「んだと、この野朗! 俺たちのどこがバンドマンじゃねーだと?! 見た目で決めんじゃねー!」
「いや……仙道、おまえがそれを言うのか?」
隣に座る小野寺は、俺に小さく話す。
たしかにバンドをやるのは見た目は関係ない。熱いロック魂があれば、誰だってやっていいのだ。
だが、こいつらにはそんなロック魂を感じない。
「んん! 仙道さん……」
そんな俺を鈴谷先生はわざとらしい咳払いで、制止させる。
「とっ、とりあえず集まったことですし、お互いに自己紹介から始めましょうか」
シゲがそう仕切り直したところで、俺たちは互いに自己紹介をすることになった。
向こうのバンドメンバーは六人。こんな大人数で構成されたバンドは見たことがない。
そして、金本と和田ってやつがギターを担当するようだ。
ーーそして、こいつ。
「えっと……岩崎恭介です。担当はギターとリードコーラスです」
オタク連中の中で、一番普通っぽい見た目をしている岩崎。
ギターはいいとして、リードコーラスというわけがわからないパートを口にする。
「俺は、仙道晴樹だ。バンドのリーダーで、ギターボーカル」
そう俺は、そっけなく名前を言う。
全員が名前を言った後、和田が俺たちに向かって話す。
「それで、メールの内容からなんだけど……僕らとライブをしたいってことでいいのかな?」
「はい。僕らはまだそこまでバンドを組んで日が浅いんですが、みなさんの演奏動画やCDの曲を聴いて一緒にライブをやりたいなと」
シゲはそう丁寧な口調で、和田に答える。
「はん! あんなのはロックでもなんでもねー! ライブでおまえらを、コテンパンにしてなりたいだけだ。それになんだ、あの変な曲はよぅ!」
俺はそう挑発するような言い方で、話に割って入る。すると、それを聞いたおかっぱ頭の金本は勢いよく椅子から立ち上がった。
「なにが変な曲だ! ギャルゲーソングは、そこらへんのバンドがやる曲より神なんだぞう」
「うるせえ! キノコみたいな頭しやがって、ぶっこおすぞ!」
「ひっ、ひい……」
反論する金本に、俺は睨みつけてさらに威嚇する。
「晴君……これじゃあ、僕らが喧嘩をふっかける人に見えちゃうよ」
「はん! 喧嘩上等だぜ、シゲ。こんなやつら、俺たちのバンドが負けるわけないぜ」
俺はそう自信を持つように、言い放つ。
こんなふざけた連中が組むバンドなど、どんなすごい演奏をやろうが俺たちが勝つ。
ギャルゲーソングに、俺たちがやるロックが上に決まっている。
「ギャルゲーソングをやるバンドだって、すごいんだぞ……」
岩崎がそう話すが、その声には怒りが混じったような口振りだ。
「なにがすごいだ! ただのオタクしか聴かねー
マニアックなジャンルじゃねーか。ロックバンドの曲より、格下だろ」
「うるせー! 少なくとも、僕らはおまえらなんかより、いいライブができるんだ!」
「んだとぅ……バカ言ってんじゃねえ! 俺たちのほうが最高のライブができんだよ!」
俺と岩崎は互いに意見をぶつける。
それは自分がやる音楽に、絶対の自信がある表れだからだ。
そうであるならば、俺たちがやることは一つ。
「だったら、俺たちとライブをやるってことで決まりだな」
俺は岩崎にそう言うと、やつは答える。
「ああ、僕たちがおまえにギャルゲーソングの良さをわからせてやる」
岩崎の目からは、真っ直ぐで芯が強い意志を感じる。
ーーいい目じゃねえか、そこはバンドマンらしいぜ。
俺はニヤリと笑うと、席を立つ。
「なら話は終わりだ! 俺たちは、これから練習があるんでなあ」
「む? 仙道、これから練習ではなく、残りの授業ではないのか?」
「……練習だよ! 授業なんか受けてる場合じゃねえ、ほら行くぞ!」
小野寺と成瀬に声をかけ、教室を出ようとする。すると、ずっと大人しくしていた成瀬は椅子に座ったままだった。
「おい、成瀬! 要件は済んだから行くぞ」
「……君、かわいいね。よかったら、俺と連絡先を交換しないか?」
そう話す成瀬は、向こうのメンバーである女子に声をかけていた。
「んなところでナンパなんかしてんじゃねー! ほら、行くんだよ!」
俺は成瀬を強引に引っ張って、引きずるように教室の扉まで移動する。
「シゲ、後は任せたぜ! 先生も」
「こら! 仙道さん、勝手に退室しないで……」
先生の呼び止める声を聞かず、俺たちは教室を後にした。
「……仙道、あれでは打ち合わせになっていないではないか」
「とりあえず、どんなやつらかわかっただけで充分だ。クソ真面目な打ち合わせなど、やってられるか!」
ライブをやると決まった以上、俺たちは練習をこなして最高のライブをしてやる。
「パッと見た感じは大したことなさそうだけどなー! ベースのやつも、なんかダサい感じだったぜ」
余裕を見せる成瀬はそう言いながら笑うが、すでにベースを弾こうとする雰囲気を出している。
見た目はオタクだが、なにかしら感じとったように俺は見えた。
「それに、あの岩崎ってやつからバンドに対する闘争心が見えたぜ。オタクのくせに……いい目だ」
それは高村や他のバンドにあるような、音楽と真剣に向かい合っているやつが見せるもの。
ーー今回の対バンは、なにか特別なものになるに違いない。
岩崎たちを見た俺は、そう思いながら気分が上がっていく。早くライブがやりたいと、胸が踊る。
やつらに負けないために、俺たちは練習を始めるのだった。




